表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

 俺たちは冒険者ギルドに到着した。


 ミラによれば、異世界では冒険を始める前に登録とやらが必要らしい。


「新規登録ですね。ではこちらに名前と職業を書いてください」


 そう受付嬢が紙とペンを差し出してきた。


 俺は素直に自分の名前と元いた世界の職業をそのまま書いた。


「……株式会社ヤーバイゼ幹部ですか? 前例はありませんが、登録は可能です。初級者ランクでの認定となります」


 と銅色のギルドカードを渡された。名刺のようなものか。


「この俺が初級者だと? 全く舐められたものだ」


「し、仕方ないですよ。誰でもみんな初心者なんですから」


「ふん。しかしミラよ、お前のカードは銀色をしているようだが?」


「わ、私は一応これでも中級者なので」


 手下の分際で俺よりもランクが上とは、笑えない冗談だ。


 俺はギルドカードを受付カウンターに投げ捨てた。


「おい女。俺がこいつよりも下とはどういうことだ。今すぐこのカードを上級に変えろ」


「こ、困りますよお客様!」


「ちょ、ちょっとザークさん! ここで騒ぎを起こしたらマズいですよ!」


 もめていると、奇怪な格好をした女が現れた。


「そこの魔族! 乱暴はやめなさい!」


 肌面積の少ない水着のような鎧、手には剣と盾。


 戦いをなめているとしか思えない服装だ。


 これでは防御力も何もあったものではない。


「なんだこの痴女は?」


「マズいですよザークさん、あの方は王国の騎士です。このままじゃ逮捕されちゃいますぅ!」


 またミラがべそをかき始めた。相変わらず頼りにならん。


「それで、王国の騎士がこんな下町のギルドに何の用だ」


「怪しい魔族がいると通報があったの。あなたのその青い肌、白い尖った髪、そしてその格好……。どう見ても怪しすぎるわ!」


 ふむ。やたらと指摘されるが俺の格好は黒の軍服だ。


 別に奇抜でもなんでもない。


 少なくとも、ビキニアーマーに比べればよほど常識的だろう。


「ふん。怪しければどうするつもりだ」


「現行犯として処罰します」


 女は右手に剣、左手に盾の片手剣スタイルで構えた。


 その一挙手一動ごとにブルンブルン揺れる胸が、実に見ていて滑稽である。


「いいだろう。退屈しのぎに遊んでやる。こい」


「やあああ!」


 速い。さっきの4人組よりはできるようだが、しょせんは人間。


 魔法少女の重たい一撃と比べれば、この程度造作もない。


 俺は受付に転がっていたペンをつかみ、剣筋を完全に見切って防いだ。


「なっ、私の剣が止められた⁉」


「その程度か。つまらん」


 俺は女の無防備な腹に蹴りを叩き込んだ。


 盾を構える暇もなく女は壁に吹き飛ばされ、そのまま気絶。


 まったく軽装のくせに盾とは。重さで機動力を殺してどうする。


 ちぐはぐすぎてまるで戦術として成り立っていない。


「マズいですよザークさん! 王国の騎士なんて倒したら絶対増援が来ます!」


「どうでもいい。この程度何人来ようと問題ない。それよりカードだ」


「いやもうダメですって! あ、受付さんが逃げていくぅ!」


 受付嬢は血相を変えて奥へ逃げ、他の客たちも蜘蛛の子を散らすように逃げ出していった。


「やばいやばい、本当に逮捕されちゃいますって!」


「人間の法律など知ったことか。それより俺のランクを――」


「いいから逃げましょう! 私、前科持ちなんて絶対イヤですぅぅぅ!」


 あまりにしつこくミラが懇願するので仕方なくギルドを後にする。


 その背後で。


「ザーク……あなたは、一体何者なの……」


 倒れた女騎士が、顔を上げて呟いた。








「な、何とか逃げ切れましたぁ」


 俺たちは町はずれの森に逃げ込んだ。


 野生動物やモンスターの気配はあるが、俺の気配に恐れをなしてか誰も近寄ってこない。


「ふん。軟弱者め。逃げるなどせず堂々としていればよかったのだ」


「わ、私はザークさんほど強くないんですよぅ」


「そんなことは知っている。だが俺の手下になる以上、その程度では先が思いやられるな」


「うぅ。いつのまにか手下になってる……。もうおうちに帰りたいよう」


 ミラは涙目になってグスグスと半べそをかいている。


