第31話 獣な私
・南門前
アミアが気絶しているのを確認すると爆発の男、アイアンは腕を組んでその場で唸っていた。
「ん〜〜〜、これはどうするべきなんでしょうねぇ〜」
何故彼が唸っているかと言うとその理由は一つ、目の前で倒れ臥しているアミアの存在だ。
アミアの手前、君を連れて行くなんて行った彼だが正直彼にとってアミアがこの南門に単独で来た事自体が予想外だったのだ。
彼の言った事には嘘は無い。
アミアを見つけたら可能であれば拿捕しろという命令は確かに出ているしさっき使った追撃爆発も護衛であるはずのやつらに使うつもりでいた。
アミアが南門に来た事自体は予想通りであったし、撃退の方法も考えていた。
しかし現実は予想通りにはいかずむしろアイアンを困惑させる形になった。
(……てかなんでこのお姫様だけここに来てんの?てっきりと言うか絶対噂の精霊様や混血の女がついてくると思ったんッスけど)
そう、アイアンはアミアが来る事は予測していた。
そして同時にアミアには護衛が一人はついて来るだろうとも確信していた。
だが結果はこれである。
アイアンが敵の気配に気付き後ろに回って見てみればなんとアミア姫一人。
一応どこかに隠れていないか調べるためアミアに軽い爆発魔法を放ったのだが、周りに気配はない。
…本来ならここで用心していた護衛もおらず楽にアミア捕獲が出来た事を喜ぶ所のはずなのだがアイアンにとってさらに予想外のことが起こってしまった。
アイアンは自身の放つ攻撃のある要素に一つの自信を持っていた。
それは速さである。
アイアンの主な魔法は二つ名の通り、爆発。
この爆発魔法は威力が弱ければ弱い程早く発動出来る。
さらにアイアンは無詠唱を得意としているため先程アミアに向けた程度の攻撃なら一瞬である。
しかも無詠唱で早いとは言え人を気絶させるには十分な威力であるはずのアイアンの最小爆発魔法。
それを完全に読まれ防がれたというのはアイアンにかなりの動揺をさそった。
奥の手である追撃爆発を出す程に。
(てか勿体ない……いくら姫様の反撃に驚いたからって。せっかく苦労して用意したもんが無駄になっちまいやした)
アイアンの言う追撃爆発とは簡潔に言うと誰でも気絶に追い込める爆発魔法だ。
この魔法で起きる爆発は相手の魔力、妖力、その他諸々の最大値が高い程威力が上がる。
正確にはその人物が使う最大値の魔法、妖術、その他諸々の威力と同じものを自動で出せるのだ。
もちろん上限はある、さらにいうならこの魔法にはかなりの弱点も存在する。
今アイアンがうなだれている理由はその弱点の一つに数えられるものだ。
この魔法、一度使うと再び使うのに10時間の集中と数多くの術式の発動を必要とする。
なので面倒な上に時間がかかるし疲れるからアイアンはこの魔法が嫌いなのだ。
「………ま、悔やんでても仕方ありやせんし、アミア姫をさっさとボスんところに連れて行きますかね」
アイアンの考えが落ち着き、少し体の力を抜いたそんな時。
何か風を切る音が聞こえた。
「ん?」
ドゴァッ!!!!!!!!
「かはっ!?」
突然目の前から来た衝撃、アイアンは高速で迫って来た何かに肩から腹の辺りまで締め付けられ木に押し付けられた。
アイアンは、素早く状況を理解しようと息を整えつつ体を締め付けているものを見る。
それは赤い水晶の塊だった。
しかも一直線に伸びていてまるで羽のような細かな造形。
そしてその羽のような水晶を追っていくとこの水晶の発信源が見えた。
見えたのは背中から今アイアンを木に張り付けている水晶の塊のような翼をはやしながら起き上がろうするアミアの姿であった。
その動きは亡者のようにぎこちなく体の表面には赤いオーラが纏われている。
「あ〜〜、こりゃ、まずいかもしれやせんね……」
アイアンはそんな声を漏らした。
顔には大粒の汗が流れる。
sideアミア
【情けないのぅ〜、妾が力を貸してやったというのにこの体たらくでは。お主はもうちょっと体鍛えた方が良いな】
褐色に肌で布地が少ない服を着て背中に面妖な翼を確認出来る女性がそんなことを開口一番に言って来た。
気がつくとまた前のように小さな村の中心で立っていた。
しかし前とは違い意識はハッキリしている。
そのため目の前の噴水に座っている女性に今度はちゃんと気がつくことが出来た。
ものすごい呆れ顔でいかにも待っていたという様子でこちらを見ていた。
そして今の台詞である。
的を射過ぎていて反論出来ない。
【本当はお主が妾の名を思い出したらまたここに来る手筈じゃったのじゃが……まさかこんなに早くのぅ】
ハァァァァ、と心底呆れたように特大のため息を吐いてついにはこちらに向けられていた目を離してしまわれた。
…言い訳は見苦しいだけ、ここの情報も欲しいですしまずは誠心誠意謝りましょう。
この方に粗相をするわけにはまいりませんし。
