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師匠と弟子  作者: 麻川
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掃除(あるいは過去の清算)

「良いか、工作員AとBは先ず始めに最深部への突入だ。Aが侵入経路の確保、ポイントまでの障害物の排除だ。BはAの後続に着き、周囲に警戒しろ。最短経路外の障害は無視して良い、トラップの可能性がある。ポイントへ到達したら速やかに鍵の破壊、もしくは侵入口を破砕して外部との接触を図れ。作戦は理解したな? では開始する」





「ごほッ、作戦せい、ぶへッ、こうッ!! 新鮮な空気の、へくちッ、確保完了しましたー!」

「ご苦労、工作員A。結構豪快な音がしたが、工作員Bは大丈夫か? ――良し、無事だな」

「………アンタ、ねぇ…。これの、何処が、無事に見えるの!? とっととあたしの上の本とか退かしてよ!!圧し潰されて死んじゃいそうだわ!」

「あっ、大丈夫ですか妹さん、今助けますね!」

「あたしの名前は妹じゃ無いって言ってるでしょうが!」

「そうだそうだ助けなくて良いぞー、掃除する時にヒールなんか履いてくるそんな莫迦は」

「っ、普通家の中は土足禁止でしょうが! 脱ぐならそれまで何履いてようがあたしの勝手でしょう!」

「…脱ぎたいなら脱いでも良いけどな、3歩で埃まみれになるぞ? つかちゃんと掃除だっつっただろうが、何でそんな気合い入った格好なんだ?」

「……黙秘権を行使するわ」

「…まぁ良いんだが。俺の――じゃ小さいな、あいつの服借りてこいよ。折角綺麗なのに汚すなよなーもったいない」

「そうですよー、凄く似合ってるのに」

「……着替えくらい持ってきてるわよ。でも――失敗だわね、ここまでこの家が汚いとは思わなかったわ。…大体、何で玄関から入って直ぐの部屋までに態々通路を作らなきゃなんない訳!?」

「いや、俺もここまで酷いとは思わなかった。報酬は根こそぎぶん取ってって良いぞ、そっちの方が助かるし」

「じゃあ取り合えず、着替える部屋を確保しますねー。僕あっちのお二人の方見てきますー」

「あ、良いわよ。後ろ向いててくれればここで直ぐ着替えるわ」

「莫迦か、仮にも女なんだからもう少し恥じらえよ。無防備に男の前に肌晒すな」

「あら、別に平気でしょ? アンタ女子供には優しいし。その子は言っただけでもう真っ赤じゃない」

「………せ、せめて僕は外に出てますー!」

「…可愛いわね」

「………やらねェぞ」

「ま、アンタにはそんな偉そうな事言われたくないだろうけどねー、あの子も」

「うっせ、早く着替ねぇと兄貴達が来るぞ」

「解ってるわよ(そこで態々窓辺に行ってくれる処が優しいって言うのよねー、本人無意識だけど)」


「全員揃った処で、分担を決めるぞ。文書の類が報酬になるかも知れねェから、長男・妹はコイツと本全般を運び出して、写しは廃棄、本は図書館のマーク付きとそれ以外を別にして陰干し。次男は俺とガラクタ整理だな。判断に困ったら残しとけ。一旦全部外に出してからだな、一部屋ずつやるか。じゃ、頑張れよー」

 

「次男はこれが何か識ってるよな、解体の仕方は解るか? このままじゃ危な過ぎて売れねェんだ。腕の良い信頼出来る技術ジャンク屋に心辺りがあンなら、持ってけば良い防具とか作ってくれるぞ。素材的にはランクは低いがちゃんとした遺産だから。螺子はここ、外装はそこ、それ以外はコッチに別けてくれ」

「……俺達はあなたを信用しています」

「―――、あぁ、解ってるよ。アンタ等の妹は面倒事には巻き込まない、安心してろよ」

「……はい」

「ところで、あの格好はあいつに見せたかったんだろ? 悪い事したな。さっき洗濯に出したから帰りには届くだろ。重てェ資料系は送ってやるから、着替えて帰るように言ってくれるか? 俺だと喧嘩腰になるからな」

