the worst―魔性の姉君―
「パンツを貸してください」
あまり派手派手しく無いところは姉弟そろって同じだが、姉の方は白と黒を強調した部屋で、ベットの上には本来 前橋 京 -俺が所持する筈だった高級毛布があった-そう。ここは憎き姉の部屋で、今まさにその部屋主である姉と対峙していた。
「遂に頭が逝ってしまったようね・・・我が弟。ふふふっ。好きだよそういう異能者は」
「言いたい事は分かるが、・・くっ・・あれはお前のせいじゃないのか?」
早朝早々姉に「パンツ貸してください!」といったセクハラ発言をする時点でもう彼女の言葉を否定する事は出来ないけどよ、っまってくれ!違うんだよ!言い分があるんだって!崇高な使命が待ってるんだって!
人の出入りが俺と友達と親族しか無いはずの自室で全裸の少女が現れた・・・のだ。
でとにかく全裸で入られるのは困るので服を渡したんだが、
「着替えるてなあにぃ?」とか容姿にあわない事を言い出すは何は・・・・自分の名前すら知らないらしい。
それに男物のパンツをはかせるわけにはいかなかったので。この地に足を踏んだのだ・・・全くもって崇高じゃねえな。自分で言ってなんだけど。
「私のせい?ふざけないで頂戴?前々からそうする事は気付いてたけど・・・まさかその年であそこまでの異能をやらかすとはおもっては無かったわ・・・さすが我が弟。賞賛に値するのを通り越してさすがの私でも引いたわ・・・」
それって褒めてんの?馬鹿にしてんの?お前は違った意味で間違えてるよ。てかその厨発言を止めろ。
昔から俺の姉 前橋 ルカはそんな喋り方をしていた。服装はパジャマでも何でも白と黒のコントラストのものを着て、童話に出てくる魔女のように俺のことを散々と馬鹿にしてきた憎いやつ。
きれいな容姿はしていても一度も好感度を持った事もないし、有ったとしたら憎しみだけだろう。正直顔見もみたくない。
「真面目な話だ。過去の事全部流してもいいから下着を貸せ」
傍から見ればどうしても下着が欲しく、そのあまり恐喝する弟にしか見えないがそんな事はどうでもいい。
下着を手に入れなければ全裸が、途中で諦めてもただ俺いじめの題材にしかならない。ここは恥ずかしくても通さ無ければならない。
「ふっ・・・。仕方ないわね。いいわ貸してあげる。わが邪剣をね・・・果たしてあなたの姫君に扱えるのかしら、せいぜい拒絶反応を起こさない事ね」
物凄くかっこよく言っているつもりだが、半分も理解できないし、恥ずかしくないのだろうか?
「じゃあ-」
「但し」
「・・・なんだ?」
「「俺はシスコンだぁ。朝プレイ派で幼女もいけるぜ!ヒーハ!」って窓開けて叫ばなければ渡さないわっ♪」
何の代償も無くのこのこと、物を貸してくれる奴だとは思ってはなかったが-貴様ああああっ!!!ああん?何だそれは?俺に一人で裸兼アイテムなしで祖龍倒せって言ってんのか?出来ねえよ?むしろそっちの方がいいわ!!
そしてそんな逆境に陥っている俺の背後から。
「京ちゃん♪♪」
と可愛らしい声が聞こえたなあ。オイ。全裸の少女が俺の肩に寄生を開始。生暖かいものが確かに背に感じる。止めろ。そいつは異星人だ、欲情するな。おい俺のリヴァイアサン!動くんじゃない!
「貴様ぁぁぁぁっ!部屋で待ってろって・・・動くな局部を隠せ!見えるから!健全な男子高校生にそれが一体どのくらい害があるのか知っての行動かっ!」
自我も忘れ、爽やかな朝だということも頭からは消え、猛獣のごとく俺は吼えた。全裸の少女に抱きつかれ尚且つ姉の部屋で。俺は一体なにをしているんだろうな。
「ははっ。もっともっとだわ。そんなんじゃ私は満足できないわ!」
腹を抱え頭を押さえ、冷ややかな目線とともに彼女は嘲笑する。
くっ。殺してやる。殺してやる!殺してやる!!今ならア○カ、ラ○グレー気持ち分かるわ。
「どうしたの京ちゃん?」
一方全裸は何も知らずに、本来男性には見せてはいけない諸々のあれやこれやを見せつけ、耳元で囁いて来る。君は本当に・・・・言葉にすら出来ねえよ最早。何?そうやって身体擦り付けて、あとから金でも毟る奴か。ん?・・・いつ俺の名前知ったんだ?
もう涙しか出てこねーよ。ここまでの羞恥をなぜ神は体現させているんだ。
「もういいわよ」
普通の姉だったらこの状態をあと三時間は楽しむだっただろう。姉は昔からそんな奴で俺のいじめを途中で放棄はしないし、極端に言えば相手を殺すまで痛めるのを止めない奴なのだが。
「後は私に任せて頂戴」
短い言葉を残し、嘲笑をやめ、普段の表情に戻る。普段の表情と言ってもかなり妖艶で、お世辞なしでコイツは美人である。
俺とあまり変わりはないクローゼットに彼女は移動していて、そこから純白の女物の衣服を取り出していた。-ふう。・・・・どうやら、協力してくれるらしい。今回のは相当面白かったらしい。むかつく話ではあるが。
「ほらっコッチおいでぇ・・・。私色に染めてあげるわ・・・。ふふ・・・ふふふ・・・あはっ」
前言撤回といこうか・・・。火薬の匂いしかしないのだが、ここはコイツに任せるしかないだろう。相手は悪魔で女だし俺が着替えさせるわけにもいかないだろう。正直この全裸野郎のkeep outゾーンを見て人間としての最低限の理性を保てる自信が全くない。
「さあ男の子はでていきなさい!!」
「・・・ああ。わあったよ」
俺はとり合えず全裸を彼女に渡し、踵を返してさっさと部屋を後にした。まあなんだほかの女だったら断られるんだが、そういった意味では彼女に頼んだのは間違いじゃないのかも知れない・・・。廊下で胸を撫で下ろし呼吸を整え、拳を硬く握り、
「覚えてやがれよ!厨房がぁぁぁっ!」
と低くうなったのであった。
****
下で朝食を高速で済まし、現在平和になった自室で登校のための準備をしていた。
正直学校に行く気は今まで起こった出来事で零付近までなくなったし、もともと行きたくは無いのだ。だからといってこの非現実的現象が発生する戦場(そう思う)にのこのこ立っていたら、延髄まで犯され、脳腫湯で倒れるに違いない。
しかしだ。
あの少女は一体何なんだろうか?何のためにここにいるんだろうか?
