第17話 精霊のいたずら
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はて、この状況は夢ではないのだとしたら私はどうするべきなのでしょう?
いきなり天井から落ちて来た不審者と二人っきり。
もしかしたら後ろの信者達を洗脳している犯人かもしれませんし、ヤバいです今。
主に私の命が。
ここは一応聖職者ですし…って祈るくらいしか出来ませんね、この状況だと。
おや?見てみればお姉さんはこちらに視線を向けていない。
…あぁ、なるほど、後ろで未だに祈り続けている信者に気がつきましたか。
おやおや、とても驚いているご様子ですね。
…この様子だと信者達を洗脳しているのはこのお姉さんではないようですね。
むしろキモいとばかりの顔をされています、私も同意しますが。
ん?なんでしょう?
お姉さんが私の後ろに向けていた視線を私に戻した。
そして、
「あの?!……ぉお!?…!!」
なにか言葉を発しようとした瞬間いきなり体を硬直させ、なにか痛みを耐えてるようだ。
…あ、涙目が可愛いですね。
耐えてる姿もなんかこうグッとくるものがあります。
ここは聖職者として一言声をかけておかねば……聖職者って言葉はこのくらいしか使う機会がないですね。
おっと、深呼吸・深呼吸。
そんなに焦っていても始まりませんし、落ち着いていかないと相手方も困ってしまうはずです。
男は常に心は紳士で居なければ。
…よし!いける!!
「…大丈夫ですか?」
…完璧だ。 私史上最高と言っても過言ではない。
…………なんか達成感とともに虚しい気分になったのは何故だろう。
そう私が考えている中、お姉さんが言う。
「はい、大丈夫です。」
…ものすごい笑顔で言われてしまった。
何か照れくさいですね、もう惚れちゃいそうですよ。
でも何故でしょうね、それなのにお姉さんには恋しそうにありません。
何故か貴方に手を出したら死より恐ろしいめに遭いそうな気がするんですよ。
……………。
そうして私はひとまずさっきまでの思考を打ち切り左手を顎に当てて考える体勢になる。
さて、こういう愉快な思考をずっとしていたいとは思えるのですがそろそろ本題に入らないといけませんね。
といあえず目の前のお姉さんは私になにやら聞きたい事があるご様子です。
そこで本題、私はここでお姉さんの話を聞くべきか逃げるべきか。それを決めなくてはなりません。
まず、お姉さんの話を聞く選択をするとしたら不確定要素は…天井から突然落ちて来た、違うとは思うがここの信者への洗脳らしきもの、さっきの硬直…。
…うん、心配になる不確定要素が多過ぎる。
これって逃げの一択じゃないですか。
なら善は急げです。
「そうですか…じゃ、私用事を思い出したので失礼しますね!」
ここまで流れるように言えた自分を褒めてあげたいですね。
まぁ、褒めるのは後にしてさっさと逃げましょう。
そうして私は颯爽と逃げたのだった。
……逃げられませんでしたがね。
去ろうとした瞬間に服の襟の部分を掴まれてしまいました。
一応抵抗はしたんですよ、襟を掴む力もそこまで強く感じなかったしなんかそのまま前進してもそこまで苦しくなかったので。
でも悲しいかな、私は生粋のインドア系男子なので結局女性一人からも逃げられなかった訳です。
しかし、逃げるのを止めたのには他にも理由があったりするんですよ。
なんかさっきから違和感を覚えていたのですが襟が掴まれているにも関わらず前進して首が絞まった時、ふとその違和感の正体に気がついたのです。
違和感というのは朝にあった御告げの内容です。
『神は銀、日は赤色、届きしもの、かの者を救いたもれ。』
正直まったく内容の意味が分からなかったのですが、お姉さんを見ていると何かこの文章と共通点が多いように見える。
髪は銀髪ですし肌は赤色、ここまで文章と合ってるなにか…。
…あれ?むしろそのままでは?