「―――――」

「喋らなくても良いから、判らないことがあったら教えろよ」

「―――――」

「じゃ、そっち頼むな」



「―――――」

「んぁ、………。あいつ等か…。あー、ちょっと見てくるが、お前も行くか?」

「―――――」

「なら行くぞ、――あっち、だな。……何か厭ーな予感すんだよなー…、怒鳴り声聞こえるし」

「―――ょ、だから何かもう苛々するわね、返事はハッキリしなさいよもう!!」

「ッ、てめえ開ける時は注意しろよ危ねぇだろが!」

「あら良い処に! ちょっとアンタ何な訳これ!? 何で禁書とかまで在るのよしかもこれアンタの字じゃない! 本当にこんなの貰って良いの!??」

「あ―――、ちっと落ち着け。そんでソイツの襟首放せ締まってるから。死ぬぞ。おい長男、せめて振りだけでも止めろよ見物してないで! 笑い死ぬつもりか!?」

「ど・う・な・の・よ!?」

「解った答えるから放せ、っつってンだろ、この、莫迦、女ァ!!」

「ったいわね! 何よアンタやる気!?」

「やりませんやるわきゃねぇだろだから詠唱止めろ長男獲物下ろせ次男、家が壊れるだろ、てめえもいつまでもゴヘゴヘ言ってンじゃねぇよこの間抜けェ!!」


「しょうがねェから、質問タイムだ。休憩にするぞ」

「はい、緑茶ー。妹さんは珈琲砂糖入りミルクなしですよね、次男さんはミルクティ砂糖なしで。長男さんは珈琲と、申し訳ないんですが、加減が解らないので砂糖とミルクは御自分でお願いしますねー」

「おやありがとう、全く君の淹れてくれる珈琲は絶品だね、何処ぞの誰かには見習って欲しいものだよ。いやいや別にお前の珈琲が不味い訳じゃないぞ妹よ、ただこの子の淹れる珈琲が美味し過ぎるだけだから。まぁうちの弟の淹れる紅茶にも及ばないけれどね。それも味というものだよ」

「……お前、いくら何でもそれは入れ過ぎだろ。珈琲っつーより寧ろ砂糖味の牛乳だ」

「人の味覚にケチをつける気かい? 君には言われたくないねこの甘味大王が」

「あァ!??」

「あー、ハイハイいつもながらとっても美味しいわー、幸せー!! で、丁度和んだ処で聞きたい事があるのよねーうふふふ」

「きゃー怖いわーあたし泣いちゃうー」

「………バラすわよ」

「さて何か疑問点があるんだったな言ってみろ速攻解決させてやる」

「「「………」」」

「あぁら泣く程に怖い物が居るんでしょ? 本当に大丈夫?」

「大丈夫ですぅお嬢様ー」

「そう? 無理しないで良いのよ?」

「大丈夫ですぅお嬢様ぁー」

「なら質問させて貰うわね?」

「ええ幾等でもどぉぞぉ?」

「何でアンタの字なのこの写本」

「ドクトルに課題っつってやらされたんだよ(つか字を覚える為だが、利用されたし当たってるだろ)。ここにあるっつー事は直ぐには使わないから持ってって構わない」

「何でこんな高度な魔導書があるの? あたしも探した事があるけど、全然見付からなかったのに」

「アカデミーの図書館は一般人立ち入り禁止区域があってな、そこに魔導関連は全部在るんだ。胡散臭いのから出版禁止になったのまで。入るには馬鹿高い献金が必要だけどな。原則持ち出し禁止なんだがドクトルが俺に読ませて書き出させたんだよ」

