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【  And poisonous rain falls  】

【  And poisonous rain falls  】の続きです。二部構成になります。

 癇に障るその笑みに、幹もニコリと頬笑みを返す。

「……無駄口叩く暇があったらビジュアルどうにかしたら? ほっぺのハートが年齢を受けて崩れてるわよ四十五歳」

「君も二十歳の小娘にしては肌にハリがないんじゃない? 目もとの小じわとか本当見るに堪えないよブス」

 明らかにお互いを嫌いあっている発言が、それなりの音量で室内に響く。他のメンバーは面倒なことになったと頭を抱えたが、当の本人達はまるで見向きもせずに会話をヒートアップさせていく。

「若づくりには言われたくないわね。しかも自分の隊を女だけで固めるような公私混合爺に」

「公と私を分けることしか思いつかない前時代の遺物がこれからの世代を率いてくなんて王国も末だよね。自分の好きなモノで自分の周りを固めて何が悪いのさ。君の隊なんて君が毛嫌いする奴らしかいないだろ?」

「訂正しておくけど、あたしが毛嫌いしてるんじゃなくてあっちがあまりにもあたしのコト好きすぎるあまり求愛してくるからしょうがなくあしらってあげてるだけよ。大部隊ライフはとっても幸せだけど? あんたがいなければ」

「奇遇だね、僕もだよ」

「あら、気が合うわね」

「そうだね、運命かな」

「ねえ、そろそろ話しを進めたいんだけどいいかい?」

「構わないよ」

「構わないわ」

 最後にお互い至上の笑みを交わして、顔をそむける。屍とギルバは慣れ切った光景にお茶菓子を食べて時間を潰していた。アヤセも二人の了承を得てさっさと話しを進める

「じゃぁ、これから各大部隊の任務配分を言っていくよ。まず、第二はルジタ方面、第三はガルヴィノ方面、第四はピアナ方面だ。第零は悪いけど、【ワイバーン】の連中と一緒に、ギリナ方面の駆逐策に……」

「ちょっと待って」

「……あ、やっぱり?」

 何事もなかったように話を進めようとするアヤセに、会話の一か所から強烈な不快感を感じ取った幹がストップをかけた。

「今、【ワイバーン】の連中とって、言わなかったかしら?」

「うん、言った。悪いけどこれ、決定事項だから」

「ちょっとまってよ。何であんな奴らとアスクリア退治に勤しまなきゃいけないわけ?」

「落ち着いて。ちなみに今回の君の任務はアスクリア退治じゃなくて【ミディアン】退治だから」

「はぁ!?」

 今度こそ幹が声を荒げる。先ほどは不承不承と言った様子だったものの、納得をして席に着いていたにもかかわらず今回は席を立って抗議した。

 【ワイバーン】とは、階級的に大部隊よりも下に位置する通常の人間だけで構成されている部隊のことだ。隊長の左右木喜寿そうき きじゅが率いる【ワイバーン】はそれまで「大部隊のしりぬぐい部隊」として下に見られていた価値観を根本から覆した。

 アスクリアとの戦闘が存在意義であるこの世界で、通常の人間の部隊は異能者から見て足手まといでしかないし、通常の兵士から見たら異能者は信用ならない化物でしかない。

 その傾向が前【ワイバーン】の隊長は激しく、「バシリスク」と「ワイバーン」の間に交流は皆無であった。

 それが現在の隊長、左右木になってからは大部隊との交流も増え、大部隊の仲も回復した。

 ……が、第零大部隊の存在理由を左右木がある事件で知ってからと言うもの、彼女の待遇改善や現在の大部隊の内部改革などに奔走していることもあり、上層部からはそうとう威圧的な目で見られている上に幹本人が鬱陶しいと思っている。

 現在は【ミディアン】の退治に加え、上層部が嫌がらせで押しつけてきたとしか思えないアスクリアの退治をこなす【ワイバーン】と、非常に気まずい関係にある第零大部隊が組むというのは、完全に机上の空論だ。

