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Cyber Alliance  作者: あると
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1/5

Cafe

短期集中連載。

ネットワーク関係の知識があると、突っ込……面白いかも?

朝と昼の間の穏やかな時間。

レイジは眼鏡をかけ直すと、歩きながら自分の腿を叩いた。

車道寄りの視界の片隅に、濃緑の地図が浮き上がった。小さなカレンダーほどの大きさで、空中に漂っている。腕を伸ばせば指先くらいの位置だ。地図の中央にある三角は彼の位置を示しており、点線は目的地までの道順だった。

周辺地図と位置情報を提供するナビゲーションソフトウェアである。パーソナルコンソールにプリインストールされた標準のアプリケーションで、眼鏡状のアイモニタに映し出される。

レイジが再び指を動かすと、ジーンズの上に青い波紋が広がった。外から見ればリズムを取っているだけだが、アイモニタを通すと、ミズスマシの足跡のような小さな円が明滅していた。

指の動きはトレースされ、パターン認識により、意味のある記号に変換される。見えないキーボードを打つような動きが、パーソナルコンソールへの入力方法なのだ。

通話アプリケーションが起動する。動作中を示すアイコンが、画面上部に表示される。レイジは続けて個人IDを入力し、相手を呼び出した。

しばらくして通話セッションが確立した。半透明の顔が、アイモニタの右側に描画される。

「おはよう」

『おはよ!』

元気のよい声が、レイジの頭を揺らす。

「アキラ、声がでかい」

骨伝導のイヤホンマイクから出力された声は、囁きでもしっかりと聞き取れる。

『ごめん。でも、昨日から楽しみにしてたんだ。大目に見てよ』

「わかったわかった。もう着いたから、店から呼び出すぞ」

レイジはいったん通話を終了し、かねてからアキラが行きたいと言っていたカフェのドアを開けた。


『都会って感じだあ』

アキラははしゃいで周囲を見回した。レイジは苦笑いして、海老とアボガドのサンドイッチとコーヒーを頼んだ。ウェイトレスの女性はアキラの仕草にも微笑みを絶やさず、注文を繰り返した。

「メニューをお下げします」

「もう少し見させて」

「かしこまりました」

レイジはメニューを立てかけた。

『たくさんあるね』

アキラの身体は透けていた。向こう側に、椅子の背もたれが見える。

三次元の映像だ。椅子とテーブルの端に、映像を作り出すプロジェクタが組み込まれているのだ。アキラの目は、背もたれに設置されたネットワークカメラだった。

彼らがいるカフェは、遠く離れた相手を招くことができる店だった。こういった店は、街にいくつかあった。

『高いんだね』

アキラはメニューの値段に驚いていた。

「こういうところは、こんなもんだ」

『裏も見せてよ』

アキラは目を輝かせて写真を眺めた。

『これ食べたいな』

透過率の高いアキラの指が、高級そうな名前の林檎を使ったアップルパイを指していた。「そのうちな」

『そのうちかあ』

しょんぼりとするアキラに、レイジはいたたまれなくなった。

二人は、同じ場所にいるように見えても、現実は違う場所だ。食べたいと思ったメニューも、彼らが一緒に楽しむことはできない。

そして、アキラがこの店に訪れるのは、おそらく、ない。

「そうだ」

レイジはテーブルに指を走らせた。青い波紋がいくつか浮かび、コンソールで決済する。手のひらを上に向けると、透き通った一輪の薔薇が現れた。

『わあ』

薔薇に物体の感触はない。アキラと同じで、三次元映像で作られていた。

『薔薇が好きだっての、覚えててくれたんだ』

「まあな」

レイジは、アキラの髪に薔薇を挿す。三者の座標が一点に集まる。しかし、それぞれが別の場所に存在していた。

微笑むアキラに、レイジも微笑み返した。

電子決済で購入した薔薇が、アキラの元に宅配されるのは明日になる見込みだ。薔薇と彼女は出会える。だが、レイジはアキラの髪に触れることは望めない。


レイジは指についたクリームを舐めとり、コーヒーを飲んだ。映像のアキラも、彼女が作ったスープを口に運んだ。

「そろそろ時間か」

デートの刻限が迫っていた。アキラを呼び出していられる時間は限られていた。申請した時間を越えての接触は、どんな理由があろうとも罰則の対象となる。

『えー』

「しかたないだろ。今度、休みがとれたら、会いに行くよ」

『来れるの! いつ!』

身を乗り出したアキラの顔が近い。けれども、体温も人の気配も感じられなかった。

「休めたらな。いつかはわからないし、問題は申請が降りるかだ」

『なんだー』

アキラはうつむいて唇を尖らせた。

「そんな顔するな」

『だって……あれ……レ……』

イヤホンからの声が途切れがちになった。

「どうした」

アキラの映像が乱れた。彼女の顔の輪郭が崩れ去る。カフェに砂嵐が舞った。

『レイジ……』

レイジの名を残して、アキラは掻き消えた。


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