表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
師匠と弟子  作者: 麻川
7/8

万愚節

「や、やっと終わったー。…えと、残り何件?」

「特Sが1、Sランクが3、Aランクが2にDランクが4」

「……まだ、そんなに」

「悪かったな後は俺がやるから先に帰れば、」

「良いだろー、とか言わないでね? 僕がやりたいんだから」

「………好きにしろよ」

そっぽを向きながらも仄かに赤く染まった耳が嬉しい。何と言われようと懲罰として術を封じられた状態で放り出すなんて考えられない。

事の始まりは暫く前、抜ける様に腹立たしい程に晴れ切ったある朝の事だった。





僕は日常生活に深く関わる年中行事という物を今だ良く知らず、だからこっそりと情報を集めてさり気なくイベントに参加出来る様に日々これ努力しているのだ。

「どしたの、散歩?」

「いや、煙草切れたから買って来る。何か買う物はあるか?」

「んー、特にないかな」

「じゃあ行ってくる」

「うん、もう帰ってこなくても良いよー」

「……行ってくる」



煙草屋なんか徒歩30秒の所にある。ドクトルのところまで行ったとしても、(恒例行事である喧嘩を勃発を含めても)長くて2刻だ(メイドさんが止めるから)。

なのに何で―――。

「何であの人は帰って来ないんだ!!」

既に家を出てから5刻が過ぎている。外に出る度に誘拐やらカツアゲやらテロやら暗殺や拉致に会うトラブルメーカーといえど、幾等何でも遅過ぎる。この間あった、報告書提出の帰りに偶然猫(認識票着きただし削れて読めない)に懐かれ飼い主を延々探して真夜中過ぎに帰宅した時、心配の余り探しに出て暴走して留置所行きになって『手続きは10刻~20刻にお願いします』と書かれた案内書に呆れてでも落ち着かせる為にわざわざ巡官に喧嘩売って仲良く朝まで冷たい牢の中で過ごした時に浴びた罵声から学んだ、友人や行き付けの店を廻るという事を実践してみる。

運の良い事に高々8件目(日頃の行動範囲からすると驚異的だ)にして目的の人物に巡り会えた。それは喜ばしい事だが何もマスターが虎視眈々と狙い続けて早幾年、な所へ行かなくても! と安堵と絶叫を練り混ぜた酷く重さのある溜め息を吐いた事を良く覚えている。

カロンカロンと酷く癇に障るドアベルを鳴らし扉を開くと、入り口から直ぐ眼に着くカウンターに突っ伏する失踪者と何故か僕の顔を見てほっとした表情のマスターが目に入り。

そしてカウンターにずらりと並ぶ古今東西年代問わずの様々な酒瓶(そして直に床に置かれた樽)の数々を眼にして思わず扉を閉めた。眩暈がした(その値段と本来酒なぞ梅酒ですら酔う体質に)。

こちらが何とか言葉を捻り出そうとする前にいそいそと(常に常備な顔に張り付けた嗤いでなく)本来の笑いを見せながら勢い良く扉を蹴り開けたマスターは、何故か小声で更に耳元で告げた。

曰く、5時間前から飲み続け。発する言葉は酒と注げ、のみで。ガパリガパリと出した酒の全てをほぼ一息に飲み下し。ついさっき仕事と一言呟いて据わった目付きで店を出ようとするのを必死に引き留めて。担当者が来るのを待っていたのだ、てめえ一体何やりやがった!?? と徐々にと声量は上がり続け最後は怒鳴り声にて長い説明口調な台詞をノンブレスで言い切った。顔に微笑みを浮かべたままで。

「や、えっと、…人違いです」

「ンな訳あるか!」

「だって何あれ僕あの人がお酒飲んで寝てないのって初めて見るよ!?」

「俺だってそうだよ、取り合えず必死こいて引き留めたんだからとっとと引き取れ!」

「えぇズルいよそれ!」

「うっせ良いから行けオラ!!」

蝶番が緩んだ扉から押し込まれ更に鍵を掛けられた。当事者を見ると、自分には何の関係もないとばかりにこちらを完璧に無視して、残り少ないのかまどろっこしくなったのか酒樽を担ぎ上げて煽っている。

(うわー、やばいってアレ!! 弱いくせに!)



「や、こんな所に残るって言ったら、僕の安心の為にここ完膚なきまでに破壊してくよ僕!?」

文法がおかしい。


「お前が戻ってこなくて良いっつったから公司でありったけの任務こっちに廻せっつって来た。そしたら少し待てって言われて時間空いたからここに、」


「まん、ぐ、せつ」


「街中、ってか店内で召喚はヤバいって!!」

マスターの悲痛な叫びが聞こえた気がした。が、気の所為だと切り捨てた。構っている時間はない。ここで説得しなければ、絶対に暫くの間行方を眩ましてその間中を使ってでも僕を嵌めようと何か案を練られる。今回は今回だけに、尋常ではない規模で綿密に建てられる。それだけは絶対に阻止しなければ!!


街中での召喚は本来なら謹慎処分なのだが、その前に受けた膨大な依頼(ここぞとばかりに面倒臭い物ばかり廻された)(Aランクの傭兵は、総数は少ないが概ね超個性的なものが多い。一度依頼をこなせば入ってくる金額も下位の傭兵とは比べ物にならないくらいなので金銭に困っているものも少なく、主に興味や好奇心がひかれたものしか受けない。ために今回の『ありったけ』という指定のない依頼請求に誰よりも歓喜したのは傭兵ギルドの職員だったりする)の為に、一時的な力の封印をされて仕事へと送り出されたというわけだ。


――そして話は冒頭へと戻る。



終劇 (040926)(080413 改定)。


1刻=一時、2刻=二時、5刻=五時といった感じ。1刻=一時間とも考える。

公司は傭兵のギルドのようなもの。公司の中の一部署が傭兵の派遣その他を担っている。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