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rest 1 ―関西弁―


「珍しいな……。京が遅刻しよるなんて」


「ああ……。まあな……」


「一体どうしたんや……? そんな青白い顔して?」


「ここって……学校だよな? 学校なんだよな? ああん?」


「出会って早々マジギレかいな? おい胸座を掴むなって…さては……じぶん……徹夜でオウガ亜種やっとったんとちゃうんか?」


「来週期末テストだぞ? やってる暇なんてねーよ」


「ふっ。わいはやったで!」


「とんだゲーマー精神だな。おい。またお前追試受けるぞ……」


「追試でっ……はあ…ゲホッ……受かればええんやそんなもん」


「……そうかい……勝手にしろ」


「おい……胸座掴むのやめろやッ。息できねえよッ。死ぬぅ……」


 教室。隣向かいの席に座る長身の男―友人である 小早川 志郎 は胸座をつかまれて苦しそうになっていた。

とっさに俺は、想像以上に胸座を掴んでいた手の力を弱めて開放させてやった。


「す。すまん……わざとじゃないんだ」


く……親友よ突然の奇行を許してくれ……。


「だッ大丈夫や……はぁ……はぁ。とにかく座れ、みんなこっち見ちょるさかい」


 志郎は首元を抑えながらそう促し、席に戻る。

 周りを見ていれば知っている面々が俺たちに奇異の視線を向けていた。多分周りは親友同士の喧嘩か、逆にふざけあっての行為か、ホモか……そう思われてしまっているのだろうか。いやな話ではあるが、この身にたったそれだけの羞恥では効きはしない。


 行っても遅刻すると分かっていたが、それでも俺は羞恥と憤慨でどうかしてしまいそうな重い身体を引きずってまで学校までやってきた。正直、勉強で徹夜した時よりも眠いし、だるいしベットで横になりたい。本来の自分ならば――あの全裸の少女に会わなければ、平気で学校を休んでいたに違いないのだ。

 しかし、あの部屋ですやすや平和に寝ていたら大惨事に繋がらないし、まず寝れるとは思わないし、今度は命を落とすかもしれない。本気で。

 だからこそ空腹の少女に、両親に多少怪しまれながらも食事を入手し――その時はいつばれるか、いつばれるかと栓を抜いた手榴弾を持った気分であった。それはいいさ……それはな。部屋に戻って食事運んで彼女に渡す……そしたらな、どうしたと思う?――手で食べ始めたんだよ……。

 ありえない話だが、箸の使い方も分かんないらしく、持たせても握るだけであった。仕方ないから俺が与えるしかなかったし、長い間食事を取っていないのか、笑顔を絶やさなかった彼女の表情がかなり険しかった。

 ふう――食事を与え終え、一息といきたいところだったが、大きな問題がまだ残っていた。

 彼女の服装は姉が着替えさせた際どいメイド服で、そのままほっとくのは健康的も悪かったし健全的にも非常に悪い。”着替える”という行動を知らない彼女なので、着替えさせるしか方法は無い。姉に着替えさせるよう頼もうかと思ったが、やってくれそうもないし、会いたくも無い。


 だから仕方なく着替えさせてやったのさ。

 下着を着けていたのは幸いだったが、果てしない眩暈とだるさがあった。


「おい! 京! 大丈夫か?」


「…………駄目かも知れない」


 寝起きに全裸の少女、姉の悪辣な罠。その数々の出来事を思い出すだけで羞恥心と姉に対する怒りがあらわれては俺の精神力と体力を削ってゆく。


 それに今後の少女の対処法を考えなければならな


「おいっ!」


「あら」


 黒板が、教卓や机が、生徒たちと志郎の顔がぐにゃりと曲がり、終いに暗転し真っ暗になる。

 肩のほうに衝撃が走ったが定かではなく、耳には悲鳴と俺の名前を呼ぶ声が何十にも響いた。




*****




「あたしねおおきくなったら、きょうちゃんのお嫁さんになりたいな」


「おれはお前なんかと、やだぞ!」


「なっ……なんで?」


「しょっちゅうドジするし、そのたんびにべそかくじゃないか」


「……だ……だって」


「とうちゃんはおんなの子だからって、ないてばかりじゃダメっていってたぞ。お姉ちゃんだっていっかいも泣いたことないんだからな」


「……でも……ひくっ……なきたくなくても……ないちゃうもん」


「だからっ…なくなって。わかったわかったよ……なくな」


「ふっふえっ。ひくっ……うん」


「おれがつよくしてやる、おとこだろうがもんすたーだろうが倒せるおれに」


「ほんとうに」


「ほんとうだ」


「やったー」


「おい! いってえよ! たおれるから! はなれろバカ!」






****





「む」


「気が付いたみたいやな」


「ここは?」


「保健室や……たっくいきなり首絞めるは、派手に倒れるわ……どこの漫画の主人公だよ。自分は……たく心配させおって……」


「すまない」


 どうやら俺は教室で昏倒したらしい。

 頭には保険室用の大きな枕。身体には柔らかく安心感をただで醸し出してくれる分厚い毛布。隣には心配そうにこちらを観察する志郎。保健室特有のベットを区切るカーテンのせいで外を見ることはできないが、志郎が二つのセカンドバックを膝に抱えている時点で放課後だと推測できた。