だってこれ私が聞いた御告げの文章ですから…もしかして実際の御告げって、
『髪は銀、皮は赤色、届きしもの、かの者を救いたもれ。』
こうだったのでは?あれ、それなら私はこのお姉さんを助けた方が良いのでは。
なんか内容が当たり過ぎですし、手助けして損は無い気がしますね。
では、早くここを移動した方が良さそうですね。
救えの意味が具体的には分からないので私の独断になりますが、おそらくこの城から逃がせば良いのでしょう。
そう考えた私はその後、お姉さんを連れて教会を出ました。
出来るだけ信者の方は見ないようにしたのですがやはりどうしても目がいきますね。
私が前を歩いてもピクリともしませんでしたから。
扉を出る時私が思ったのは、…あ、ジロウ(祈る時、隣にいた同期)蹴っとけばよかった、でした。
そして教会を出た私達は、そこから何故か廊下談義をしばらくしました。
当初とはかなり予定の違う話になってしまいましたがとても有意義な話も聞けて結果的には楽しい時間でした。
とりあえず明日からはバロカスの野郎にどうやって復讐してくれようか考えましょうかね。
あの時はよくも嵌めてくれましたね、あの糞野郎。人に悪い事したら自分に返ってくると教えてやりますよ。
しかしハルさんと言う名前のこのお姉さんとは気が合いそうです。
特に廊下の装飾に対する評価なんて少し驚きましたが最高でした。
出来れば友人になりたいですが、まぁ、それはこれからですね。
さてさて、これからどうなるのやら。
side白露
…あれから戦闘が始まって一分くらいでしょうか。
私は迫ってくる剣撃を避けたり、最小限の実体化で刀を弾いたりしながら考える。
やはりと言うべきなのか、この黒鎧の方はあの筋肉の方と同じレベルの強さを持っていますね。
日護様が居ないだけマシですが、これはさっきの戦いと同等の覚悟で行かなければ…!
前にこの方を不意打ちで倒せたのは僥倖だったようです。
今のハルではこの方に真っ正面から戦いを挑んだら負けてしまうでしょう。
チラッとアミアさんの方を見てみると私と黒鎧の速度が速くて魔法の照準が定まらないらしく少しおろおろしている。
というよりサポートすると言われましたが、私はアミアさんの使える魔法は一つしかしらないのですけど…。
しかしむやみに魔法を撃ってこないのはとてもありがたい。
ただ闇雲に魔法を撃たれてはこちらの損害が激しくなるだけです。
今は私がこの黒鎧を出来うるかぎり相手にしておくのが妥当でしょう。
…それもどこまで持つか分かりませんが。
私の場合はすぐ再生するので気付きにくいかもしれませんが、この方の剣撃は徐々に速くなっていて私の体に少しかすりだしています。
現状、妖術の使えない私ではいつか妖力切れで実体化出来なくなるでしょう。
正直ダメージ覚悟の特攻をしても良いのですが、このレベルの相手をそれで撃退出来る成功率が私の見解では30%程…。
一人ならともかくアミアさんの居る状況では低過ぎます。
…あまりアミアさんを戦闘へは巻き込みたくはないのですが仕方ありません。
アミアさんのアースボールで少しこの黒鎧の注意を引いてもらいましょう。
それなら成功確率は5分5分になるかならないかくらいには…多分。
…こういう時は当たって砕けろです!アミアさんに早く伝えましょう。
私はそう思い、次に刀を弾く際にいつもより強く弾きすかさず空いた方の腕で黒鎧にカウンターを送った。
私の反撃に黒鎧は私と少し距離を取るようにして背後にジャンプした。
その隙に私はアミアさんの隣へ移動。
「は、白露様、申し訳ないですじゃ。全然役に立てなくて、」
《いえ、今回は余計な事をしないだけ戦闘初心者としては上出来です。まぁ、聞こえてないでしょうけど。》
やはりと言うべきなのか私の言葉は聞こえていませんね。
こういう時は、筆談ですね。アミアさんが私が使っている文字が読めれば可能です。
おそらく読めると私は思いますが…試しに書いてみましょう。
私は指一本を実体化させ、爪を使い床に素早く文字を書く。
「次こそはお役に立てるよう、って…えぇっと、《落ち着いて下さい》?」
やはり読めるのですね。
私が使っている文字はこの国では一般的には使われていないのですがアミアさんは昔から知識を蓄える習慣がついていたようなので…ある意味カケでしたが知っていたようで助かりました。
ならばと、また床にガリガリ文字を書く白露。
「え?《次に敵が飛びかかって来たらアースボールをお願いします》…了解です。」
アミアが相手に聞こえないようボソボソちしゃべる。
うん、理解が早い子は好きですよ。
この娘は、もっと経験を積めば強くなるでしょうね。
この国に居る間はハル共々鍛えてあげましょうかね、本人が望めば。
というか何故黒鎧は攻めて来ないのでしょう?隙ならかなりあったはずなのですが…。
あ、もしかしてこの床に書いた文章を術式と勘違いしたのでしょうか?
