第29話 各門へと
side勇者(北門)
さて、姫に啖呵をきって出て来た以上手早く済ませて戻る必要があるな。
心配ごとも増えてしまったし…。
さっきの南門辺りから聞こえた爆音……一応念を押しておいたとは言え姫があの爆音を放っておくだろうか?
無理だろう、爆音が聞こえていち早く現場に向かおうとした姫だ。
今頃部屋を出て南門に向かっているかもしれない…。
………北門を選んだのは間違いだったな、すぐ済ませても戻るのにそれなりに時間がかかる。
今から北門まで全力で走り確認を何事も無く終え、また全力で戻ったとしても最低でも数分はかかる。
本当なら今からでも折り返して姫の元に急ぎたいところではあるのだけれどそんな事をしたらおそらく姫を怒らせてしまう。万が一今僕が向かっている北門に問題があった場合おそらく周りにいる人達の中全員は無事ではないだろう。
例えの話とは言えその無事ではない人達を置いて姫の元に戻ったとなれば………姫の激怒の表情が目に浮かぶ。
……そもそもこんな騒ぎが起きなければ、僕と姫はもっと神秘的な再会を果たしていたはずだったのにッ!
姫の民を思う優しい一面を見れたのは良かったが……やっぱり早く名前を呼んでもらいたいし。
そうと決まれば問題を解決していち早く姫の元に急がねば。
問題は無いに越した事はないけど……あの門の方から聞こえる声からして問題が無いと言う可能性は薄いようだ。
ぎゃぁぁぁぁぁああぁぁ
グァッ!!!!!???
このっ!?ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
僕の前方から多くの悲鳴と大きな金属音が響いて来た。
そんな中僕は門の前、正確には門の前にある家の屋根の上に着地した。
そこから見えて来た音の正体は、おそらくこの国の傭兵魔族と魔法使と思わしき人達・目算50人強と対峙している黒い鎧でフル装備した……体格からして男であろう人物のようだ。
しかし対峙していると言っても対等ではなく例えるなら蟻と像のような力の差があったようだ。
その証拠に黒い鎧の男(以下鎧の男)の周りには倒れた魔族や魔法使いらしき格好の奴らが10人くらい倒れている。
そんな感じで僕が分析していると鎧の男が動き出した。
「カスタム・ソード【シャドウウィップ】」
鎧の男はそういうと手に持っていた…黒刀?を横に振った。
そうするとなんと、
「ガァアアッァァァァァァァ?!?!?!?!!?」
前衛に立っていた傭兵魔族達が突然吹き飛んだ。
見ていた限りでは特に何も無かったように見えたけど…。
50人強の人数の7割程を占めていた傭兵魔族の半数以上がこのとき戦闘不能になってしまった。
魔法使いは後衛に居たためほぼ無傷ではあるが………他の傭兵達と同様、目の前の惨状が理解できずさらには腰が抜けているようだ。あれではもう戦意はないだろう。
「貴様が……勇者…か?」
僕が傭兵達の方を向いていると下から声がかかった。
鎧の男はどうやらこちらに気がついていたらしい。
少し飛ばしたせいで魔力が漏れていたのだろうか…?
…まぁ、今はまず問いに答えるべきかな。
「如何にも、って僕の事を知ってるんだね。…こちらからも質問だ、この惨状は貴方が?」
「然り」
ものすごく今更でさっきまで見ていたにもかかわらず僕は確認のため質問した。
答えは期待を裏切る事無く肯定。
ま、証言も取れたし目撃者も多数、これならこの男を倒した後の後始末は任せられそうだ。
僕は一刻も早く姫の元に行かなければならないからね。
そうして僕は腰の剣を引き抜き切っ先を鎧の男に向ける。
僕の行動を予測していたのか鎧の男も戦闘態勢に入る。
そしてお互いが今もっとも強く思ってる一言を発する。
「戦闘を……開始…する」
「手早く終わらせるよ」
sideリーファ(東門)
う〜ん、何か格好つけて”お先に”なんて言って出て来たわけだけど…。
まぁ、着いてみれば問題大有りね。
アミアが来なくて正解だったみたいね、あんなお嬢様がこんな所に来たら怪我するのがオチだし。
というかあたしに守りながら戦えとか言われてたら真面目にピンチだったかもしれない。
……………あたしのタイプじゃないのよねぇ。
この戦闘スタイルも…顔も。
「あたしって最近本当についてないわね」
「何言ってやがるぅ!俺に会えた幸運を噛み締めながら死ねやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
…るっさいわね、この筋肉達磨。
そのパッツンパッツンの服とゴリラ並みの顔を整形してから出直して来なさいよ。
出来れば勇者の顔で……いえ、やっぱり今の無し。筋肉メキメキの勇者とか見たくない。
しかっし…このままじゃ本当にやばいわ。
まだ上手く避けられてるとはいえ近接格闘とか……あたしとは正反対のスタイル。
しかもこのゴリラ、あたしがここに着いた瞬間に攻撃して来た。
ってことは、もしかしたら爆音を聞きつけた野次馬とかの何人かがもう…。
あの姫様の性格があたしがあらゆる所から聞いたものなら多分みんな無事なんて思ってるあまちゃんなんでしょうね。残念ながら今回は叶わないけど。
……それにしても何か妙に兵がいない。
目の前のこの破壊された門の惨状から考えるとやはりかなりの爆発がおきた筈…確かに真ん中に風穴が空き完全に壊れたわけではないけど、ここに来るまで兵士が人っ子一人見当たらない。
…何か妙ね。
「余所見たぁ余裕だなぁ!!!!潰れろぉぉぉぉ《影ノ波》!!!!!」
…!?しまった、一瞬目を離した隙に!??