「………。そこ等に転がってるガラクタは何? 最低ランクとはいえ遺産よね?」

「どうせ廃棄されるだけならなくなっても構わないだろ。発掘に参加して盗って来た。研究は済んだからバラして売って良いそうだ」

「…この家何時から掃除してないの」

「ここはドクトルの資料置き場兼研究所だったんだけどな、俺がアカデミー卒業して2年位か? ネズミが出てな。多分それ以来入ってねェんじゃねぇの?」

「何でここ廃棄しないのよ…?」

「あのな、いくら写本とはいえここにはパードウェル錬技魔術式百選全書改訂版とか古代生物体系史とかあんだぞ? 選り分けて処分しなきゃコッチが捕まるっつーの。あ、持ってくのは構わないけど違法だから捨てる時は焼けよ? 万一捕まっても無関係だからな俺等は」

「………お茶受けにケーキ食べたいわねー」

「ウィッチハウスに新作出てたぞ。タルト」

「あ、それ食べたわ。嵌りそうよね」

「和んだな」

「和んだわね」

「もう質問はねェな?」

「あー、あるんだけれど、良いかい?」

「…ンだよ長男?」

「はッ、君に質問だとは言って無いだろう? 自意識過剰なんじゃないかな?」

「…………(怒)」

「わー、待って下さいストップー! 妹さんも止めないと資料系全部焼けて消えますよ!?」

「アンタ達止めなさい!! これは仕事よ、私情を挟まないで頂戴!」

「わー、もう見事な位欲望に正直だなぁそこまで行くと反対に感心するぞオイ」

「ははは僕が愛しい妹のお願い事を聞かなかった事があったかい? 宣言しても良いが、今までもこれからも未来永劫・空前絶後、在り得ないよ?」

「…この、妹莫迦共め…」

「はいはいはい玉露とウィッチハウスのケーキセットですー、どうぞ妹さんも。で、男性陣もお代わりとお茶受けです。それで何の質問でしたっけ長男さん?」

「あぁ…、いや、報酬としてこれ等を貰っても我が家には置き場がないから、寧ろこの家の訪問許可を貰った方が良いのではないかな、と。指定して貰えれば僕等が使う物は一部屋に詰めるし、定期的に掃除もしよう。我々の代表はこの娘だからね、提案としてどうかな、と」

「んー…、そうねー、そうして貰えると助かるんだけど…、こればっかりはドクトルに確認を取らなきゃね。――と言う訳で、報酬の変更が可なら都合をつけて貰えるかしら?」

「んー、それは平気だ。お前等の報酬やなんかの指示は俺に一任されてるからな。その場合、地下と2階には上がらなければ1階は自由に使って貰って構わない。鍵は玄関のだけ渡すか、1階は鍵掛ってないから。掃除も1階だけで。あと、出来るなら読破済みのは処分してくれ、その内溢れ出して来るから。それ以外は特にねェな、条件はこれで良いか?」

「有り難い位ね。ドクトルはここは使わないの?」

「ネズミが出なくなったら使うんじゃないか?」

「じゃ、ご挨拶と差入はその時で良いわね」

「そうだな。それと、手入れはここの庭は含めないで良いぞ」

「あ、待って。見映え良くするのに草毟りだけなくて造園も込みならやらせて貰うわ。兄さんガーデニングの場所欲しいって言ってたわよね?」

「―――――」

「手を入れる分には構わないがな。コッチに領収書廻さねェなら」

「じゃあ、期限はあたし達が完全読破するまでで。内容は掃除(庭込み)と管理、文書の処分、ね」

「「契約、成立」」


「おら休みは終りだ野郎共。取り合えず今日の所は、この家は電球切れてるし、夕方になったら終りだ。夕食は奢ってやる、コイツが」

「えぇ、聞いてないよ!??」

「何だお前依頼途中の奴等を腹減らせたまま帰らせるつもりか?」

「違うよ、買い物行かなきゃならないから僕は先に帰るね」

「あ? …あぁ、うん。だから、明日からは仕事振りに因るがな。俺等が片付けはするから仕事に掛れ、今日中に一通り判別は終らせろよ」

「「「うぃーッす」」」

「やるぞてめえ等!」



終劇 (041008)。




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