第32話 お仕置き
ーー俺は今、どこに居るんだろうか?
白露との修行を一段落させて、さらに言うならあの地獄の空間、もといピンクの空間から一刻も早く出るため修行の密度を三倍近く上げて切り上げて来た。
それに外の状況も気になっていたし、白露の様子から赤狐が近くにいるのもわかったからアミア達が心配なので出来るだけ早く修行を終わらせて戻って来たわけだよ。
……戻って来たはずなんだよ。
しかし…………ここはどこかな?
瞑想から目を覚まし俺が最初に目にしたのは暗闇だった。
まぁ、暗闇といっても白露のハイスペックな目があるから見えない事は無いんだけども……それはともかく。
とりあえずここはどこをどう見ても俺達が居た宿の部屋じゃない。
石造りに壁に鉄格子、どう見ても牢屋だろう。
極めつけは鉄格子を越えた向い、目と思わしき赤い2つの光がこちらを見ているが如く存在している。
俺も何やら縛られて………あれ?この光………これって前に城を抜け出した時、兵士達が使ってた捕縛の鎖じゃないか?
俺は両手を前に組むようにして光る鎖に縛られていた。
今やっと実感したけどかなり体が重いな………左足の鎖はこれつける際に外してくれたんだろうけど…………誰がこんなことを?
《……戻ってきたようですが………何ですか早速この状況》
お、白露も帰って来たか。ちょうどこの状況に困っていた所なんだ。
あの空間からの帰りで悪いんだけど一緒に考えてくれないか?
……………そういえば赤狐のあの空間の破壊は出来そうかい?
《………………無理でした。あれから何度も何度も何度も試したのですが壊すたびに再生してバージョンアップしていきます…術式も全く分かりませんし私には手の施しようがありません》
大事な事なので三回言いました。
白露よ……そこまで苦渋に満ちた顔をするなよ。
例え一回消すたびに地獄の妄想記録の内容がハードになろうとも、例え空間にある全ての物体を破壊した瞬間ウザさ三倍、実力皆無な赤狐そっくりの人形が大量に襲って来たとしても、妖術で封印しようとしたら一瞬で封印を消され空間内の全ての物が突撃して来たとしてもそんな顔をするもんじゃない…希望を持つんだ。
俺は良い修行になったということで割り切ってるよ。
割り切らないとあの空間の中での修行は不可能だ。
知ってるかな?あの空間にいると時々よく分からんクイズ大会が始まるんだよ。
拒否権は無くもちろん問題は白露関係の事ばかり、間違えようもんなら目に見える範囲すべてから集中攻撃と言う名のリンチ。
……これをいい修行だと割り切らなかったらどうやってこの感情の爆発を抑えればいいのか。
《……一旦この事は忘れましょう。今はとりあえずここから脱出した方が良いでしょう。どう見ても穏やかな雰囲気ではありませんし、なんだか嫌な予感が……!?…この感じは…アミアさん?!》
赤狐の事を忘却しようとぐったりしていた白露が突然アミアの名前を言いながらキツネ耳をピンと立てた。
え?!アミアがどうしたんだ白露?!!
《ハル、理由は後でお話しますから赤壁を発動して下さい!その鎖は私が破壊します!!》
よ、よく分からんが分かった。
俺は妖力を体に通し、体中に巡らせる。
……【赤壁】 発動!!!!
術を発動させた瞬間光る鎖がさらに輝きだし俺の体を電気が襲った。
バリリリリリリリィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!
「あばばばばばばばばばばばばばばばばっ!!!???!??????」
《ハル?!どうしたんですか?!!》
白露には状況がわかっていないのか俺の突然の奇声に驚いた様子を見せる。
しかし俺に今それを気にする余裕は無い!体が痺れるぅぅぅぅ!???
三十秒程してようやく電気が弱まり少しまともな思考に戻った。
かなり強めに設定してあったのかなかなか痺れが………。
これで気絶しなかったのは白露が横でずっと話しかけてくれたのが大きいだろう。
そんな中鉄格子が見える方向から男の声が聞こえた。
「お、起きてるようだな。なかなかタイミングが良いじゃないか、って…………一応言っておくが妙な動きはしない事を勧める。その電気鰻(エレクトロ−ク)は、魔力や妖力に応じて電撃を発するからな……遅かったようで悪いが」
男は本当に申し訳なさそうに言った。
おそらく俺達をここに閉じ込めた張本人だろうけど……。
また……このパターン、ですか…。
俺は縛られた状態のまま後ろに倒れた。
sideリーファ
「どうしたんです?前に会った時より変な顔をして」
そんな事を言ってくるのがメイド服を着た少女、我が姉であるリサ・セレナーデ。
まぁ、少女といってもそれは外見だけで本性を知れば少女なんて言えな、
「って、そんな事はいいのよ!なんでお姉ちゃんがここにいるの?!」
あたしは突然現れた姉に当然の質問を投げかける。
対する姉はあきれたようにため息をつき答えた。
「各門へ廻ろうとした最中、貴方の飯綱の光が見えたのでこちらに来たんです。それにちょうど貴方に聞きたい事があったので」
「え?聞きたい事って、」
何、とあたしが言おうとしたとき横からそれを妨害する声が響く。
「人を無視するのもんじゃねぇぜぇ、メイドさんよぉぉぉぉ」
ガスタは突然現れ余裕の様子を崩さない姉にかなりのフラストレーションが溜まっていた。
そうして我慢の限界だったのか背後から姉に強襲を仕掛けた。
