ツッパリヒーローロケンロー!
爽快なバトル!痛快な快進撃!愉快な仲間たち!そんなのが好きかい?僕は大好きさ!さあ、読みましょう!
昼過ぎの日差しがブラインドを超えて差し込む静かな面接室で、赤縁メガネの女と椅子にだらしなく腰掛けた少年が戦っていた。
「あなたはなぜヒーローになりたいのですか?」
面接官は録音された音声のように問う。
「はい。年々増加している3Gによる超能力犯罪を……未然に防止するという、えーっと……。忘れました」
これは面接だが、答えるのは到底面接を受けに来たとは思えないほどに学生服を着崩し、まるで全盛期のロックンローラーのように髪型をツンツンとさせた大柄な少年だった。
「あなたにはヒーローの素質があると思いますか?」
おかしな受け応えにも特に動じず、ただメモを取り質問を続ける。
「はい、俺……私は、人一倍正義感が強く……強いので、多分向いてると思いまーす」
少年はあろうことか、ガムで風船を作り始めた。こんな男の語る正義感にどれほどの意味があるだろうか。
「最後の質問です。あなたはどんなヒーローなりたいと考えていますか?」
最後の質問に、少年は目の色を変えた。風船が弾け、口の周りにガムがこびりつく。
「俺は……最強のヒーローになりたい」
面接官はしばらくメモを眺めた後、大きな判子を押してこう告げた。
「あなたをG16地区公認ヒーロとして採用します。宇康介さん。この後身体強化を受けてください」
こうしてこの世界に新たなヒーローが生まれた。
『宇康介、応答しろ』
高校の入学式が終わり、自宅で昼寝をしている頃だった。
『宇。直ちに応答しろ』
(……うるせえな)
どこからというわけでもなく、脳に当たる部分に情報として送り込まれた女性の声に不快感を覚えていた。
『無視を決め込むならこちらにも考えがある』
キーンと、耳元に強烈な耳鳴りが炸裂静かな、頭痛を伴う高周波は首筋に異常な力を加えさせる。節々に針金を入れられたような激痛が体の力を奪う。
「ぐ、なっ、なんだ!?」
『呼び出しアラーム音だ。応答しないとこうなる』
「ちっ……分かったよ。で、だれだよてめえは」
『今日からお前の管制官を務める者だ。管制とでも呼んでくれ』
その声はとても女性とは思えない言葉遣いだ。
「性格悪そうな声だな」
『入学、そしてヒーロー試験合格おめでとう。今日から吟枚町、正式にはG16ブロックはお前の管轄だ。お前の事は今後G16Bと呼称する。』
「堅苦しい挨拶なら直接会ってやろうぜ」
『早速だが仕事をしてもらう。大した相手ではない』
「聞いてねえし。無理に決まってんだろ。大体俺は入学早々先公どもに散々言われて参って……」
『お前はヒーローだ。自覚を持て。では仕事を説明する。民間人に対し常習的に恫喝を行っている3Gを取り締まることだ』
かなり一方的に話を進められている。
「要するにカツアゲかよ。そんなもん警察にやらせろっての。ヒーローに出る幕はないね」
『G16B。黙って話を聞け。3Gが抵抗すれば警察にも被害が出る。これはお前の仕事だ。ポイントを送る。先のアラームが気に入ったのでなければすぐに向かえ。以上だ』
ぷっつりというノイズだけを残し、管制との通信が絶える。
「だああああああうぜえ!なんなんだあの女ァ!どうせクソブスだろーが、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
とかいいつつ、康介は自転車にまたがっていた。動機は無論、あのアラームが聞きたくないからだが。
脳に直接送られたポイントは町の大通りから少し抜けた、言わば裏通りだ。カツアゲの定番スポットと言ったところか。
人通り少ないその路地に、絶好のカモが迷い込んでいた。
(変な所入ってきちゃった。マップ見てたら携帯の電池切れちゃったし……誰かに道聞こうかな)
身長150cm程度の貧弱そうな少年。大きめの学ランに着られているところを見れば、たとえそれが3Gの能力者で無くとも恫喝のカモにはピッタリだろう。
そんな少年の目に止まったのは、路地にぽつんと佇む若者。
(あ、あの人……)
意外にも、声を掛けたのは向こうからだった。
「君、この辺始めて来たんだ」
振り返りこちらへ歩み寄る。そのメガネがいかにも親切そうな若者といった印象を植え付けたため、逃げることなど考えもせず道を尋ねようとした。
「えっ、あ、はい」
「そっかそっか。じゃあ丁度よかった。金貸してよ」
「……!!」
あまりにもさらりと正体を表した若者に、条件反射的に腰が抜けていた。
ぺたんと、その場に座り込む。
「あ、これカツアゲね。待ってたんだよ君みたいなちんちくりん。ほら財布出して。大丈夫、現金しか取らないから」
女の子座りになった少年の腕は、震えながら両足の間で体を支えるのにいっぱいいっぱいだ。
「……ぁ、そ、」
「あーもういいや。この鞄ごと貰ってくね」
「……まっ」
