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3/5

 かくして、魔法少女になるための厳しいレッスンが始まった。


「はい、ワンツー、ワンツー! 来るッと回ってターンッ!」


「はぁはぁ。なぜ私がこんな目に……」


「ひえぇ。きついですぅ……」


 ピンクと青の魔法少女服を着た二人が、俺の手拍子に合わせて踊っている。


 ピンクはどんくさいが素直。青は動きにキレがあるが表情が固い。


 だが、共通して圧倒的に足りないものがある。


「息が合ってない。全然なっていない」


「無理言わないでよ! 会ってまだ数時間よ⁉︎」


「泣き言を言うな。強くなりたいんだろう?」


「強くはなりたいけど……、なんかやっぱりおかしい気がする」


 ビキニアーマー女改め青い魔法少女(仮)のアンはいぶかしんでいた。


 無理もないが、最近の魔法少女にはダンスと歌唱力が必須だ。


 まるでアイドルのように、戦いの後に歌って踊るのが様式美となっている。


 主にエンディングで。


「エンディングってなんですかぁ?」


「お前たちが歌ってる歌がバトル後に流れる。なぜだか俺にも分からん」


 本当に、なぜなのかは誰にも分からない。


 だが奴ら、魔法少女たちは毎度のごとくキレッキレで息の合ったダンスを、戦いの後に必ず披露するのだ。


 きっとそこに強さの秘密があるに違いない。


「多分違うような……」


「だまれ。俺に逆らうな。さあ、もう一回行くぞ」


「ふえぇ。休ませてくださーい!」


 ミラがへたり込んだ。全くもって体力がない。


「情けない。これだから最近の若い奴は」


「そんなこと言われても……。ところでザークさんは何歳なんですかぁ?」


「む? 数えるのをやめたが、数百年は生きているな」


「えぇ! そんなにお年をめされてたんですか……」


 ミラがびっくりした顔をしている。


 そもそも人間と魔族は寿命が違うのだから、おかしくはないのだが。


「それにしても腰に手を当てて説教始める姿とか妙に……年長者感があるのよね」


「おい手下B、いったい今何を言いよどんだ。何の言葉を選んだ」


「いや別に。でもすぐに最近の若い奴はって言うのやめた方がいいと思うわ」


「なんだ、今すごく屈辱的なことを考えられた気がするぞ……」


 練習の間のちょっとした会話。


 悪の魔法少女計画を進めるたびに、幹部としての威厳が失われている気がする。


 再び威厳を取り戻すため地獄のレッスンを開始しようとした、その時だった。


 ――ガサガサ。


 茂みから武器を持った輩たちが現れた。


「ぐへへへ。なんだァこりゃ。いい女がいるじゃねぇか」


「なんだ貴様ら。神聖な儀式の邪魔をするつもりか?」


「なんだこいつ、頭いかれてんのか……? まあいい。おいお前ら、出て来い!」


 丸ひげの男が叫ぶと、四方八方からぞろぞろ盗賊団が姿を現した。


 アンが魔法少女服を脱ぎ、ビキニアーマー姿で剣と盾を構える。


「この辺に盗賊団が出るって噂は本当だったようね。ここは私が!」


「脱ぐな。露出狂」


「違う! これは戦闘に適した……」


「その数少ない利点をお前の片手剣装備が潰しているんだろうが。さっさと魔法少女服を着て下がっていろ」


 俺は脱ぎ捨てられた服を叩きつけるように返し、盗賊たちを睨んだ。


 人数はざっと20。アンの格好を茶化す声があちこちから聞こえる。


 俺の部下にもいたが、こういうのはだいたい決まってザコだ。


「消えろ。デス・レイン」


 空へ放った魔弾が黒い雨となって降り注ぎ、盗賊団は瞬く間に壊滅した。


「ぐげえ!」「ぐあらば!」「ひでぶ!」


 そして、まったく反応が昭和だ。


「さ、さすがザークさん……」


「ふん。この程度造作もない。……うん?」


 その時、焦げた盗賊の頭上から小さな金髪の子供が降ってきた。


「いてっ」


「マ、マルク!? お前、隠れてろ!」


「やだ! 俺も戦うゾッ!」


 震えながらもナイフを握る姿。


 どう見ても小僧だが、気配遮断はできるようだ。


「……俺としたことが、一匹取り逃がしたか」


 魔力を収束させかけた俺を、ミラが止める。


「待ってくださいザークさん! 相手は子供ですよ!」


「ふん。こいつ、生意気にも気配遮断のスキルを使っていた。俺の目をかいくぐるとは、生かしてはおけん」


「でもちょっと訳ありなようですし、お話を聞いてもいいのでは?」


 どうやらこいつにも正義の心が育ってきたらしい。


 魔法少女として、これは喜ばしい兆候だ。


 善性が育てば育つほど、反転して悪となった時の反動は大きい。


「よし。ならばそこの小僧、言い訳を言ってみろ。つまらなかったら殺す」


「もう! すぐにそうやって殺すって言う!」


 ミラが怒っているが、マルクは静かに語り始めた。


 森で両親に捨てられ、山賊に拾われて育てられた。


 自分を育てた人たちだから、恩義がある。


「だから俺は、誇り高き盗賊なんだゾ! 変な格好の連中になんか絶対負けない!」


「そんなボロ布を着ておいて誇り高きとは笑わせる。だが、いいキャラだ」


 悲しき過去持ち。そして変な語尾。


 魔法少女にありがちな王道パターンだ。


 俺は満足げにうなずき、マルクに服を差し出す。


「さあ、これを着ろ」


「これは……?」


「魔法少女服(黄色)だ」


「「えっ⁉︎」」


 ミラとアンが信じられないものを見る目をしているが、そんなものは悪の組織幹部であるこの俺に通用しない。


「これを着れば、命は助けてやる。ついでにそいつらも解放してやる」


「……分かった。俺、着るゾ!」


 マルクはその場で着替えた。驚いたことに、実によく似合っている。


 最近男の魔法少女もいるそうだし、男の娘という属性も世間にはあるようだ。


 例え女でなくても何の問題もないだろう。


「では行くぞ。新たなるしもべよ」

「分かったゾ。()()()()


 こめかみがピクリと動く。なんだその語感。


 気のせいかもしれんが、誇りというか威厳というか何というか。


 魂がダメージを受けた気がする。


 アンとミラが口元に手を当てて、「あ、言っちゃった」というような顔をしている。


「おいお前、その呼び方を……」


「くっ、マルク! やめろ、そいつの口車に乗るな!」


 訂正させようと思ったところに、丸髭の親父が口出ししてきた。


「父ちゃん、今まで育ててくれてありがとう」


「マルクーーー‼︎」


 実に感動的なシーンだ。だが無意味だ。


 呼び方を訂正させるタイミングを逃してしまったが、まあいい。


 俺たちは新たな魔法少女(仮)(?)のマルクを引き連れ、森をあとにした。

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