相応しい末路
かなり暗い、救いのない物語です。
苦手な方はご注意を……。
ここはとある世界、
神々の間では、第1231世界『アビリディア』と呼ばれていた。
この世界の人々は、個々の力を持っていた。
例えば、自在に火を起こす力。
例えば、自由に水を操る力。
誰一人の例外もなく使えるその力は、
『能力』と呼ばれ、親しみ、そして恐れられていた。
……しかし、いや、やはりと言うべきか、
その『能力』を悪用する者は存在する。
そして、そんな者に対抗するのも、
やはり同じ『能力』なのだった………。
ここは都市の外れにある、廃ビルの中。
二人の男がある商談の最中だった。
それぞれ、後ろに10人の部下を引き連れている。
「ほら、約束のブツだ」
スキンヘッドの男は、目の前にスーツケースを置く。
「……今回は遅かったじゃないか」
「仕方ねぇだろ、
流石に噂になって警戒が強まってんだからよ」
「お前の『能力』ならば、
足がつくことはないんじゃなかったのか?」
黒いスーツを着こなした男はそう言い、
スーツケースの中を確認する。
そこには、ビンが5つつめられていた。
そしてビンの中には、
成人よりも小さい、子供の内蔵が入っていた……。
「はっ!捕まるなんてことはありえねぇよ。
……だが、行方不明が相次げばガキを外に出さなくなるだろ」
「……そうか」
「そろそろ、この街を出るべきじゃねぇか?」
男の提案に、スーツの男は渋い顔をする。
「あまり移動はしたくないのだがな……。
売り込み先をまた捜さなくてはならない」
「あぁ、ブツを長距離移動させるのは危険なんだってな。
……『空間転移』じゃいけねぇのか?」
「ダメだ、それは警察が一番警戒しているものだからな。
そんなリスクを犯すぐらいなら、
前の奴らとは手を切り、
新しい売り込み先を捜す方がまだいい」
「そんじゃ、あいつらとは今回で最後か」
「……そうなるな」
スーツの男はため息をつき、
スーツケースを部下へと渡す。
「これだけなのか?」
「あぁ、量が少ねぇからな。
取り分はそっちが6、こっちが4でいいぜ」
「……それじゃあ、これからあいつらと取引をしてくる。
明日には移動を始めるから、準備を……」
「準備は必要ないよ」
場にそぐわない高い声がした。
男達が入り口の方を向くと、
10歳ぐらいの白髪の少年が、ゆっくりと歩いてきた。
「………子供?」
「おいおい、いけねぇなぁボウズ。
こんな所に入ってきちゃあ……」
「………おい」
「あぁ?どうした、別にガキに見られたぐれぇ……」
「入り口はお前の部下が見張っていたんじゃないのか?」
スキンヘッドの男の顔から、笑いが消える。
「………おいガキ、てめぇ一体どうやって中に……」
と、そこまで言って、気づく。
その少年の服が、赤く、濡れていることに……。
「……あぁ、あの人達?」
少年は、冷たい微笑みを男達に向ける。
「いないよ」
「………何?」
「あの人達なら、もういないよ」
淡々と、事実を告げる。
「でもね、悲しむ必要なんてないよ。
………だって」
次の瞬間……、
その少年の影が、大きく広がる。
そして、そこから巨大な黒い大蛇が顔を出した。
「おじさん達も、今から同じ場所に行くんだから……」
「なっ………!?」
「何だ……この『能力』は……!?」
驚愕する男達を、少年はゆっくりと指さす。
そして、一言命じた。
「殺れ」
真っ黒な大蛇は白い目を開き、
凄まじい速度で部下の頭に喰らいついた。
「う、うわあああアァァァァァァァァァ!!!」
嫌な音と共に、辺りに大量の血が飛び散る。
部下だったものは、地面に倒れこんだ。
「ひ、ひいいいいいィィィィィィ!!!」
同僚が目の前で殺され、部下達の顔が恐怖に染まる。
「ひ、怯むんじゃねぇてめぇら!!やれ!!!」
スキンヘッドの男の声で我に返り、
部下達も『能力』で大蛇に攻撃する。
炎や氷、雷が大蛇に直撃するが、
大蛇には傷一つついていなかった。
「な、なにぃ!?」
驚く男の前で、体長5mに及ぶ大蛇に為す術なく、
部下達は一人、また一人と惨殺されていく……。
「バカ!!ガキだ、あのガキを狙え!!!」
スーツの男は少年を殺せば大蛇は消えると考え、
部下達に攻撃させる。
光の弾やカマイタチが少年に襲いかかり、
その威力で辺りに土煙が舞う。