「あの、ムジャパティ様」
【ん?………おぉ!ようやくそこまで妾の正体に近づいたか!!まぁ、あそこまでヒントを出せば当然と言えば当然じゃが】
さっきの呆れてどこか沈んだ雰囲気がどこかに飛んで行ったかのようにそらしていた顔をこちらに向けて嬉しそうに私に語りかけてくる。
しかし立ち上がってぴょんぴょんとジャンプするのはやめて頂きたいです。
ただでさえ面積の少ない布地が揺れることによってズレそうで………とても破廉恥になってます。
……でも気になるのはさっきの言葉。
近づいてる?……てっきり私はこの方を精霊ムジャパティ様だと思っていたのですが。
もしかして間違っていた?……いえ、この様子から完全に間違っているわけではなさそうですが…、
【で、妾の真名は思い出せたのかや?】
私の思考をよそにムジャパティ様(精霊様では何か白露様と被るので仮名として採用)は私に聞いてくる。
同時にそこで私は聞きたいことを聞くことにした。
「いえ……申し訳ありません………あの、ムジャパティ様、という名は真名ではないのでしょうか?」
【違うぞい。そのムジャパティという名はこの国が出来た頃辺りに民衆が勝手につけた名じゃ、真名とは全く関係ない。……まぁ、お主が妾の真名を覚えておらんと言うなら思い出すまでその名で呼ぶが良いぞ】
ムジャパティ様は何か悲しいのか嬉しいのか、少し微妙な顔をして私に言った。
どうやら本名ではないようです。
しかしこの方の話を聞く限りやはり私はこの方と昔会ったことがあるらしい。
記憶には無いけど……無いはず。
【そいでお主はこれからどうしたいんじゃ?】
え、と私は突然のムジャパティ様の問いに少し驚いたように返してしまった。
【何を驚いておる、お主がここに来る直前の事は覚えておらんのか?お主はあの爆竹小僧に気絶させられたのじゃろうが】
……ッ!
正直今まで思い出そうとするのを拒んでいたここに来る前の記憶が蘇る。
…そうか、私はあの時……訳が分からなかったが気絶してしまったんですね。
【ふむ、思い出したようじゃの。後は妾の事を思い出せば楽なのじゃが……まぁ、贅沢は言うまい】
私の表情から悟ったのかムジャパティ様は私にそんなことを言った。
うんうんと言葉だけなら納得しているように見えたが実際は口を尖らせすねた子供のような様子です。
……何故でしょう。この顔、どこかで見た事があるような。
このやり取りも……。
………頭が痛い。
【む、そんな一気に思出そうとするなよ。さすがにここでも意識を失われると現実がやばい事になるんじゃ。せめて意識は……………あ、もうヤバいかもしれん】
そう言うとムジャパティ様の背中の翼が消えた。
【はぁ……………目が覚めた途端これか。まったくもって契約とは面倒じゃのぉ】
目線を上に向けてムジャパティ様はしかめっ面になって呟く。
ムジャパティ様の翼がどこにいったのかも気になるが私は先に言葉でさらに気になった事を尋ねた。
「あの……私の意識がなくなると、現実で何かあるのですか?それに契約っていったい…」
「ん?ん………あ、これは言ってよいのか。そうかそうか」
虚空を見上げながら独り言を言い始めるちょっと危ないムジャパティ様。
……と、前の私なら思ったでしょうが正体を知った今なら考えることは違ってきます。
おそらく他の精霊様か…度々ムジャパティ様が言っている契約関連の方としゃべってらっしゃるのだろう。
話が終わったのだろう、ムジャパティ様はこちらに目線を戻して口を開いた。
「では説明するぞい。……えぇーと、確か意識がなくなるとどうなるのか、と契約とは何の事なのかという話じゃったかな?」
確認するようにこちらを見てくる。
私はコクンと静かに首を縦に振った。
「うむ、ならまず契約の方じゃがこれは前と同じじゃ妾からは話せん。お主に頑張ってもらうほか無い」
……予想はしてましたが正直少しがっかりした気持ちです。
しかし今は私の事より意識を失ったら現実が危ないと言う話の方が重要か…。
痛ッ
刺すような痛みが私を襲った。
…まだ頭の痛みが消えませんね。
それどころかムジャパティ様と話すほど痛みが強くなってるような…。
「意識の方じゃが、まぁ、これは見てもらった方が早いかもしれんな」
私の様子に気付く事無くムジャパティ様は話を続ける。
そして指を弾き、パチンと音が鳴ると噴水の上空に大きな四角い枠のようなものが現れた。
さらに噴水の水がその四角い枠の中心に集まりだんだんと均等に広がっていき一つの鏡のようになった。
そこから波紋が中央から広がってある映像を映し出した。
それを見て私は呆然とするほか無かった。
映っているのは私だった。
土煙ではっきりっとは見えない状況だけど確信出来る、私だ。
そこには、私の姿でムジャパティ様の翼を背中に生やし目がうっすら赤くなっている……獣のような、私がいた。