気がつくと私の目の前には黒い波がそびえ立つかのように存在していた。
って、やばい!?
このままじゃ門の近くにある家は吹き飛んじゃう。
避難したと願いたいけど……今のあたしには余裕がない………詳しい情報が欲しい。
このままじゃ………ッ!
…いや、ここは冷静にならないと。
とりあえずこの筋肉を殺すには大規模魔法が必要だと思うし周りに一般人がいたら無闇に魔法が撃てない。
………この波みたいなものを吹き飛ばす事自体は造作も無いけど……多分、筋肉の後ろにある門も破壊してしまうかもしれない。
それじゃあ本末転倒ってやつだし…仕方ない、か。
これ痛いから嫌いなんだけど…。
あたしは両手を前に突き出し、電気を発生させる。
バチバチと音を立てながら時間が経つにつれどんどん音が大きくなっていく。
あたしが今から何をするのかと言えば【飯綱】だ。
無詠唱の【飯綱】は成功率があまり良くはないけど……今の状況にはちょうど良い。
威力はむしろ弱めでないと…周りが吹っ飛んじゃうから。
……ま、苦労するのはここからなんだけど。
あたしは雷を片手に集め……撃った。
「消えろ!【飯綱・2/5バージョン】!!!!」
撃った【飯綱】は黒い波に吸い込まれるように直進し、直撃し、霧散した。
……結果だけを言うならたったこれだけ、後は特に言う事もないけど。
………他に言う事があるとすればあたしの体調かしらね。
あと、私を今支配している感情。
まず、私の体調だけど……正直な話をすると私はまだ【飯綱】を完全に使いこなせていない。
そのためか【飯綱】を全開で撃つ以外に制御しようとするとその制御分、今回で言うなら3/5のダメージを術者である私がうけるのだ。
全開で撃っても数分は動けないけど……。
……ただしこれはあたしの修行不足なので甘んじて受ける覚悟は出来ている。
し・か・し、それとは別に、痛む体も気にならない程の事がある。
それは…………私のローブが燃えた事だ。
…………わかってるわよ?ローブが燃えた原因は私の飯綱だってことくらい。
でも、でもね。その飯綱を撃たせた原因を作ったのは誰?
答え、目の前の何かニヤニヤした腐れ筋肉。
「……」
目を瞑って思い出されるのはあの日。
勇者とその他の連中と魔王討伐の旅に出て数ヶ月が経った頃、何の気まぐれか勇者が私を買い物に誘ってくれたあの日。
『はは、ごめんなリーファさん。こんな物しかあげられなくて…でも、これからもよろしく』
買い物の最後に特に深い意味などないのだろうけど少し申し訳なさそうに何かを差し出してくる勇者の姿。
私は怒る。
一人称があたしから姉と同じように私になるほどに。
私からすれば怒りの象徴である姉を模倣しようとする程に。
理不尽だろうが横暴だろうが知った事では無い!
私は……
「お前を…………殺す!!!!!!!」
なぜならこの、このローブは…
勇者と買い物に行った記念の品なんだよ、このゴリラァァァァァァァ!!!!!!!!!(本音)
どんだけ高かったと思ってんの?!デザインはかなりダサいけど隠蔽性に特化した特注品なのよ!!?(怒る言い訳)
” 飯綱・【綴】 ”
あたしは目の前の男に血走った目で狙いを定めた。