 魔法少女にはこういうやつもいるとはいえ、少々臆病が過ぎる。


 俺が鍛え直してやらねばなるまい。


「さて、まずはお前の魔法の腕前を見せてもらう。使える魔法は?」


「えっと防御と回復、それと光系の魔法が少し……」


「支援型か。だが光系は悪くない。魔法少女に必要な素質だ」


「そ、そうですか……?」


 魔法少女は大体光属性。光が強いほど影もまた濃くなる。


 つまり、闇への適性もあるということだ。


「よし、まずはそこにいるスライムに魔法を打ってみろ」


「は、はい! イルミネイト!」


 ミラの杖から光の弾が放たれ、スライムに直撃。


 ぷしゅっと弾け、泡のように飛び散った。


「ほう。意外とやるではないか」


「えへへ。これでも中級なので」


「だがこの程度ではまだ足らんな。魔弾とはこう打つものだ」


 俺は天に魔力を放った。弾は空に向かって上昇し雲を貫く。


 そして無数の光の矢となって降り注ぎ、森にいたモンスターたちを一掃した。


「ひ、ひえぇ」


「分かったか。魔法とはこう打つのだ。やってみろ」


「で、できませんよぅ」


「やれやれ。やる前からあきらめるとは、そんなことでは立派な魔法少女になれないぞ」


 そう言って、俺は懐からギルドで持ってきた手配書を取り出す。


「それって、無断で……?」


「ああ。しかし全て倒したのだから問題あるまい」


「クエストは受注してなきゃ、報酬もらえませんよ!」


「なにっ!? そうなのか! ……それを先に言え」


 俺は紙切れとなった手配書をビリビリと破り捨てた。


 まったく人間どもは手続きばかりで面倒が多すぎる。


 悪の組織であれば俺が判断すれば即座に実行できるというのに。


 そんな時、茂みの向こうから声が聞こえた。


「見つけた……!」


 姿を現したのは、さっき見たビキニアーマーの女だった。


「ん? 貴様はさっきの。また俺と戦いに来たのか?」


「……あなたとの実力差は理解したわ。だけどなぜ私を殺さなかったの?」


「殺す価値もなかったというだけのことだ。それより、服を着た方がいいぞ」


「余計なお世話よ! 一体何が目的なの? さっきも森のモンスターを倒していたみたいだし、話し合いで決着できるならそうしたいのだけど」


 まじめで堅物、正義感の強い学級委員長タイプ。


 ああ、いたな。元の世界の魔法少女にも。


「目的か。当面はこの手下Aを魔法少女に仕立て上げることだが」


「魔法少女? そんな職業、聞いたことないけど」


「まあ、貴様には関係のないこと……いや待てよ」


 もしかしたらこの女、魔法少女としての素質があるかもしれん。


 ククク、いいことを思いついた。


「おいお前、力が欲しいか」


「は? 何よいきなり」


「見たところお前は人間の中では実力がある。だが所詮、組織の一兵卒。俺の手下になれば、自由に力を使い正義を貫くことができるぞ?」


「あ、あなたの口車になんか乗らない!」


 口ではそう言っているが興味津々な目だ。


 よほど鬱憤がたまっていたのだろう、バレバレである。


「俺の手下になれば好きなだけ悪を成敗できるぞ?」


「正義を自由に?」


「そうだ。俺は嘘はつかん(本当に嘘はついてない)」


「それで、どうすれば?」


「まずはこれを着ろ」


 俺は青の魔法少女服を出した。


 真面目タイプには青が似合う。これは常識だ。


 だが女は顔を真っ赤にして叫んだ。


「な、何よその恥ずかしい服は! 私を辱める気⁉」


「いや、お前の今の格好の方がよっぽど恥ずかしいが……」


 価値観が分からん。


 こいつのビキニ鎧と魔法少女のフリフリ服、どっちもどっちだろう。


「着ない! 絶対着ない! ……でもどうしてもって言うなら、その。ごにょごにょ……」


「着たいのか来たくないのかはっきりしろ」


 結局、女は顔をそむけながら言った。


「わ、分かったわよ! 着る! で、そのあと何をすればいいのよ!」


「知りたいか? ククク……」


 ミラと女が、ごくりと息を呑む。


 俺は満を持して、宣言した。


「貴様らには……、歌とダンスを覚えてもらう!」


「「……は?」」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