第36話 どうしてこうなった
sideアミア
ヤバいです。
登場初っぱなから天を仰ぎ見ている私、アミアですが少々………いえ、かなり今にまいっております。
最初に言った言葉の通りヤバいのです。
前に文献に書いてあった現実逃避とやらをしたいと切に願うほどヤバい。
何がヤバいかと言われれば森を焼いてしまった事や敵の行方が分からなくなった事など色々ありますがそれはまだ良いのです。
真剣に何がヤバいかと言うともうそのまま、目の前の光景にです。
先に言っておきますがここは魔法都市ツウェルペトール、4大門の一つ・南門。
その前方にある森の中でした。
私達が居た宿から飛行魔法でもそこそこかかったくらいには広い森の中でした。
え?なんでそんなことを今更確認するのかって?しかも何故最後が過去形なのかって?
いえ、これには山よりも高く海という文献で読んだ大きな水溜りよりも深い訳が……………………はい、目の前が更地同然だからです。
……………………私の悩みの種が分かった所で一言。
「何故こんなことになったんでしょう?」
『魔法を撃ったからじゃ』
……
即答ありがとうございます。
回想の時間すらなく答えを言われてしまいましたね…。
でもヴァハ様、この状況だと少しくらい沈黙が欲しかったです。
目の前に広がる…更地と呼べる土地ですがさっきまでここは木々が立ち緑が生い茂る森でした。
しかし現在私の目の前に広がる光景は木の影すらなく地面は焼き焦げ、未だ燃えているものや炭になった塊がそこら中に転がっている。
………こんな状況になった原因はヴァハ様が言った通り私が魔法を撃ったからなのですが、…………さすがにここまで被害が出るとは…。
『まぁ、妾もここまでとは予想しておらなんだ。さすがに600年まともに力を使っておらんと勘が鈍るもんじゃな』
水晶の輪っかから何かとんでもないことを言うヴァハ様。
「…………え?私にそんな不安定な状態で魔法使えなんて言ったんですか?あんな自信満々だったのに?」
そう、私がこの爆発魔法を使ったのは元々ヴァハ様が言った事が発端である。
正確に言うなら私が”戦います”という宣言をしてからですが………。
〜思い出すその時〜
『はい、戦います』
『うむ、ならばさっそく始めるぞい。手始めに奴の魔法の模倣からじゃの』
『……え?』
さっきまでの雰囲気からてっきり反対の言葉が返ってくると思っていた私は思わず疑問の声が出てしまいました。
正直な感想を言うと拍子抜けしたというのが正しい表現だと思います。
『む、何を”てっきり反対の意見が返ってくると思ってた”みたいな顔をしとるんじゃ?アミアが自身で決めた事じゃし、そんな全否定などせんよ。それにそこまでの覚悟があるのじゃ、どうせならついでに妾の力の一端を見せてやろうではないか!』
輪っか姿なのに胸を張ってるヴァハ様に少し可笑しくなりました。
同時に少し興奮もしました。
ここでヴァハ様の本当の力を見る事が出来るんですね!私が忘れてしまっていた事で封印されてしまっていた力が!!と。
でも……ヴァハ様が力の一端を見せてくれるというなら私がアイアンの魔法を模倣する必要はないのでは?
そう私が思っているのを察したのかヴァハ様が言う。
『……実を言うとのぉ、契約が完璧なものになった事から妾とお主は一心同体、正確には妾がアミアの守護精霊になったのじゃ。しかしその際、力の大部分がアミアの方に流れてしまってのぉ、翼を動かすくらいなら出来るが魔法はアミアを起点にせねば発動出来ぬのじゃよ』
なるほど、私自身には特に魔力の量以外変わった実感はありませんが今私にはヴァハ様の力が加わっているのですね。
ということはヴァハ様の言う力の一端というのは現在使えない魔法の事ではなくこの水晶の翼を使った技術や戦法の事でしょうか?