現実的に考えればこの部屋に入る事は不可能である。玄関には当然鍵はかかっているし、全裸じゃあ深夜以外、外で動く事は不可能である(まあやりそうな事ではあるが)。そもそも全裸で俺の寝起きを襲う必要は何のために有ったのか。金でも取ろうとしたのか、それとも・・・・想像も付かない。
非現実的にこの事を捉えることも可能だが、それでは何通りもあるし、解決には至らない。
幽霊。宇宙人。異世界人。超能力者に未来人。その他諸々。
そういったカルトンの世界の住人がいれば即効で可能だが、それはあくまでの話。
まあそれがありえたとして、俺に会いに来た理由を知ることはできない。
「ふざけた話だぜ。畜生」
時刻は八時ジャスト。学校開始は三十分後で、ここから学校は徒歩でどんなにゆっくり歩いても十五分もしない。軽いセカンドバッグを担ぎ、また新たな問題が起きる前に部屋から出ようとしたらもう遅かった。
「京ちゃん♪」
本日で第三回目の”京ちゃん”コールである。ひじょーに可愛らしく、くすぐったい。
ドアノブ捻ろうとした瞬間に彼女は勢いよく抱きついてきた。どうやら全裸ではないようだ。
「よっし♪ちゃんと服着させてもらったか。よしよし・・・よしよしじゃねーえよ。っ・・・あの厨房謀りやがったなぁぁ!!!」
装着してきたのはパンちらぎりぎりのミニスカフリルが特徴的なメイド服でご丁寧に「京ご主人様は変態さんだぉ♡」と書かれた札を首から下げていた。おい・・・本当にあいつは人間なのか?両親に見つかったら心配停止で死ぬぞ俺(涙)、、、。もはやこれは殺人行為だよ!新種の誹謗中傷だよ!畜生!
「・・・どうしたの?何でそんな顔するの?」
”お前のせいだろーが”と憤慨をこめていってやりたかったが
「・・・あの厨房がうざったいからだよ」
あまりにも悲しい顔をするもんだから、違う事を口にしていた。
「厨房ってなに?」
十四歳か十五歳くらいの容姿をしているものの”着替える”という事を知らなかった。記憶喪失といった事は聞いたことがあるもの、生活で大切な基本知識までを喪失する事まであるのだろうか。・・否確か自分の名前も知らないと言っていたな・・・。・・・普通の十四、十五歳の女子なら”厨房”なんて知らないか。
「となりのやつだ」
彼女に分かるように隣の部屋を指し、いってやった。
「ルカさんはいい人だよっ。着替えさせてくれたし」
頬を桃色に染めて、さぞかし嬉しそうに呟く。
最早何も言えん。そんな格好させられたら普通の女は嫌がるぞ。
「それに・・・」
「それに・・・なんだ」
「なんでもないよ♪」
・・・。なぜ言い躊躇ったのだろうか。まだ二時間ちょいしか付き合っていないのだが、彼女なら隠さず全てを喋ってくれそうな感じがするのだが・・・。
「・・・なんでもないのか。まあそれなら・・・とり合えずこの手を放してくれ」
何も言わなければ寿命尽きるまで抱き付きかねないので、強引に手を放す。
「京ちゃんって暖かいね」
「たりまえだ生きてんだから当然だろ?ほらそんな格好は女の子はしちゃあいけない。コレ着ろ・・・ん」
水色のパジャマ-最初はとにかく露出を抑えるために出したものだが、大きさが合わないことを渡す直前で気付く。
「待ってくれ」
扉のすぐ隣にあるクローゼットの奥を探る。確か小さい頃のサイズが小さい服が何着かしまっていた筈だが。
「げ」
それは一着の純白のワンピースだった。
なかなか使わない、端の奥のほうにそれだけ女服が存在した。確か・・・これは昔姉が中学の時着ていたもので、あるひ「これあげわ」と嘲笑を携えて、くれた品の一つである。一回も使わなかったし、長い間使われなかったため皺は多いものの、新品のままの白であった。あと決して俺に女装の趣味があるわけでもなければ、女服を集めたがる変態のようには勘違いしないでほしい。
「ほれ。まともな服だ。さっさと着替えてくれ」
「あっ。うん・・・」
「どっ・・・どうした?おい!」
急に彼女は俯き、そして崩れるようにして膝をついた。頭には瞬時に最悪な展開を想像していた。
「あのね・・・」
「なっなんだ」
ぐーう。
「お腹へった♪」
「おいおい」
胸中は嫌な予感でいっぱいになっていたが―心配させやがって・・・。
はあ・・・どうやら摩訶不思議な少女には減る腹があるんだなあって事がわかった。まあついでに時刻は八時と三十分を示していた。