第10話 現場はいつも予想の斜め上を行く!!?
第12話です。そこそこ長くなりました!最後まで読んで頂けたら幸いです!
修行を始めてから10時間が経過した。
俺の修行を見ていた白露が何かに気付いたように目線を斜め上に上げた。
「む、いったん修行は中断しましょう。」
ん?どったの?
「外はもう朝の7時です。一度戻って朝食にしましょう。」
あぁ、そんな時間か
この空間にいると時間感覚が狂うねぇ
少しと言ってたがどのくらいこの空間では時間延びてんだろ?
と思っていると白露から声がかかった。
「では、戻りますよ」
りょーかーい
白露はおもむろに左腕を前に出して指先に力を込めた
白露が指をパチンッと鳴らすと黒い空間に亀裂が走り、ガラスのように砕けた。
「はっ」
最初に目に入ったのは木造の天井だった。
ぶちゃっけ”知らない天井だ”って言って良いかな?
別に寝ぼけてないけど...
「しかしさっきまでの事が夢であったようですね」
!....あぁ、そっか。
体に戻ってるから口調も白露の物に戻ってるのか。
なにか違和感が拭えないので本家の声が急に聞きたくなった。
だから呼んでみる。
「白露」
《なんですか?》
呼んだらすぐ答えてくれた。
やはり俺が彼女の声でしゃべったのを聞くより、本人のものを聞く方がかなり落ち着く。
というか意識繋がってるから別に直接しゃべらなくても良いんだった。忘れてた。
いや、白露の声は落ち着くなぁと思って
《そ、そうなんですか?ありがとうございます。というか普通に声を出しても大丈夫ですよ?》
落ち着くと言う言葉で照れる白露。
この娘、何故褒め言葉にこれほど慣れていないのか。
白露クラスならかなり周囲のやつが褒めちぎっても特に驚かないレベルなのに。
まぁ、友達である俺がその辺の耐性を少しずつつけていこうかね、将来この娘が騙されない為に。
...白露よ、君の声でしゃべる俺に違和感は覚えないのか?
《え?違和感しかありませんけど?》
...この娘、ついでに天然も入ってるのかもしれない。
悪意が無いからたちが悪い。
そういうことだよ。俺も結構な違和感を感じるからこっちの方がしゃべりやすいのだよ
《そうだったんですか。でも口でしゃべらないと言うのは結構なストレスになりますからちょこちょこはしゃべって下さいね》
こういうちょっとした優しさは時に心を癒してくれる。
まったく、なんでこれで褒め言葉に慣れてないんだろうか?
絶対べた褒めされる事確定の娘だろうに、よほど周りの見る目がなかったんだな。
《あ、朝食の用意は済んでますよ。貴方が目覚める前に体を操って準備しました。》
おぉ、根回しが良い!
ホントに気の利いた娘だねぇ。
《はい、後ろの机の上に置いときましたから食べて下さいね》
うむ、朝の朝食は何かなー?
と後ろを向いてみると
ピシリッ
その朝食を見た瞬間固まってしまった。
《あれ?どうかしましたか?》
白露よ、これは何かね?
《はい?これは.....油揚げですね》
そう、この白露が用意したという朝食が、油揚げと牛乳だったのだ。
いくら美少女が用意した飯でも朝からここまでヘビィな物で、昨日かなり食った物を出されて嬉しいだろうか?
...え?嬉しいって?
...それでも出されるまででしょう?
それを食うのとでは別問題だと思う。
これが嫌がらせでないというのがむしろ驚きである。
天然恐るべし!!!
ま、それはさておき
いやいやなんで油揚げ?昨日食ったじゃないの。
《え?私の出来る最高級の朝食なんですけど?》
どんだけレパートリー少ないの!?それとも気付かなかったの?!
だとしたら他に何が作れるのよぉぉ?!
《はい、えぇっと、油揚げの...》
あ、もういいや
《えぇ?!なんでですか?!まだひとつも言い切れてないんですけど!?》
いや...だって、ねぇ?
最初から油揚げのってつくって事はおそらくだけど。
...君ってもしかして油揚げ料理しか知らないんじゃない?
《う?!.........い、いえそんなことないですよ?》
間が長い上になんで最後疑問系?
というか今思ったけど目の前のこれってそもそも料理じゃなくないか?
だって油揚げがそのまま乗ってるだけだもの。
《そ、そういう貴方は何か作れるんですか!》
誤摩化したね。
まぁ、一応一人暮らしの貧乏生活だったから基本的な物ならそこそこ。
《ほ、ほほぅ、な、なら作ってもらいましょうか》
どんだけどもってるんですか君は...
いいけど、じゃぁ冷蔵庫は.....ないか。
なら材料はどこだい?
《そこの棚の中にあります》
わかった。
よし、じゃあある物わっと
油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、水、油揚げ、油揚げ、油揚げ、油揚げ、牛乳、油揚げ...
使えねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!????
というか調味料すらないのは何故?!
もうやる事と言ったら朝食の牛乳を水に換える事くらいじゃないか!?
《あのぅ、作らないんですか?》
作らないんじゃなくて作れないんです。
白露よ、ごめんな、この朝食に一切の文句は無いよ。
おそらくこの娘も一生懸命考えたんだろう。
しかしこの材料じゃまともなものを作れないからって最高級なんて言葉で誤摩化していたんだな。
《?はい、では召し上がってください。私も食べたいので》
...そう信じてもいいよね?なんかちゃっかり本音が出てるけど
まぁ、飯食わなきゃ後でどうなるかも分からんし腹ごしらえはしとかないとな。
んじゃ、頂きます。
手を合わせて、皿の上の油揚げを一枚すくった。
...というかこの油揚げって昨日のか?痛んでないかな?