「何か不幸な事でもあったんかいな?」


志郎とは高校からの友達だが、妙に気の合う奴で、中学校から比較的つるんでいる友人がこの学校には多いのだが、とりわけコイツとつるむ事が多い。コアな携帯ゲームを好み、遊ぶところが引っかかるのかなんというか。語彙が余り無い俺ではこれを言葉では表せないのだが。”こいつに任せれば安心できる”という雰囲気がある奴なのだ。


「……」


「ちゃんと言うてくれよ! ……俺たちの仲やないか!!」


 志郎は語尾を強めにして俺にそう言葉を放つ。

 言って楽になるならまだしも、 ”今日起きたら見ず知らずの少女が全裸で、それについて姉が傷口に塩を塗る形でいじめられてすごく疲れたかもしれない……” なんてことは絶対にいえない。たとえ信頼できる友人であっても。まず言って信じてもらえる事項ではないし、これ以上友人を困らす事を、こいつの友人としてしたくは無い。


「……すっごく気になるエロ画像見つけてさ……それでこの有様だ」


「……」


 見え透いた嘘だとは向こうも分かっているだろう。男同士の親友として、ぶん殴られるのを覚悟していた。


「そこまで言いたくない事情だったら別に言わなくたってええわ」


 一区切りつけて、


「辛いんだったら言ってくれ……っ恥ずかしい事言わせよって。阿呆」


「すまん」


 今日で何回こいつに謝ったのだろうか……。


「謝んでええ、とにかくだ。そろそろ ”ヒヨリ” の部活が終るから横にしてろや」


「ヒヨリ? こっちに来るのか?」


「たりまえやろ、お前の幼馴染なんやから」


 ヒヨリ。姓は秋中。同じ学年で吹奏楽部に所属。今現在はきっと音楽室かどこかで楽器をいじっているのだろう。ガキの頃からの付き合いで、心配するのは御尤もの人物だった。


「羨ましいな」


「なにがだ」


「幼馴染がいるって事や」


「は?」


 突然何を言い出すんだコイツ……。


「幼馴染つったら、アニメとか小説とかであるあれや。ハーレムだよ。男の夢だよ? いやあ羨ましいホンマ羨ましい」


「それは虚構世界の中のお話だろうが! ……これ結構前にも言ってなかったか」


 確かこいつに出会って三年立つが、同じような台詞を俺は十指では数え切れないほど聞いたことがある。

 ……たっくいい奴ではあるんだが、ところどころバカで困るぜ。・・・まあそのアニメ的展開な事で頭を悩ませてるんだけどね。


「羨ましくなんかねえよ。確かに幼馴染とかハーレムとか男子を誘惑する妖艶な力を持ってがな、あったらあったでいいことばっかりじゃねーだろ? っていうかこの前おまえ言ったよな ”恋愛よりゲーム” だって」


「痛いところつくな自分。確かにお前は幼馴染がいてヒーハーしてもう飽きちゃったが、俺は遊びたいんだよ」


「傍から聞けば ”お前の幼馴染と遊ばせろよにひひっ” にしか聞こえないぞ。ゴラっ……。やべっ喋りすぎた」


「大丈夫か?」


 ほんの一瞬だが、頭に激痛が走る。

 会話に熱中しすぎて自分の体の状態を忘れていたが、倒れたんだよな俺。


「っっっ……ちょっと頭痛があるだけだ。それより聞いて欲しいんだが」


「何……や?」


「あんまし真面目な話じゃねーよ。……お前だったら、この世界のどこかで――例えば幽霊とか、異世界人の類やら……そういったものを見たとき信じるか?」


 勿論それは今日あった出来事についての事で、少女の事である。

 自分でもなぜそんな事を口走っているかは分からなかったが、なんとなく気付いたら、口から自然にその言葉は出ていた。


「……いきなり謎言かよ。……そーやな」


 普通だったら。

 普通の世界だったらきっと、幽霊なんかはいないんだし、異世界人だって虚構世界の、紙の中か人の思考の中でしかありえない。



 ――でも俺たちはそれらを ”一回” も見たことは無い。これから何時間、何十年、何千年、何億年たって出くわすかは分からない。世の中には常識では計り知れない、摩訶不思議な事例があるのはきっとこの世界に ”何か” が待っているんじゃないか。そう思ってくる。


「理論とか道理じゃきっとありえへん事は山ほどあるさかい……ただそれってのは人で作られた道具の”一つ”やろ?道具ってのは壊れるし、微妙に不具合だって生じる――ただの心持で実際あらへんかもな……。ただな――ある時はあるし、ない時は無い、そんなもんやろ」


「そうかい。お前に聞くのが間違えだったよ」


「……それって不正解だったって事か?……俺にはそういうことを言う才能は皆無なんですー」


「正解でも、不正解でもないだろ。お前、どっちも答えてんじゃねーか」


 ――ある時はあるし、無い時はない。答えにはなっていないが、それは的をいっている。

 それが世の中ってもんだろう。それが世の中ってものだろうか?


 そんなバカで何とも若らしい青い会話をしているところだった。


「京君はどこだぁ!!」



 がらりっと、突然勢いよく保健室の扉がひらかれたと思ったら、彼女はそこにいた。


毛虫に首をやられた!毛虫って針で刺すのかなって思ってたけど、毛を撒き散らすんだね!ああ、すごく痒い。……どうでもいい話、申し訳ありません。



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