確かに妖術の中にもこのように文字を書いて発動するタイプの術式はありますから、そう思っても不思議はありませんね。
私が今、妖術を使えないなんて相手方は知らない訳ですから。
なら、ここを狙わない手はありませんね。
また、床に文字を書き出す。
「《予定変更、撃って下さい》了解ですじゃ!」
そういうとアミアさんは両手を前に出して、魔力を手に集中した。
…いや、手に集めようとした魔力の大半が外に漏れている!?
しかも目に見える赤色で、まるで炎のように。
アミアさんは気付いてないご様子ですが…。
……あれ?アミアさんって目の色は赤色でしたっけ?
sideアミア
なにやら力が溢れてくる。
前に攻撃魔法を使う際に練った魔力の比ではないのぅ。
しかしこれから撃つ魔法は初級魔法である【アースボール】、そこまで魔力はいらない筈なのに何故ここまで魔力が溢れ出るのか!?
クッ!…仕方ない、この強大な魔力、全てあの黒鎧にぶつけてくれるわい。
これ以上白露様のお荷物になってたまるものか…!!
そうして私が詠唱を口にしようとした瞬間、私は体の制御が効かなくなった。
(え?動かぬ、声が出せぬ。)
そうやって私が混乱していると口が独りでに詠唱を紡ぎ始めた。
「地の精よ、我が力に共鳴し、調和し、天を貫け。契約は従い、一度眠り、二度騙し、三度終わりを告げた。始まりはなくただ原初の炎を灯せよ【ハイメテオ・ブレイク】」
(なんじゃ、この詠唱は?!こんな魔法私は知らんぞ!?)
そんな私の事など気にする事も無く、魔法が発動した。
詠唱を終えた瞬間、私の出していた両手のひらの前にちょうど私の手のひらと同じくらいの大きさの岩が出現した。
しかしただの岩ではなく、その溝のようなところからは溶岩のようなものが流れている。
それがそれなりの速さで黒鎧の方に飛んで行った。
ショボッ?!
速さは私がギリギリ避けられない程度の速さで、このままでは敵の刀に前のアースボールの時のように斬られて終わりだ。
私の意思ではないとはいえ大層な詠唱をしてこれとは…情けない。
ほら、もう黒鎧なんて斬る体勢に、って…。
私が絶望しかけていると、目の前に…嫌、正確にはさっきまであの小さな岩があったと思われる場所に数十倍の大岩が出現した。溶岩も変わらず流れている。
そしてその大岩はさっきの小さな岩とは比べ物にならない速度で黒鎧を吹き飛ばした。
黒鎧は、
「なに?!!がぁぁぁっ!??」
という声を上げながら、森の奥の方まで飛んで行ってしまった。
大岩は結界をも壊して進んで行ったため周りの景色に色が戻っていく。
ポカーンと、私と白露様。
いったいなにがないやら?術を発動した私自身分からない。
いち早く復帰した白露様が床にまた文章を書き出した。
「《とりあえず、情報整理は後にして逃げましょう。ここの結界が壊れたという事は直に警備兵も来るでしょう。後最後に…アミアさん、がんばりましたね。お疲れ様》…ありがとうございます。」
何故だろう、さっきまで混乱してた事がどうでも良くなってしまった。
全て報われた気がした。
そして私は立ち上がり、白露様に頷いてその場を後にした。
side白露
アミアさんの瞳は魔法を使ったあと元の緑色に戻りました。
さっき溢れていた魔力もどこかへ消えています。
…あの精霊の仕込みですかね。
アミアさんが使ったあの魔法は炎と土の合成魔法。
確かAランクの高等魔法だったはずです。
アミアさんが知っていたとしても実践で使うのは難しい魔法だ。
という事は、外部から何らかの接触があったという事です。
…まだよくわかりませんが、精霊はアミアさんにご執心のようですね。
まぁ、精霊が味方と言うなら心強いです。
一度落ち着いたら調べてみますか、この国の事、ムジャパティの事を。
早くハルと合流しなければ。
夜の7時くらいにこの夏休みは更新して行きます。