《あ、私の術で衛生管理はしっかりしてますから大丈夫ですよ》
何故俺の考えがわかったのか
《すくった油揚げをじっと見ていたら予想くらいはつきますよ》
あ、それもそうか
《それに私が油揚げの管理を怠るわけないでしょう!》
それもそうだな
ついでに君の、早く食えと言う気持ちも痛い程伝わってくるよ。
はぁ、改めて頂きますかね。
でもさすがに昨日みたいに一気に食う事は昨日の経験からやめておこう。
では、パクっと
《よし!キマしたキマs、なんでそんなちょびちょび食べるんですかぁ?!一気に食べましょうよ!!》
無茶いわないで下さいよ。
俺の精神の胃が死ぬじゃないか。
ちょびちょびパクパク
《くぅぅ!歯がゆい!ものすごく歯がゆいです!!》
君ってホントに油揚げ食う時だけキャラの崩壊が激しいよね
あ、なくなった
《え!?全く食べた気がしませんでしたよ!??》
でも食べたんです。
次食う前に牛乳飲んどこうかね。
《むぅ...あ、食べながら聞いて下さい。そういえばさっき気付いた事なのですが...》
ん?なにかあ、ブファッ
思わず口に含んでいた牛乳を吹いてしまった。
なぜなら、薄く光ってはいるが幽霊のような状態で浮いている白露の姿があったからだ。
《こういう事が出来るようになったみたいなんで、ってうわ汚い、何するんですか!》
あ、悪いね
ってまてまて、まずなんでそんなことになったの?
まさかそんなこと出来る術があったのかい?
《いえ、そんな術はありません。そもそもこんなことを術で出来るのならとっくにしていましたよ》
《おそらくこれはハルが正しく認識したから起こった現象だと思います。まぁ、こんな事例を聞いた事がないので確証はありませんが》
認識って?
《まず私の存在を、次に世界の知識を、最後にハル自身の何らかの決意を貴方自身が認識することでこの世界に貴方が順応し始めたのでしょう》
え?まじで?
そういえばさっき体を起こした時、体が軽かったような...あれ?今はむしろ重い、何故だ?
つかそんな状態になっても普通の会話は出来ないのな。
《そうみたいで、あれ?なぜでしょう?形が維持で...き..な....》
そういうと幽霊みたいになっていた白露は光の粒になって霧散した。
ダダダダダダダダダダッ
「白露様!大変ですじゃ!起き...て」
またタイミングの悪い所できたねフルジさん(村長)。
しかもなんだい、その驚愕した顔...いくらこの光が変だからってそんな顔しなくてもいいじゃないか
《あ、元に戻っちゃいました。せっかく視覚化出来たのに...》
残念だったな。
まぁ、落ち込むな。また今度色々実験してみようよ
と、それよりフルジさんが緊急の用みたいだったな
「なにかあったのですか?」
「はっ、そうですじゃ!今村の警備を担当している者から報告が入りまして」
ん?なんか激しくいやな予感がするな
大体このパターンは俺の予想が間違っている方のやつだ
「昨日の山賊が仲間を引き連れてこちらに向かっているのが見えたそうなのです!」
ほらやっぱり
「その数、およそ100!!」
予想の斜め上を行っただと!!?
「って、どれだけ多いんですか!?普通の山賊の軽く5倍はいるじゃないですか?!」
「それが辺りの山賊同士が結託してこちらに向かって来ているようなのですじゃ。理由は...察しておられるでしょう?」
え?何が?まったく察してないんですけど、白露は分かるかい?
《当然です!》
おぉ!わかってるのか!いつになく声が張り上がってるけど...で?その理由って?
《それは油揚げですよ!この村の名産品に違いありません!!山賊達もこれを狙って来ているに違いありませんよ!!!》
なんでだよ!?普通油揚げごときでそんな大群来るはずが.....いや、待てよ。
俺の世界では油揚げはその辺にあるものだがこの世界ではどうなのだろう?
白露のいう通りここの名産品であるのなら、もしかして希少なものなのでは?
それをこの村以外、例えばどっかの国の珍しいもの好きの金持ち辺りに売ったら金になるとしたら?
あれ?けっこう辻褄が合うんじゃないか?
《そうですよ!あんな素晴らしいものを見逃す手は無いはずです!!》
どう考えても君のは私情が入りすぎてるだろうが
まぁ、今回は当たってるようだけども
あれ?それならお礼にともらったあの油揚げはこっちではかなり高級品?
なんか悪い事したなぁ。
とりあえず嫌がらせではないのかと言ってしまった事を激しく謝りたい!
まぁ、もらった分は山賊を蹴散らす事でチャラってことにしよう。
よし!そうと決まれば
「わかっていますよ。奪わせたりしません。私は守りきってみせます。その為にフルジさん、山賊はあと何分くらいでこちらに着くかわかりますか?」
ここまで言えば俺の誠意は伝わっただろう。
あとは結果を出さないとな
「おそらく、時間にすると20分程じゃと」
思ったより時間があって助かった
これなら少しは復習できるね
《そうですね。一応形になって来ていたあれくらいなら、即席でいけるでしょう》
よし、そんじゃあれを完成させようかな
まぁ、その前に
「フルジさん、私はこれより少しの間瞑想をするので先に行って村の守備を固めていて下さい」
さて、どんな言い訳をしようか。ここで今からのんきに瞑想するなんて言ったから多分怒鳴られるだろうなー
と思っていたが
「わかりました。しかし速くお願いしますじゃ」
と言ってフルジさんは部屋から出て行った。
結構あっさり解決した。
なんかあっさりすぎる気がする。
...まぁ、考えても仕方ないか
白露、お願いしますわ
《分かりました》
俺はゆっくり目を閉じた。
パチンッ
瞑想《修行時間》開始
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