暫定魔王2
少しづつ登場人物の紹介をしていこうと思います
ふと、昔を思い出す
俺の元に魔王採用試験の通知書が来たのは今から2年前、
そのころ日々強くなる為に鍛錬していた所だった俺にとってまたと無い好機だった
正直、応募した覚えなかったが••••••
通知書に書いてあった場所に向かうと予想とは大きく違った元魔王城が今にも崩れそうに佇んでおり、一人の全身黒い服飾に黒いドレスの女性がこちらに近づいて来て肩を叩く
その彼女から手渡された契約書には正にあり得ない事ばかり記載され しかもこれまた書いた覚えの無い俺の名前のサインが右下に書かれていた
1.暫定魔王として魔王業に従事する事
2.原則的に魔王城隣の一軒家に住む事
3.同居人とは親密にし毎月人数分の家賃を大家に納入する事
4.上記の事項を遵守しない場合速やかに魔王の職を辞職する事、なお職務を辞した場合の生命の保証は無い
以上の事項に同意します。リクス=ヴェルト
••••••騙された••••••しかし後悔はしていない
なぜなら俺の中では魔王は強者の象徴だったからで魔王をやっていれば自ずと強くなれると思っていた節があるからで、
「やってやるさ、最強の魔王になってやる!その為に遥々田舎から出てきたんだ!」
「頼もしいわね〜、じゃあよろしくー」
後の大家となる黒いドレスの女性、オズはそうして去っていった
これが俺の魔王生活の始まりである
一つ目の条件である魔王業と言っても世界を暗黒で包み込むとか、暴虐と殺戮の限りを尽くすとかいう悪い事ばかりではなくただ魔王として毎日を過ごせばいいだけ
二つ目の条件も住むだけなので特に問題無し。
問題は三つ目だった••••••
魔王城の隣にポツンと建つこの家大きさはそれほどでは無いがしっかりした造りの赤い屋根くらいしか特徴の無い
普通という表現がピッタリな木造の家、
なのは表面だけで家の床下には地下研究室がある
ここには二人同居という形で住んでいるがその話はまた後にしよう
それよりも問題なのが俺の家に住んでいる居候の方で••••••
「おはよーリクあたし、朝ご飯いらないからー」
「••••••今食ってるのは昼飯だ」
こいつだ、毎日昼まで寝ていて12時頃にやっと起き出してくるパジャマ姿の少女••••••ってか顔ぐらい洗ってこいよ
「ふえぇ、まだ眠いーおかしいなー睡眠はちゃんと8時間とってるのに」
寝癖のたった腰まである長い黒髪を数回掻いた後、いつものポジションである潰れてぺしゃんこになったウサギのクッションに腰掛けた
俺がここに来る前からこの家に住んでいて本人の話からするに家出して行く当て無く彷徨っていたらいい感じの家を見つけたから勝手に住んでた••••••らしい
理解できないのは何故大家に追い出されなかったのかという点とこいつの保護者が俺になっている点
死んだ魚のような目を瞬きしながら今日もテレビというものに向かい、透明な部分に映し出される映像を観ている
余談だが俺は周りの近しい人からはリクと呼ばれている、というかそうとしかほぼ呼ばれない なぜなら呼びやすいからだ
そういった意味合いから俺もこいつをクゥと呼んでいる
ってか本名なのかも怪しいが
「クゥ?おはよーじゃなくてこんにちはだよーいまはお昼ご飯の時間だもん!」
一際高い声で当たり前の事を諭す俺の向かい側に座って凄い勢いでご飯を書き込むこの幼女はクゥが家出の際に一緒に連れて来たペット?のサラ、まだ俺も本でしか見たことのない竜人族の子供だ
燃えるような赤い髪を短いツインテールに結び、くりくりと大きな瞳を輝かせてその小さな身体のどこに入っていっているか想像もつかない量の昼食を一度に口に頬張り満面の笑みを浮かばせる、
身体の大きさに比例する様に飛ぶには少し心許ない 竜の翼はサラの今の気持ちを再現せんとパタパタ羽ばたき周囲に風がそよぐ
なんだかんだで今日もいつもと変わらない日常が過ぎていく
無気力で堕落した毎日を過ごすクゥ
毎食毎食ごはん3杯はおかわりするサラ
怪しい研究をしている地下の2人組
俺は昼食を済ませると身支度を整えながら布地の鞘に収まった鍛錬用の無骨な木の直剣を肩から引っさげ家の隣の庭に出た
いつもこの剣を素振りしたり樹木に向かって打ち込んだりしている庭には剣が空を切るだけがこだまする
そういった意味ではこれもマンネリだ 2年ほど誰とも手合わせはしていない
「練習相手でもいればなぁ」
そう呟きながらも一心不乱に剣を振り続ける
俺が魔王になったのは間違いだったのだろうか?現状では魔王は名ばかりでただのお守役じゃないか
そんな事ばかり頭に浮かんでは慌てて払拭する、修行に雑念は禁物だ
次々生まれる悩みを払拭する為に俺はただ剣を振るう
そう、その日も変わらない怠惰な日常だった
あいつが来るまでは