Disclose
外部ネットワークの遮断。
存在しない不正プログラム。
サーバを操作し始めた後の映像断。
攻撃者はいまだサーバを支配下に置いている。
「犯人は、カフェの中に潜んでいる」
気づけば、簡単なことだった。
攻撃者は初めから内部のネットワークにいた。だから、インターネットが遮断されても攻撃が続けられた。不正プログラムがなかったのは、必要がなかったからなのだ。サーバに接続し続けていれば、どんなことでも行える。
問題は、誰かということだ。
レイジは犯人が絞り込めると語った。では、どうやって容疑者を割り出すのか。
「従業員はみな、営業中はコンソールを外しているのですね?」
店長に協力を依頼し、店の決まり事について訪ねると、そう回答が返ってきた。
「すると、お客の誰かなのか」
レイジは自分のコンソールから、再度ルータに接続した。問題なくログインできた。
誘われているかもしれない。
そんな考えが、ふと頭をよぎる。ルータは先程と変わらない動作をしている。サーバから追い出されたようにはならなかった。
レイジはアクセス記録の中から、通信を行った人間をすべて洗い出した。
13人。
店内にいるほとんどの客が該当した。
ここからが本番だった。
レイジはいくつかのツールを起動し、それぞれにサーバからコピーしておいた設定を書き込んだ。
準備が整うと、ツールに実行コマンドを投入した。数秒後、レイジのコンソールは疑似サーバに変化した。サーバに成りすますことで、攻撃者をあぶり出すのである。
通常、お客がサーバと通信することはない。サーバ側で拒否するからだ。サーバも同様で、個人に対して通信を確立することがない。
レイジは、13人全員にネットワーク監視のためのパケットを投げかけた。通信が確立しなければ、パケットは返って来ない。もし応答が返ってきたのなら、サーバと通信しているということになる。
そいつが犯人だ。
「あんただったのか」
一人から、応答が返ってきた。
「何のことさ?」
女は煙草を口にくわえていた。
「ここは、禁煙席だぜ」
レイジが煙草を引っこ抜くと、女は舌打ちして机を叩いた。照明がつき、溢れていたコーヒーが止まった。観念したようだ。
「コンソールを外してもらう」
レイジは身分を示すカードを見せた。
「アライアンス……やっぱり、ただのエンジニアじゃなかったね」
女は素直にサングラスを外した。切れ長の目がレイジを値踏みする。
強い眼力に、レイジは怯んだ。気の強そうな女だった。レイジの苦手なタイプだ。
「アライアンスも人の子だね。かわいい彼女と遠距離恋愛だったのかい?」
アキラとのデートを全部見られていた。小馬鹿にした笑みが癇に障った。
「違う! あいつは――うわっ」
金属を掻くような不快な音がレイジの脳を揺らした。
「いやな音だろ。あんたにだけ、聞かせてあげているのさ」
レイジのコンソールに、いつの間にか通話アプリケーションが起動していた。ハンマーで頭蓋骨を小刻みに殴られている。そんな気になる振動だ。
イヤホンをむしり取ると、カフェは無音だった。突然苦しみだしたレイジに、店長たちは怪訝な顔をしていた。
レイジは通話アプリケーションを強制終了させた。フロアに転がっていたサングラスを踏み潰す。コンソールを壊してしまえば、女は無力になる。
「残念でした」
女は脚を組み直し、膝の上を軽く叩いた。
レイジのアイモニタに警告が表示された。イヤホンがないから無音だが、緊急事態を表すアイコンだった。
コンソールにファイル共有のセッションが開いていた。
「やめろ!」
レイジが保有している個人情報ファイルが表示されていた。それらが次から次へとコピーされている。コンソールから情報が盗まれているのだ。
さらに、ファイルは機密情報に移行した。アライアンスに関する情報である。暗号化されているが、時間をかければ解読される危険が高い。
レイジは、何度も通信を遮断するコマンドを叩いたが、アクセスが拒否された。
「いつまでもサーバに偽装しているからさ」
「しまった!」
レイジははめられたことに気づいた。
犯人捜しを行えば、容疑者がカフェの中にいると思い至るのは時間の問題だ。そして、犯人を絞り込むための方法として、サーバに偽装することまで、女は織り込んでいた。
支配下にあるサーバならば、操れる。
狙いはそこにあった。
攻撃対象はカフェではない。この手の犯罪の調査を行う人間、すなわちアライアンスのメンバーから情報を盗み取るのが目的だったのだ。
油断していた。
悔やんでも後の祭りだ。




