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 町の中央広場。休日の賑わいのなか、突如として即席のステージが出現した。


 バックには謎の紋章を描いたバナーが翻り、ステージの前にはピンク・青・黄の衣装を身にまとった魔法少女(仮)たちが並ぶ。


「しょ、正気ですかぁ!? こんな人前で……!」


「もう遅い。観客は集まりつつある」


「町人たちの視線が、つらい……」


「うぅ。恥ずかしくなってきたゾ……」


 大勢の観衆の前で3人が怖気づいている。


 だが魔法少女たるもの、そのくらいの試練は乗り越えねばならない。


「立て、ミラ。魅せろ、アン。踊れ、マルク! お前たちはここで人々に勇気と笑顔を与え、真の魔法少女となるのだ!」


「ザークさん、言ってることがどんどんヤバくなってますぅ……」


 ミラが嘆いている中、マルクが俺の顔をまじまじと見つめてきた。


「おっさん、俺は男だゾ」


「黙れ。俺が魔法少女だと言ったら魔法少女だ。そして俺をおっさんと呼ぶな。二度と呼ぶな」


「でも鼻の下とあごにひげが生えているゾ」


 確かに生えているが、これは俺のトレードマークでありアイデンティティだ。

 

「ふん、これは威厳の象徴だ。威厳のない幹部など、ただの中間管理職ではないか」


「でもザークさんのひげ、ちょっと猫のひげっぽいですねぇ」


「猫⁉ 何がだ!」


「いや、ほら、こうシュッて伸びてて先っちょがクルッと丸まってるとことか……」


 そうミラがマジマジと俺のひげを見つめた。


「本当だ。言われてみると確かに」


 アンまでも俺の顔を覗き込むようにして言った。


「ちょっと動くとぴょこぴょこ揺れて、なんか……かわいいかも?」


「かわいくはないッ! 俺は威厳ある魔族の幹部だぞ!」


「ザークさん……ザークにゃん……ふふっ!」


「おい手下A、今何の想像をした⁉ お前ら俺を何だと思っている⁉」


「変態のおっさんだゾ」


「誰が変態だ誰が!」


 キャッキャうふふと笑い合う3人。


 俺の威厳が冗談まじりの笑い声の中に溶けていくようだ。


 だがふと、3人の表情を見た俺の胸に妙な感覚が芽生えた。


 これが癒し、というやつなのか?


 ……くそっ! 魔族にそんなもの必要あるものか!


「手下ども! そうこうしている間に時間が来た! 各自配置に付け!」


 俺の号令とともに3人がポジションに付く。


 派手なレーザー魔法でおぜん立てしてやり、空間魔法で特設ステージを作り上げる。


 そしてマイクを片手に、高々と宣言する。


「人間どもよ! 今日より貴様らはこのユニットの観客だ!  我らが名は!」


「「「Magical(マジカル)Chaos(カオス)」」」


「1、2、3、4!」


「「「We fight! We shine! We sing!」」」


「「「 We are Magical~~~CHAOS!」」」


 戸惑う観客たち。


 だが彼らは次第に、その奇妙な迫力と完成度に圧倒され始めた。


 ♪

「「「ラララ。光れ、我らのソウル!」」」


「闇を照らせ、マジカル・ピンク!」


「悪を打ち砕け、マジカル・ブルー!」


「疾風迅雷、マジカル・イエロー!」


「「「そして~!」」」


「「「We are――MAGICAL☆CHAOS!」」」


 ……完璧だ。


 過酷なレッスンを経て三人の意気は今、完璧にそろっている。


「えっ、意外とうまくない?」


「ピンクの子、一生懸命で元気もらえる!」


「あの青いのって騎士団のアンさんじゃない?」


「あれ男の娘じゃね? ……一番可愛くね?」


 最初は冷ややかだった視線が、徐々に拍手とざわめきに変わっていく。


 ♪

「夜を裂け魂のビート! 」


「未来を変える三色の閃光!」


 次々と観客たちが、彼女(彼)らのパフォーマンスに飲み込まれていく。


 そして今、会場の雰囲気は完全に我が手中に納まった!


「行け、魔法少女たちよ! 歌で世界を変えるのだ!」


『Magical★Chaos』


作詞:ザーク閣下

作曲:ザーク閣下

歌:Magical★Chaosミラ・アン・マルク


(ミラ)

光の矢が空を裂く

怯えたままじゃ 変われないね


(アン)

正義とか名ばかりのルール

壊して 本当の願いを見せてよ


(マルク)

 誰かのためと言い訳してた

 鏡に映る弱い自分

  燃やせ!


(3人)

  Magical★Chaos 運命(さだめ)を裏返せ

 混沌(カオス)から希望を叫べ

 (きら)めけ、闇を切り裂くように

  さあ歌え! 踊れ! 戦え!


(ザーク)

「世界を変えるのは……この俺たちだ!」


(アン)

涙は剣に変えてゆく

傷だらけでも構わないわ


(ミラ)

カワイイだけが魔法じゃない

覚悟の数だけ羽ばたけるの


(マルク)

誰にも決めさせやしない

生き方くらい、自分で決める!


(3人)

Magical★Chaos 絶望を踊らせろ

笑顔で運命に逆らえ

強さは痛みを知ること

さあ、羽ばたけ! 光と闇のステージへ!


(ザーク)

「貴様らのその覚悟、見せてもらおうか……!」


(3人)

奇跡はいつも命がけ

魔法は幻想(まぼろし)じゃない


(ザーク)

「命をかけた歌声だけが、魂に届くのだ……!」


(3人)

Magical★Chaos 世界を塗り替えろ

偽り(うそ)真実(ほんとう)に変えて

誰にも止められない鼓動

今、ひとつになる


(3人+ザーク)

我ら、混沌の魔法少女っ!


「「「 MAGICAL☆CHAOS!」」」


 三人が決めポーズを放つ。


 そして観客からは、壮大な拍手喝さいが溢れかえった。


「やったぁ! 成功しましたよザークさん!」


「見たか、これが力の証明だ。魔法少女の本質が見えてきたようだな……! よし、次は物販と握手会の準備だ」


「もう悪の組織の幹部っていうか、プロデューサーですよそれ……」


 だがその時、観客の中からざわめきが起きた。


「おい、あいつら昨日騎士隊をボコボコにしたって噂の連中じゃないか!?」


「えっ⁉︎」


 観客の空気が一変する。


「王国騎士を倒した?」「子供をさらってあの服着せたってマジ?」「やばくね?」


 情報が一瞬で拡散している。


 少々目立ちすぎたか。


「そこまでだ!」


 広場の入口に現れたのは、あの時の受付嬢(防具付き)と王国騎士の増援部隊。


「魔族ザーク! 貴様を公序良俗違反および未登録イベント開催罪で逮捕する!」


「なぜそれが罪になる……⁉」


「公の場でイベントを開くのにも正式な申請とライセンスが必要なんです!」


「なに⁉︎  そんなの聞いてないぞ!」


「だから言いましたってばぁ!」


 これだから人間社会というものは面倒なのだ。


 俺は幹部として手下どもに的確に指示を与える。


「ライブは成功、よって撤退だ。行くぞ、魔法少女たちよ!」


「え、ちょ、また逃げるの⁉︎」


「マルク、バナースタンドを持て! ミラ、投げ銭は拾っていけ! アン、道を切り開け!」


「あー! もう無茶苦茶よ!」


 まあひとまずのデビュー戦としてはこのくらいでよかろう。


 だがこれはまだ始まりにすぎん。


 ククク。次の舞台は……王都だ!

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