ガスタの右腕が勢いよく振り下ろされる。
……が、姉はこちらを向いたままガスタの方を見もせず流れるように右に一歩移動する事で攻撃を避けた。
コォォォォォォォォォォォォォォォォォ
ガスタが振り下ろした拳が地面にぶつかるのとほぼ同時に北門の方から極大の光が見えた。
「ふむ、勇者様の方は終わったようで……いえ、まだか。まぁ、あの方ならどうにかするでしょう」
姉は特に驚いた様子も無く光が治まるまで北門の方を見ていた。
……どうやら勇者が【エレメントフォース】を使用したらしい。
あれをしたって事はもう終わりのはずなんだけど……お姉ちゃんが言うんなら敵はまだ生きてるわね。
「この調子なら負ける事はなさそうですね。こちらも仕込みは済みましたし…………手早く終わらせましょう。愚妹の治療もしなければ」
終わらせるといっているものの一向に敵の方を向こうとしない姉。
だけど一応あたしの心配もしてくれているようだった。
実を言うと防御魔法で多少軽減したとはいえ今のあたしが体に負ったダメージはかなりのもの……姉は気付いてくれていたらしい。
あたしが姉の気遣いに少し涙腺を潤ませていると横からガスタの野太い声が聞こえた。
「なぁぁぁんにも終わんねぇぇぇぇぇぇえよぉぉぉぉ、始まりすらしねぇ!!!!!!《影ノ…」
ガスタは突進しながらこちらに向かって来ている。
しかしガスタの姿は先とは打って変わってかなり変化していた。
ガスタは全身をあの黒い液体のようなものでコーティングしたのか目や鼻の形はハッキリしてるもののまるで黒光りしたゴーレムのような感じだ。
しかし放出している魔力は相当なもので今の私では軽くミンチになるレベルだ。
そんなガスタの言葉を遮り姉は静かに無表情で結局ガスタの方は向かず言い放った。
「終わりですよ、もう貴方に音は届かない」
「「「《『【雑音無奏】』》」」」
姉の声がぶれたように複数聞こえる。
高い音だったり低い音だったり………しかしそこから音が消えた。
聞こえないのだ、姉の声もガスタの声も自身の声も聞こえない。
一瞬自身の心の声さえ聞こえないのではと危惧した程だ。
「 !? !?!!!!!?!?」
ガスタは何かしゃべっているようだが………音が無くただ怒鳴っているように見える姿は些か滑稽に見える。
だが次の瞬間、目の前で起きている光景が私には信じられなかった。
全て止まっている……そんな感覚に襲われた。
そして実際に全てが止まってるかと思うくらい目の前の光景には現実味が無かった。
何も聞こえず何も動かず…止まっている。
しかしそれは一瞬だった、私の感覚が伸びていたのかもしれない。
だが私には一瞬という感覚もあれば数分と経ったような感覚も同時に存在した。
矛盾があるようだがおそらく視覚で見て感じたのは一瞬、自身の六感が感じたのが数分といったところだろう。
姉は一歩も動いていない。
ガスタは姉の頭のわずか数ミリほど上に拳を突き出した体勢で止まっている。
……なんでお姉ちゃんは逃げないの?なんで筋肉は攻撃を止めたの?
私がそんなことを思っていると、
ドサッ…、そんな寂しげな音が辺りに響いた。
ガスタが糸の切れた人形のように倒れた音のよ……って、
「え!?」
あたしはさっきまで自身がそれなりに苦労してさらには殺されそうになった相手がいとも簡単に倒された事に驚きの声をあげた。
しかも一向に動く気配がない、気絶とかしても呻き声くらい会ってもいいと思うのだけど…。
……なんとなく絶対姉には逆らうまいと思い直しました。
そんなあたしの心境をよそに姉は何でも無かったかの様子で言う。
「これで邪魔者は消えましたね。…さて、リーファ。単刀直入に聞きますが姫様はどこですか?」
さらにあたしに笑顔で殺気を向けて来た。
普通この場合驚くべき所なのだけど…これはかなり苛ついてるなぁ。
実はこの姉、こと戦闘に関しては鬼才と呼ばれる程の能力を有しているのだけれども魔力を感じる事が出来ない、というよりそもそも魔法が使えない。
つまりさっきから南門の方からビシビシ感じるアミアらしき魔力に全く気付いていないのだ。
だからわざわざ私に尋ねて……むしろ脅してきてるのだけど、
(あれがアミアって保証がないのよね……宿の場所を言った方がいいかしら?)
あたしがそんなふうに悩んでいると姉が平坦な声でこう言った。
「喋った後に時間を取らなければならないのですから早くしなさい」
…………………………………………………………………時間を取らなければいけない、この一言はあたしには……私達姉妹の間ではある意味を持ってる。
だけどそれは今の状況では必要ないはず……すぐにアミアを迎えに行きたいだろうこの人がなんでそんな……………………あ、やばい、早く答えないと本当にやばい。
姉の言動に少し疑問を抱いた私が姉の方を見てみるとそこにはさっきとは打って変わって清々しい笑顔を顔に張り付けてメモ帳と思わしき物にカリカリとなかなか速い速度で何かを書いている姉の姿だった。
この場合私が取る行動は……、
「あのぉ、お姉ちゃん。……………お仕置きは勘弁して下さい」
頭を地面に擦り付けて……今の状況ではこう言うしかないと思う。
姉のカリカリ聞こえていた音が止まった。
とりあえず姉の手を止める事は出来たようだ。
改めて姉の方を向いてみると姉はさっきのメモを書いていた体勢で顔を無表情に戻しこちらに向けて言った。
「ダメです」
あたし・私の死刑宣告でした。




