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 前回までのあらすじ。


 異世界に転移した元・悪の幹部ザークは、魔法少女ミラ、元王国騎士アン、山賊の少年マルクを魔法少女としてスカウトし、「Magical★Chaos」を結成。


  数々のバトルとライブを経て人気と実力を高めていった彼らは、ついに王都に辿り着いたのであった。


 だがそこでザークたちを待ち受けていたものは。

「王都を封鎖した、だと……?」


 封鎖された門の上から、睨みをきかせる憲兵が言った。


「今王都は危険な状態だ。誰も通すわけにはいかない」


「どういうことだ? 一体何が……⁉」


 城の方から爆発音が響く。


 それと同時に巨大な黒い魔法陣、ヘルゲートが王都の上空に開かれた。


「ザークさん、あれは一体?」


「くっ。まさか、あのお方が……!」


「あのお方って、ザークさんどこ行くんです⁉」


 俺は城門を破壊し、制止する憲兵を振り払い王宮へと向かった。


 街は見る影もなく破壊され、モンスターや魔物にあふれている。


 人々は泣き叫び、逃げまどっている。


 これではとてもライブどころではない。


「久しいな、ザーク。我が片翼よ」


 俺たちは王宮にたどり着いた。


 そこにいたのは、全身黒き炎に包まれた真なる魔王。


 かつて俺が仕えていた悪の組織の総帥、ドン・ディアブロだった。


「ザークさんの……上司⁉︎」


「……お久しぶりです、総帥。なぜこんなところに?」


 ディアブロは俺とその横にいる魔法少女(仮)たちを見て、フンと鼻で笑った。


「お前と同じだ。魔法少女に敗れて、この異世界に来た。だがどうやらここは我々よりも知識や文明、魔法のレベルで数段劣る。どうだザークよ、もう一度我と手を組みこの世界を征服して……」


