偽りの身分 更なる出会い
クレープ屋さんを出た後も、私はミナにあちこち連れ回された
雑貨屋さんでお揃いのブレスレット(料金は私持ち)を買ってみたり、可愛いサラちゃんみたいなドラっ娘のぬいぐるみを衝動買いしたり、
全てが新鮮で全てが楽しかった
私達は遊ぶのに夢中で気付けばリクスさんとの待ち合わせの時刻が迫っていた
辺りは次第に暗くなり、夕暮れ時の人並みは昼間がまるで嘘の様に少なくなっており、周りには誰もいない
次はどこに行く?と、はしゃぎながらさっきの雑貨屋さんで買った抱きしめると「ケイヤクして」と喋るぬいぐるみに何度もヘッドロックをかけている
「みーちゃん、悪いけどもうそろそろ帰らないと」
「えー‼︎アリシィ帰るのー?やだやだ!」
まるで子供の様に駄々をこねるミナ、私も彼女との別れは惜しい こんなに楽しかったのは生まれて初めてだったから
「ゴメンね、みーちゃん 、みーちゃんだって帰らないとご両親が心配••••••」
「あんな奴オヤジじゃない‼︎」
ミナの表情が一瞬で強張り睨む様な目つきになる
私は言葉を遮られ えっ? と、しばしの沈黙が2人を包む
「••••••ねぇ、お願い?ずっと一緒にいてよ••••••やだよ••••••帰りたくない」
うつむいたまま下を向きそのまま顔を上げようとしないミナ
みーちゃん••••••私が声をかけようとした時、1人の怒号が私の言葉を遮った
「目標を発見したぞ‼︎」
そこには甲冑に身を包んだ屈強な男達がこちらに数人で走り寄って来る
はっきり言って異常な状況だった
私達は何もしていない、ただ買い物をして回っていただけで彼らには何の関わりも無いはず
しかし、ミナは違った
まるで怯えたかの様に明らかに体格が違い過ぎて隠れられていない私の後ろに回って震えている
「あいつら、私を狙ってるの!お願い!アリシィ冒険者なんだよね?助けて!」
ミナが喋り終わると同時に甲冑姿の男が私の数歩前まで歩み寄って怒鳴る様な声で叫ぶ
「おい女!我々の邪魔をする気か!」
とても大きな声に私は一瞬怯むがすぐに持ち直し毅然とした態度で対応、この人達はミナが狙いなのね、
「あ、貴方達!女の子1人に随分荒っぽいですね?」
「今すぐ立ち去ればお前の事は報告しないでおいてやろう、但し、阻むというなら覚悟してもらおう!」
脅す様に先頭の男が返す
「私は友達を怪しい人になんか絶対渡しません!」
男は下卑た笑いを浮かべる
「ハッハッハ!••••••後悔するなよ小娘!痛い目を見るぞ!」
3人組の男達は一斉に帯刀していた剣を抜いた、しかし構えはとらない
戦う気だ、でも彼らは本気で無い、きっと相手にならないと高を括り 油断しているのだろう
静かな怒りを感じた、私が女だからって本気を出すまでもないと思われているの?
悔しいような思いが心に広がる
リクスさんは全力で相手をしてくれたのに!
私が胸に手を当て魔法を練成する
青い旋風が私を包み込む、魔力の奔流だ
目に見える程の魔力の渦を見て男達とミナは驚き、目を見開いている
「安心してください、手加減しますからね?」
溢れ出る魔力を10分の1程度に抑える
旋風は消え失せ、代わりに私の手のひらに小さな蒼い魔力の種火が残った
揺らめくそれを握りしめながら先頭の動揺している男の鉄で出来た胸部プレートの装甲に一発をお見舞いする
「ウオオアァア‼︎」
刹那、男は苦悶の断末魔と共に遥か先まで吹き飛び 白目を向いて気絶した プレートには大きなヒビが入っている
「リクスさんの技はこんなもんじゃ無かったですよ?」
今、目の前で起こった事が信じられないのか残りの男2人は唖然としだらしなく口を開けっ放しにしている
「ま、ま、まぐれだ!何かの間違いだ!おい!2人で仕留めるぞ!」
我に返ったのか2人とも構え直し一斉に切りかかって来た
1人目の斬撃をするりとかわし、2人目の斬撃はデュランダルを抜き放ち刃で受ける
大丈夫、これくらいなら力負けしない!
ギリギリ!と刃と刃が削り合う音を出し徐々に男の方へ押し返す
「なんだよぉ!この馬鹿力は!う、動かねぇ⁉︎」
男の顔は脂汗でまみれ、色は真っ青になり震え出す
「クソ!女相手になに遊んでんだよ!どう考えたって楽勝だろ?」
「た、助けてくれぇ⁉︎押し切られる!止められねぇ!」
「本気で言ってるのか⁈こうなったら卑怯もクソもねぇ!」
事の重大さを理解したのか私が最初にかわした男が後ろから切りかかって来た
まずい!今は前の相手で精一杯!やられる!
キィン!
高い金属音が響き、男が持っていた鉄の剣が真っ二つになる
「大の男が寄ってたかってか弱い女の子を虐めるなんて••••••最低のクズね」
背筋にピィンと緊張と冷たさが混じる
戦っていたとは言え、全く気配を感じさせずに私の背後に回るなんて!
そこには水色のポニーテールの背の高い綺麗な顔立ちの女の子が水晶のような剣を持ち背後の男と対峙していた、しかし勝敗は明白だ
たった一太刀のもと頑丈な鉄の剣を男の心ごとへし折り這いつくばらせる
「そこの寝てるクズも連れて とっととゴミ箱に帰りなさい!」
「お、俺達に楯突いた事、後で謝ったって知らんぞ!覚えてろよぉ!」
2人の男達は伸びている1人目の男を担ぎ上げ一目散に逃げ出した