血の気の引ききった少年は、そのまま気を失いたかった。
自転車を飛ばしポイントに向かう康介の耳に、再び女がささやく。
『そろそろターゲット付近だな。いいか、お前には現在ナンバー1、2、3までの固有武装の貸し出しが許可されている』
「何の話だ?今じゃなきゃダメなのか」
『これらの固有武装はお前の任意のタイミングでそちらに転送できる。現在地なら呼び出しから0.61秒でそちらに送れる。各武装については追って説明する。どれも強力なものだ。安心しろ』
「よくわかんねえが、武器を貸してくれんのか?」
『そういうことだ。そこの角を左、裏路地に入るとターゲットがいる。気づかれないように確認しろ』
薄暗い路地の奥の方で、座り込む少年となにか言っている若者。
「おう、あいつか?仕事の真っ最中らしいぜ」
『確認したか。では固有武装を転送し奇襲をかけろ。転送の意思をもって固有武装ナンバーを発声すれば即座に転送が始まる。1、2、3だ。やってみろ』
「わんつーすりー」
半信半疑、小学生も考えないような簡単な呪文をつぶやいて見た。
「むおっふ、なんだこれ」
視界が突然黒ずんだ。口元には何やら綿のような感触。
『説明しよう。いまお前の頭に転送されたのは固有武装ナンバー2、フルフェイスメットだ。打撃に対し頭部を守れる』
「だっせえ」
『まだあるぞ。右手に転送されたのがプラスチック製カラーバット。左手に転送されたのはチャッカー。ライターだ』
「はあああああ?ふざけんじゃねえよ!こんなもんじゃコンビニ強盗もできねえよ!バカ!」
『お前は昨日、成人男性の約240倍にもなる身体能力を手に入れたはずだ』
「けっ。だったら最初からこんなもんいらねえっての。まあこのバットはぶん殴るのに役立たせてもらうけどな!おらあああああああ」
『そうだ、打ちのめせ』
「ちっ。邪魔すんのはだーれだ。あ?なんだこいつ。変態か?」
少年の向こうからフルフェイスのヘルメットを被った男が黄色いバットを持って走って来る様は、誰の目にも異様だ。
「おらあああああああ」
『そうだ、打ちのめせ』
「おっしゃあああああああばごぶっ」
『どうした!?』
康介の耳には管制の声よりも、フルフェイスヘルメットを壁にごりごりと押しつけられる音が響いていた。
視界には少年と、その目の前でゆっくり倒れこむメガネの若者。
「どうしたの?頭おかしいの?」
背後から両腕を羽交い締めにし、背中に膝を乗せてくる。
「なんだよ!味方がでてきたぞ!」
『ターゲットはそいつ一人だ。応戦しろ。民間人には被害を出すな』
「はいはい……おらぁっ!」
ギリギリと締め上げられる腕で逆に男をしっかりと掴み、反時計回りにぶん回す。そのまま壁に打ち付けると、視界に映ったのは坊主頭のいかにも悪党ヅラな男。
「あぎっ!ぁ……て、めえ、3Gか!?」
「逆だよ」
「ひ、ヒーロー……はっ、ちょーどいいや!てめーの首とりゃ一儲けだ!」
ぼーぜんと、その光景を眺めていた少年の髪を鷲掴みにする。
「っ!!い、いたい……!」
べったりと地についていた腰を浮かせるほどに。
「人質か!?」
「まあね」
『G16B。奴の能力が分かった。先ほどまでその少年に対し恫喝を行っていた若者は民間人だ。要は人間を操る能力。早々に正体を表したそのハゲが犯人で』
「黙れ。ちょっとまずい事になった」
「俺の能力は分かってもらえたかな?さて、これは取引だが。まずはこの少年を見てくれ」
先ほどまで髪を引っ張られ苦悶の表情を浮かべていた少年が、無表情で坊主頭のジーパンのポケットからナイフを取り出し自分の首に突きつけた。
「まあ簡単なことだけど、お前の首をくれってことさ。断ってもいいよ。一回断ればこのガキが死ぬ。もう一回断ればそこのメガネ野郎も死ぬ」
少年の正面に寝そべっていた青年の脇腹に蹴りを入れる。
「そうすりゃお前はお家に帰れるってわけだ」
『状況を把握した。G16B、落ち着け。奴の能力は直接身を守ったり攻撃することには向いていない。一瞬で決めれば能力も解除されそこの民間人にも危害は及ばん』
坊主頭との距離を詰めるのには早くても2秒はかかる。対して少年がナイフを首に突き刺すのに時間は必要ない。それより早くカラーバットで坊主頭を仕留めることは不可能。そしてそれを口に出すことは無意味。
「……」
「はーやーく。ヒーローなら民間人守るために死んでよ。なんならナイフ貸そうか?もう一本あるんだ」
『……今回は特例として固有武装ナンバー12、実弾拳銃を転送する。こちらの合図で転送するので一瞬で仕留めること』
「……わかったよ。やるから」
「ほぉ〜お!見上げた精神だ素晴らしい!じゃあ死ね!ほらこれ使えよ」
『3、2、1、転送!』
坊主頭の放り投げたナイフを取るふりをして
右手に握られたのは、実弾拳銃。
「ぉおっけぇぇぇぇぇい!」
決着は、一瞬だった。
読んでくれてありがとう!これからも頑張って書きます!ロケンロー!