偽りの身分 友達
クレープ屋さんに着くと早速彼女が店の前に駆け寄り
「私はスペシャルサンデークレープを食べたい!」
大きな声で高らかにそう宣言する
周囲の視線が彼女に刺さる
しかし、全くお構いなしに鼻歌を歌いながら、近くのテーブルに座りクレープが来るのを待っている
「あ、貴女は何食べるの?」
「え?えっと••••••チョ」
「スペシャルサンデーもう一つね!」
勝手に頼まれてしまった
「そう言えば、名前聞いてなかったね?なんての?」
同じテーブルに着いた私の顔を覗き込む様に彼女は身を寄せる
仕方なく私がボソッと呟く
「アリシア、です」
「アリシアかぁ、かわいい名前ね!アリシィって呼ぼ!」
「あっ、アリシィ⁈」
ビックリした、あだ名で呼ばれたのは初めてでどうしていいか分からない••••••それに、かわいいって
「私は超絶美少女な学生、ミナ!みーちゃんって呼んでね?」
この粗っぽい娘はミナと言うらしい
しかも、自分で美少女っていっちゃってるし、
互いの自己紹介を終えるとクレープ屋さんがクレープをテーブルまで持って来てくれた
「お待ち、二つで1640エンだよ」
た、高い‼︎お店のメニューの中で1番高いやつを頼んだの⁈
持って来たクレープを見るとプリンにチョコレートソースがかかったバナナとビスケットが刺さり更にその上からクランベリーソースがたっぷりかけられていて極めつけはその大きさだ
普通のクレープなら片手で持てる太さだがこのスペシャルサンデーは両手でないと持ち切れない
大きなクレープ屋さんの手だからこそ片手で持って来たが私の手じゃ持ち切れないだろう
「きたー‼︎超大きい!あ、私お金持ってないから支払いお願い」
「えぇ〜⁉︎お金持ってないのに頼んだんですか!」
そんな事は気にも留めない様子で夢中になってクレープにかぶりつくミナ
渋々、私の財布から2人分の代金を支払いズシリと重いクレープを受け取る
「すっごい美味し〜い!アリシィも食べなよ!甘ーいよ?とろけるよ?」
そう言われても、これだけ大きいとどこから食べて良いやら
かぶりつけ、 かぶりつけ
とミナがゼスチャーする、意を決してプリンの山頂にかぶりついた
美味しい!
プリンの甘さとクランベリーソースの酸っぱさが絶妙にマッチしてる!口の中でとろけて第一部楽章が始まる
そこにチョコレートソースのほろ苦さとクレープの生地のフワフワ感が入って来て 飽きの来ないハーモニーを奏でる
バナナとビスケットのシンフォニーも最高だし、それによく見るとプリンの奥の底にはと生クリームがたっぷり塗られたカステラとカスタードクリームが詰まったベビーシュークリームが入ってるぅ!最高のフィナーレに全身で歓喜した
これはお値段以上の価値がある
私はそう思いながら至福の時間を過ごす
あんなに大きかったクレープを私とミナはあっと言う間に平らげてしまった
「あぁ!スッゴイ美味しかったぁ!アリシィごちーそーさん!」
「はい、舌がとろけちゃいそうでした」
2人で最高の時間の余韻に浸る
「お金払ってもらってありがとう、うーん••••••そうだ!アリシィを私のお友達 第一号にしてあげる」
「お友達 第一号?」
私は自分の耳を疑った
「なに?私とお友達じゃ不満だって言うの?他にお友達いなきゃダメなの?」
ミナはむすっとして頬っぺたを膨らませる
「ち、違いますよ!ただ私もお友達がいなくて、初めてだから••••••」
戸惑った、無理もない
お友達になろうなんて言われた事が無かったから
••••••お友達
目の前で口元に生クリームを付けた金髪の女の子 ミナ
この娘が••••••私の初めてのお友達
「アリシィもお友達 出来たのって初めてなんだ?ますます私達 気が合うね?」
「うん、••••••よろしくね!みーちゃん!」
とっても嬉しかった、涙が出そうになって 寸前のところで堪えた
美味しいクレープを食べたからじゃない
ステキなドレスを見つけたからじゃない
私のずっとずっと長く長く続いて来た人生の中で初めて友達が出来たからだ