ヴァハ様は魔法が現在使えないためどんなことをしてくるのか私が思考していると続けるようにヴァハ様が言う。
『じゃから、アミアの魔法を持って妾の凄さを証明しようではないか!!』
…………………あぁ、ソウデスネ。
何も力を見せる為に一人でする必要はありませんよね。
時にはその力を見せる対象に手伝ってもらう事もアリマスヨネ。
…………………………………いいじゃないですか、少しくらい希望を持ったって。
『で、そのためにもあのアイアンとか言う男の魔法を読み取るのじゃ。今のお主の目なら魔法の構成、術式、難なく読み取れるはずじゃ。これはお主が妾の力になれる訓練にもなろう』
そういうヴァハ様の言葉を聞いて簡単な風の魔法で手のひらに空気の塊を出現させた。
するとヴァハ様の言う通り魔法の構成がはっきり見え、術式も詳しく知る事が出来る。
すごいと感心するも私に一つの疑問が浮かんだ。
『しかしヴァハ様、読み取るにしてもアイアンが魔法を放った時にそれを見なければならない訳ですから今の状況では難しいのではないでしょうか?』
私の質問に口を濁しながらヴァハ様が答える。
『むむ、む〜………………いや、待て。アミアもしかするとなのじゃがお主、もう割とあの爆発魔法の構成と術式が分かっとるんじゃないかの?お主は小さな頃外で魔法を見るそのたびに部屋に引きこもって構成や術式を知識から組み上げてしまう天才じゃったからな』
思い出すのは勇者から魔道書を読ませてもらってからの自身の行動。
城中を探索し、隙を見てリーファ殿やその他王宮の魔法使いの魔法を研究した日々…。
……天才は大袈裟だと思いますが………まぁ、確かにどんな構成、術式をしているかの目処は立っています。
一応発動の瞬間を一瞬とは言え見ましたし、最後にあった爆発で大体分かりましたが……。
『でもそれは大体の域を出ません、発動させるにはまだ穴があり過ぎます』
魔法は大体分かっただけでは発動しない、それが原則。
魔法学校でも言われる初歩の初歩。
私が今アイアンの魔法に持っているイメージは全体像は大体分かってるけど所々に小さな穴が出来ていて決して発動しない魔方陣のようなもの。
しかしヴァハ様は得意げな声で言う。
『むひょひょひょ、その辺は安心せい。大体分かっておれば十分じゃ、妾は元は魔法を司るめが………いや、違うか…今は魔法の精霊ぞ!その穴を埋める事など造作もないわ!!』
何か誤摩化すように声を高くするヴァハ様に私は疑問に思ったが次の瞬間自身に起こった変化に驚いた。
さっきまで大体しか分からなかったアイアンの魔法が急速に頭の中で組み上がっていく。
そして自身の左腕が自然と上に上がる。
何故?と思う所ではあったが同時にそこでようやくアイアンが目の前にいる事に気がついた、どうやら戦闘態勢に入っている様子である。
『さぁ、御膳立ては済ませた!後はお主が魔法名を言えば………ってこらこら、どこを見ておるんじゃ。あやつに直接視点を合わせてしまったら殺してしまうぞい、まぁ、妾は別に良いんじゃが……アミアは嫌じゃろう?』
私は即答の勢いでコクンと顔を縦に振った。
正直……敵とはいえ、あまり殺しはしたくありません、ヴァハ様は私の気持ちを汲んでくれているようですが……。
しかしこの状況だとやはり私の考えは甘い………のでしょうか?
『うむ、じゃから視線を向ける先は……そうじゃのう、念のため妾達とあやつの中間辺りにしておくが良いじゃろう。今回は練習じゃ』
私が少し自身の甘さについて考えているとヴァハ様がそんな事を言って来る。
どうやらまずは手加減をして魔法の手応えを確かめるようです。
中間という事は多分爆風で少し吹き飛ばすくらいですかね…?
『あぁ、それと撃つ時はイメージを明確にするために指弾きをすると良いぞ。あれは火をイメージさせるのに重宝する』
さらには的確なアドバイスも頂けるのはありがたいです。
ヴァハ様の言う通り私は左手の中指と人差し指で指を弾く形をとる事を確認すると視線を自身とアイアンの中間辺りに向ける。
そしてさっきまで自身が受けていた魔法名を呟く。
「explosion LV1」
〜回想 終〜
そしてこの状況に…………。
どうしてこうなってしまったのでしょう………?
国を守る立場にありながら城を出てしまったのがいけなかったんでしょうか?
勢い余って壁にめり込んでしまったのが悪かったのでしょうか?
あ、もしかして勇者に会った事自体が駄目だったのでしょうか?
………考えれば結構出てくるものですね。
『………後で妾が森の精達に謝っておく、じゃからそろそろ現実と向き合っておくれ。妾の知り合いに頼めば森の修復も出来よう』
暗闇にいた私に希望の光が射した瞬間でした。
………あれ?そもそも責任の一端はこの人にもあるのでは?
「……本当に?本当ですか?本当にこの壊れきった森を直せるのですか?」
まぁ、責任など後でどうとでもなります。今は森の方をなんとかしなければ!
今の人間の力ではこの規模の森の再生は魔法を使おうとも出来ません。
しかしヴァハ様は人間ではなく精霊様、それならもしかすると…
『うむ。じゃからこの問題は後にしてさっさとあのアイアンって男を捜しに行くぞい。あれが町に入られる方が面倒じゃろう?それに他の奴らの応援にも行ってやらねば』
ヴァハ様の言われる事はもっともですね。
「確かにあの男が町などに入ったら大変な犠牲者が出てしまいます、探しに行きましょう」
・その頃のアイアン……というより白露達?
「………………………………………………………………なに?今度はアインが大火傷を追って王宮に降ってきただと?」
突然男が頭に手を当て長い沈黙の末独りでにそんな事を言った。
その顔は見えづらいがものすごく強ばっているようにも見える。
そんな男は後ろの少女に向けてため息を吐きながら言う。
「……ハルトマン、回収を頼んで良いか?」
「ha………………………………………了解」
少女は男に返答するとゆっくり後ろに下がり地下の暗い廊下の闇に消えた。
「………………おかしい、なんでこうなった」
(……なんだろう)
《……なんでしょう》
《(不憫?)》
何故か捕まってる立場であるはずのハルと白露は呟く男の背中に哀愁が漂ってるように見えた。
そんな男になんとなく同情する二人なのでした。