「……絶対に嫌よ。ぜぇえええったいにいや。却下」

「そう言わないでよ。左右木の方から『南街を連れて来ないと第零大部隊のコトを告発する』とか言ってきてるんだから」

「だからさっさとアイツの家とり潰せって言ってんじゃないのよ。借金まみれの貴族の末端でしょ?」

「アイツの母親は『白銀』の犠牲者だ。前にも言ったけど、『副作用』が確認されるまで彼女の家の家族、知り合い全てに異常が出てはいけない。君も知ってるだろ?」

「そう……だけど」

 しかし、幹はむすっとした表情を崩さない。

「でも、なんであたしの任務が【ミディアン】の退治なのよ」

「そっちの方が秋房攸貴の能力を使う可能性が低くてすむだろ?」

 秋房攸貴。その名前が出てきて幹は思わず動きを止めた。

「……どういうことよ」

「君だけを呼びだした理由も今から言う理由に関わる。秋房攸貴には伝えられない、重要事項だ」

「焦らすねぇ。任務内容はあんなにあっさり言ったのに」

 聖が茶化すが、その瞳は真剣だ。【秋房攸貴】という人物はこれからの異能者がどのように成長していくのかと言う危機を体で表している。

 屍もギルバも黙って体をアヤセの方に向けていた。そこには若干の恐怖が宿っている。

「秋房攸貴は生かしておかなければいけない。しかし、彼の能力を使うことによってそれが危ぶまれる」

「どういうことだ。異能者が元々短命と言うことは知れていることだろう」

 ギルバがそう言った。

 異能者は身体増幅型を筆頭に、体の限界が近い者が多い。それは単に人間の処理能力の限界を超えた力を使っているからという理由なのだが、その問題も昨今極度に発達を遂げた身体強化技術で幾分か克服できてきている。

 秋房攸貴の体に何らかの問題が出るのであれば、その技術を使えばいいのではないか。ギルバが暗に言う内容に、アヤセはしかし首を振った。

「そうじゃないんだよ。そんな、技術でどうにかなるような問題じゃないんだ」

「じゃぁ、何なのですか?」

 屍が急かす。

 アヤセはゆっくりと言った。

「……幹。僕は秋房攸貴の能力使用後、君と攸貴、両方のメンテナンスを何度も行ったよね」

「ええ。そりゃぁそうでしょ。アイツの能力はあたしと素肌が触れ合った時だけ発動するんだから。あたしも調べなきゃ意味ないじゃない」

「その通り。そこで驚くべき事実が発覚した」

 アヤセが一枚の電子板を取り出す。そこには南街幹と秋房攸貴の生態データが書かれていた。

「君の寿命は、持って25年。君が産まれてから今までの生態データでそのことが覆ったことがあったかい?」

「……なかったと思うけど」

「では質問だ。最初のメディカルチェックの時に出された秋房雪乃寿命は?」

「……たしか、80……7、じゃなかったかしら?」

「そうだ。だけど、ここを見てほしい」

 そう言って、電子板の一部を指差した。それはメディカルチェックの総合結果からはじき出された、おおよその寿命が書かれる場所である。

 指差された場所を見て、幹は、否。その場に居た全員が驚愕した。

「ちょっと、これって……」

「そうだ。これは異常事態だ。あってはならないことだ」

「どうなってるんだ……?」

 全員が、固唾をのむ。視覚の見えない屍も、点字で記された文字を追うことで現状を把握した。

 秋房攸貴―――推定寿命82

 南街幹――――推定寿命30

「これは一つの推測でしかない。だけれど、おそらく最も有力な結論の一つになりえていると思う」

 アヤセが深くため息をついた。

「秋房攸貴の能力発動に伴って、彼の寿命は、幹、君に移動していると考えられる」

 突き付けられた現実に、幹は目を見開いた。

 彼女のポケットの中で、緊急コールが鳴り響いたのは、ほぼ同時のことだった。


And poisonous rain falls

【そして毒の雨は降る】


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