 ちらりと振り返る、俺がスカウトした魔法少女たち。


「ザークさん……」


 ミラが心配そうな目で見つめて来る。


 俺は……。


「総帥。元の世界に戻ろうとは思わないのですか?」


「魔法少女という不条理な概念がいる以上、あの世界はあきらめるしかあるまい」


「おやおや。総帥ともあろうお方が、ずいぶんと器が小さくなったものだ」


「なに?」


 俺はミラの頭を撫でてやり、魔王という名の敵に向き直った。


「この世界に征服する価値はない。だがこいつらの歌に、魔法少女の力に可能性を見た。俺は、こいつらの歌が起こす奇跡を信じたい」


「ザークさん!」


 ミラの目が眩いほどに輝いた。


 一方のディアブロは、邪悪な魔力のこもった目でこちらをにらみつけてきた。


「ほう、かつての死神も今や歌って踊る道化か」


「道化でも構わん。今の俺の魔力源は、これだからな」


「歌と踊りがか? フン……ならば試してみせよ、その力とやらをな!」


 ドン・ディアブロは一瞬で王都の結界を打ち破り、王宮の尖塔を崩壊させた。


 総帥は俺の上司、俺以上の実力者だ。


 ミラもアンもマルクも怯えており、戦力として見込めない。


 もしこの状況をひっくり返す力があるとすれば、それは奇跡と呼ぶしかないだろう。


 俺はゆっくりと手を挙げ、三人を振り返る。


「……ライブだ。全力のやつを行くぞ」


「えっ、この状況で⁉︎」


「違う。だからこそだ」


 奇跡を起こすのは魔法少女の専売特許だ。


 そして俺は持てる魔力の全てを、三人の魔法少女(仮)に注ぎ込んだ。


「なにこれ。全身に力がみなぎって来る……」


「当然だ。俺の魔力を注ぎ込んだのだからな」


 光の力と闇の力が交わりし時、全てを超越する混沌の支配者が誕生する。


「それこそが魔法少女、Magical★Chaosだ‼」


 瓦礫まみれの王宮を、紫のレーザーが照らす。


 空間魔法による特設ステージを、最後の力でセッティングする。


 そして魔法少女(仮)たちは、新たなる境地へと足を踏み入れる。


「「「マジカル・カオス・チェンジ‼」」」


 ピンク、青、黄色。それぞれ三つの色に邪悪な黒色が混じり合う。


 光と闇が反発しあうように、3色と黒色が同居する。


 今魔法少女(仮)たちは、真の魔法少女の姿へと生まれ変わった。


「光の矢が空を裂く。 怯えたままじゃ変われないね~」


 メロディが流れ始め、ミラの歌声が紡がれ始める。


「小賢しい。そんな歌が何になる!」


 魔王が魔弾を放つ。


 それをアンとマルクがマイク型の杖で防ぎ、歌う。


「 正義とか名ばかりのルール 壊して、本当の願いを見せてよ」


「誰かのためと言い訳してた鏡に映る弱い自分、燃やせ!」


 そして、三人の歌声が重なる。


「「「Magical★Chaos! 絶望を踊らせろ笑顔で、運命に逆らえ! 強さは痛みを知ること。さあ、羽ばたけ! 光と闇のステージへ!」」」


 音の波動が、魔王の放つ漆黒の呪いを弾く。


 ミラの高音が魔王の炎を鎮める。


 アンのハーモニーが絶望を切り裂く。


 マルクのラップが空間を支配する。


 彼女たちは今、歌いながら戦っている。


「なんだ? 一体何なんだ、この力は……」


 ディアブロがうろたえる。


 奴にはわかるまい。光を拒み闇しか知らない、一つの属性しか持ち合わせない魔王には。


 このエモーションは分かるまい!


「「「Magical★Chaos! 世界を塗り替えろ!  偽り(うそ)真実(ほんとう)に変えて。誰にも止められない鼓動、 今、ひとつになる」」」


「うおおおお! その歌をやめろ~!」


 ディアブロが最大呪文を放つ。


 魔法少女たちの歌声が混ざり合い、合体技を放った。


「「「マジカル☆カオスマックス★イルミネーション‼」」」


 魔王の闇の力と混沌(カオス)の力がぶつかり合う。


 力は拮抗。もう一押し必要だ。


「……仕方ない、俺も少しだけ歌ってやるか。これも幹部の務めだからな」


 マイクを手にする。


 魔力はもう残っていない。


 だが、歌は奇跡を起こす。


「我ら、混沌カオスの魔法少女っ!」


「「「 MAGICAL☆CHAOS!」」」


 三人の合体技に俺の歌声が混ざりあい、魔王の必殺技を打ち砕く。


 光と音が天を裂き、ドン・ディアブロを包み込んだ。


「これが、光と闇の力。混沌の……ぐあああああああ‼」


 ディアブロの身体が浄化され、異世界から消滅していく。


 こうして、王都は守られたのであった。


「やりましたねザークさん! ……ザークさん?」


「ミラ、よくやったな」


 俺の身体が地面に倒れる。


 3人が血相を変えて駆け寄ってきた。


「ど、どうしたんですか! ザークさん!」


「ふっ。闇属性の俺が光属性の攻撃をあれだけ浴び続けたのだ。俺の身体は、浄化される」


 サラサラと俺の身体が消滅していく。


 ミラが目を真っ赤にして泣きながら、俺をぎゅっと抱きしめた。


「そんな! ザークさんがいなくなったら、私たちこれからどうすれば……!」


「ふん。自分の道は自分で切り開け。それが魔法少女というものだ」


 ミラが大粒の涙をこぼし、アンが目を伏せ、マルクが涙ぐむ。


「ザークさん!」「ザーク!」「おっさん!」


「だからその呼び方をやめろと……まあ、いい」


 ザークは空を見上げ、静かに言った。


「こうして、歌で世界を救った悪の幹部がいた……。そんな昔話も悪くないだろう?」


「ザークさん! ザークさあああああん‼」


 そして俺の身体は浄化され、異世界から消滅した。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「……ここは?」


 目を覚ますと、俺は汚い路地裏にいた。


 外に出てみると、そこには現代の町が広がっている。


 どうやら俺は異世界から再び現世へと戻ってきたらしい。


 町中の大型モニターには、にっくき魔法少女どもが映って大観衆の中を歌って踊っている。


 どうやら平和な世界でアイドルとして順風満帆な生活を送っているようだ。


 人の苦労も知らないで、全く腹が立つことこの上ない。


 しかし今の俺にはもう魔力は残っていない。


 魔法少女(仮)を魔法少女にするのに全て使ってしまった。


 これでは世界征服どころか戦うことも出来ん。


 もしあいつらがいれば、奴らと戦うことも出来るのだが……。


 と、その時。


「ザークさん!」


 とミラの声が聞こえてきた。


「な、お前どうしてここに⁉」


「お城の上にあった黒い穴をくぐったらこれちゃいました!」


 なるほど、あの魔王が使っていたワープゲートゲートか。


「アンとマルクは?」


「アンさんは街の復興を。マルクさんは盗賊団に帰っていきました」


「そうか。お前はなぜ仲間の元に戻らなかった?」


「だって私は、ザークさんの手下ですから!」


 ミラが魔法少女らしく、元気よく言った。


 俺の胸に魔族らしからぬかすかな温もりが宿る。


 これが噂に聞く、光堕ちというやつか。


「ザークさん、次の公演はどうします?」


「ふっ、決まっている。目指すは打倒魔法少女。次の公演は、東京ドームだ!」


 こうして、世界は少しだけ変わった。


 歌が争いを止める力となり、魔法少女は奇跡を起こした。


 そして悪の幹部が魔法少女を率いて歩んだその軌跡は、いつしか伝説と呼ばれるようになった。

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