「………っ!!!」
「危ないなぁ……」
しかし、少年は無事だった。
新しく現れた大蛇が、少年の盾となっていた。
「一匹じゃ足りないかな?」
少年は右腕をゆっくりと上げる。
それに呼応するように、影からさらに二匹の大蛇が現れる。
「ダ、ダメだ!!逃げろ!!!」
四匹の大蛇に恐れをなした部下が窓から逃げようとするが、
「ダメだよ、逃げちゃ……」
少年が手を向けると、大蛇の一匹がその背中に襲いかかる。
「ギャアアアアアアア!!!」
ただの肉塊となり地に伏せる男を、
少年は冷たい眼差しで見下す。
「皆殺しにしろ、って言われてるんだ。
……何より」
少年はゆっくりと、視線をスーツケースに移す。
この少年は、その中身がなんなのか知っていた。
「……君達みたいな奴らは、生かしておけないから」
男達が気づくと、すでに部下達は全滅していた。
辺り一帯が血に染まり、吐き気がする臭いで一杯だった。
「このガキィ!!!」
激昂したスーツの男が、
手から光り輝く巨大な熱球を生み出し、少年へ放つ。
『焼き尽くす光球』、それがこの男の『能力』だ。
その威力は凄まじく、
大の大人を跡形もなく蒸発させることができる程。
……しかし、それは黒い大蛇に阻まれ、消え失せた。
「バ、バカな!!?」
「この程度じゃ、僕の闇は消せないよ」
顔に恐怖の色が浮かぶ男に、
少年は冷たく微笑む。
と、その時だった。
突然、少年の体をナイフが貫いた。
「油断したな!ガキ!!」
いつの間にか少年の背後に回っていたのは、
スキンヘッドの男だった。
「俺の『能力』は、『透明人間』!!
姿を見えなくする能力だ!!
不意打ちなんざ余裕なんだよ!!」
「よ、よし!!よくやった!!」
男達は高笑いをする。
そのナイフは、確実に少年の心臓を貫いていた。
「……それで?」
「なっ!!?」
男の耳に、少年の声が届く。
少年は男を突き飛ばし、男の方を向いた。
「バ、バカな!!何で、てめぇ生きて……!?」
少年は男には目もくれず、刺さったナイフを引き抜く。
それとほぼ同時に、少年の傷が消えていった。
「!?」
「『能力』の説明ありがとう。
……お礼に、僕の『能力』も教えてあげるね」
少年は男のすぐそばまで歩く。
「僕の『能力』は、『喰らい尽くす闇』。
闇を蛇の形で具現化して、意のままに操る。
……そして、その闇が喰らった『命』を、
僕の『寿命』に加算することができる」
「寿、命……!?」
「うん、それで僕が死んだら、
100年分の『寿命』と引き換えに生き返れるんだ」
恐怖で半分放心状態になっている男に少年は顔を近づける。
「僕の『寿命』は、後3000年ぐらいだったかな?
……つまり30回ぐらい殺せば、
僕を死なせることができるよ?」
「ッ!!!」
男の顔が、絶望に染まる。
逃げるしかない、そう考えたのだろう。
『能力』により、男の姿が消えていく……。
ガッ!!
「逃げちゃダメって……言わなかったっけ?」
少年の前で、血しぶきが上がる……。
頭部を失った肉塊は、重力に従ってその場に崩れ落ちた。
少年は顔色一つ変えずに、
残ったスーツの男へ顔を向ける。
「ひいいィィッ!!!」
男は少年から逃げようとするが、
あっという間に黒い大蛇に囲まれ、
逃げ場を失ってしまった。
「君で最後だね……」
男の恐怖に歪んだ顔に、
少年の冷たい眼差しが向けられる。
「………ば、化け物………化け物オォォ!!」
「………そうだね、僕は化け物だ」
少年が右手を上げると、
一匹の大蛇が、正面から男に近づいていく。
「ま、待て!!た、助け」
「だから………お前達を殺すのに、
躊躇なんて、しない………」
黒い大蛇の口が、ゆっくりと開いていく………。
ガッ!!
ガッ!!
ガッ……………
「………さようなら。
せめて来世では、もう少しまともな人生を歩んでね………」
少年のその言葉を聞くことができる者は、
その場には、存在しなかった………。
前に考えた物語の番外編的なものです。
といっても、本編を書く予定はありませんし、
もし書くとしても、相当未来になると思います。
冒頭で『第1231世界』とかいってますが、
この『世界の番号と通称』は、
『冒険者ライフ!』とかでも共通する設定だったりします。
ただ、『冒険者ライフ!』では出す予定ありませんが……。