時を遡る時
「ああ、これは見たことがある。」
道路の片隅に、名を知らない花が咲いているのを見た時に、そう思った。
見たと思ったのは、花の事ではなく、そこに映る光景すべてに対して見たことがあると思った。
どこで見たのか…学生時代の時には、すぐに思い出せたことも、今はなかなか思い出せなくなった。
これがデジャブというものなのか?
そう思う事の新鮮さも今はない。
それよりも今日の仕事だ…。
早い時間からクライアントとの会議がある。
私は駅に向かった。
「只今、信号機故障が発生しました…」
ホームに着いたとき、運休を告げるアナウンスが流れた。
こんな日になんで…
愚痴りたくなる気持ちを抑えながら、振替輸送はどうなるのか聞くために、改札に向かう。
「復旧のめどはたっていません」
改札の駅員は、自分に詰め寄ってくる人の多さに戸惑いを隠すことができず、声を張り上げていた。
乗り換えアプリで検索しても、歩きのルートしか表示されないので、他の交通機関へのアクセスを聞くために窓口に向かった。
「復旧まで待っていただくしか…」
埒が明かない。
窓口の駅員が言い終わる前に、タクシーを捕まえる為に外に向かった。
大学受験の日、大雪が降って電車が止まった。
受験校に連絡すると、遅れてもいいので来てほしいと言われたので、試験会場まで歩きで向かった。
雪でタクシーも走ってなかったし、捕まえられたとしても、お金がなかった。
もっと試験会場に近いホテルを取ればよかったと後悔したけど、今更どうすることもできない。
受験するにもお金がかかる。
地方に住む者は割を食うなと想いながら、凍える体と心にむち打ち、試験会場に向かった。
あれに比べれば大したことないと言い聞かせて、私は半ば駆け出していた。
嘘でしょ…。
タクシー乗り場には、長蛇の列ができていた。
先程の駅員と話した、あの時間のせいで遅れをとってしまった。
初めからここに来れば良かったと後悔しても、過ぎた時間は戻らない。
会社に遅刻する旨の電話をすると、上司はすでに出社していた。
「とにかく来てほしい」
そう言われて、どこかで聞いたことがあると思った。
その時、立ち眩みが襲った。
やばい…倒れる。
泣きっ面に蜂…弱り目に祟り目…踏んだり蹴ったり…日頃こんな言葉なんて出てこないのに、こういう状況では出てくるんだ、変なの。
「ああ、これは見たことがある。」
道路の片隅に、名を知らない花が咲いているのを見た時に、そう思った。
見たと思ったのは、花の事ではなく、そこに映る光景すべてに対して見たことがあると思った。
どこで見たのか…学生時代の時には、すぐに思い出せたことも、今はなかなか思い出せなくなった。
これがデジャブというものなのか?
そう思う事の新鮮さも今はない。
それよりも今日の仕事だ…あれ?
これはさっき見たよね?
あれはなんだったの?いや、今見ているコレはなに?
その時、またも立ち眩みが起こった。
あ、倒れる…。
ホテルの部屋から外を見ると、雪が降っていた。
かなりの大雪だ。
今日は大学受験の日なのに、こんな事ってあるの?電車動いているかな?
あれ?これも見たことある…。
私は洗面台に入り、鏡をみた。
若い私がそこには写っている。
私は確信した。時間がさかのぼってる。
そして、立ち眩みがおきた…まただ。
次に見たのは、白くまばゆい世界。何かわからないけれど、大きい音が響いている。
なんだろう?すごく刺激的で、どこかに出かけたい気分。
でも、体が重くて動かない。
私に何が起きているの。
そして次…。
見えるのは暗闇…そこに太鼓のような音が響いている。
すごく暖かくて、何かに守られている。そんな感覚があった。
心地よくて、とても眠い。
すこしだけ、いいよね。
私は深い眠りについた。




