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 お前たちは魔法少女を知っているか?


 そう。あのフリフリのふざけた服を着た、謎の力で奇跡を起こしてくるあれだ。


 奴らはいとも簡単に敵を倒し、何の苦労もなく友情パワーで世界を救っていく。


 俺の名はザーク。世界征服をたくらむ組織の幹部だった男だ。


 最終決戦の日、俺は魔法少女たちを圧倒していた。


 だがあろうことか人質のガキが、魔力を吸収する魔石を奪いやがった。

 その隙を突かれ、奴らは友情だの絆だので必殺技を発動。


 俺は浄化され死んだ、はずだった。


 目が覚めた時、俺はいつのまにか中世ヨーロッパ風の町にいた。


 どうやら異世界転生とやらをしてしまったらしい。


 部下の間で死んだら異世界に行けるだのという噂を耳にしたことはあるが、何かの宗教か世迷言だとスルーしていた。


 しかしこうして俺が生きているということは、幸か不幸か真実だったということなのだろう。


 街を歩いて回っていると、向こうの方から目立つ4人組が現れた。


 奇怪な格好をした男二人と女二人。


 うち一人の女が黒いローブに身を包み、先に緑の球体が付いた木の杖を手にしている。


 ……生前のいまいましい記憶がよみがえってきた。


「おい、そこの不審者! 何者だ!」


 剣を持った男が叫んできた。


 どうやら俺が呼ばれたようだ。


「なんだ貴様。図が高いぞ」


「変な格好をしているうえにその不遜な態度、青い肌。お前は魔族か?」


 向こうは警戒して全員武器を構えている。


 それぞれ剣に槍、ハンマーに木の杖と。どれも平凡な装備だ。


「変な格好とは貴様らに言われたくないな。心外だ」


「抜かせ! 魔族め、この俺が倒してやる!」


 先頭の男が剣を振り上げ襲い掛かってきた。


 遅いうえに単調な動きだ。


 俺は虫を払うようにその男を払いのけた。


「ぐああ!」


 と大げさに吹き飛び酒場に突っ込んでいった。


 おいおい、軽く手で払っただけだぞ。


 続けて仲間と思われる槍の男とハンマーの女が突っかかって来た。


 しかしこの程度、魔力を使う必要もない。


 槍の男を適当に足で蹴散らし、ハンマーの女を持っている武器ごと投げ飛ばした。


「こいつ、強い」


 いやお前たちが弱いだけだ。


 魔法少女なら素手で俺と殴り合いができるぞ?


「ギガブラスト!」


 剣の先から魔力のエネルギーが放出されるが、しかし大したことは無い。


 魔法少女の打ってくる理不尽な極太ビームに比べれば、こんなもの水鉄砲と変わらない。


「ふん」


 わざわざ避けるまでもない。


 魔力の塊をぶつけてやると、相手の技を貫いてそのまま男の体に直撃した。


 男は地面をゴロゴロと転がって、ばったりと倒れた。


 仲間二人があわててやってきて助け起こしている。


「くっ、俺の最強の技が……。撤退だ!」


 やっと実力の差が分かったのか、3人は逃げだしていった。


 しかし一番警戒していた木の杖を持っていた女は、全く何もしてこない。


「は、はわわ……」


 あの女。木の杖を構えたまま立ちすくんでいる。


 ……一体何をたくらんでいる?


「おい、貴様」


「ひゃ、ひゃいっ!」


「名を名乗れ」


「ミ、ミラです……」


 ミラ。偶然か? 


 元の世界の魔法少女の名はミライだった。


「攻撃してこないのか?」


「い、いえ、あなたはまだ何もしてないので……」


「仲間は貴様を置いて逃げたぞ?」


「は、はい。すぐにでも追いかけたいのですが、あなたがいるので。その、私も行ってもいいですかね?」


 このお人よしとも言えるくらいの善性。


 圧倒的な力を見て逃げ出さない胆力。


 この胆力は、もしや。


「貴様、魔法少女か?」


「まほうしょうじょ? 職業は魔法使いですけど……」


「ふむ。この世界ではそう呼ぶのか。だがどちらでもいい。貴様を生かしてはおけない」


「ひぇえええ! 許してくださいいいい!」


 ミラは地面に頭を擦りつけ、命乞いしてきた。


 ……はて。魔法少女ならこんなことはしなかったはずだが?


「貴様、魔法少女ではないのか?」


「ち、違いますよぅ。そんな職業知らないですぅ」


「……本当に魔法少女じゃないんだな?」


「だからそういっているじゃないですかぁ。もう返してくださいよぅ」


 そう言って情けなくめそめそと泣き始めた。


 どうやら本当にこいつは魔法少女ではないようだ。


 何だ紛らわしい。警戒して損した。


「そうか。ならば、死ね」


「ひえぇぇ! お母さぁん助けてぇ‼」


 魔力を込めようとして、ふと思った。

 この世界にも魔法があるなら元の世界に戻る方法もあるのではないか?


 だが戻れたところで魔法少女には勝てないしな……。


 いや、方法はある。


 手を組むのだ、新たなる魔法少女と。


「おい、ミラ。命が惜しいか?」


「はいぃぃ! 何でもしますからああ!」


「よし。お前は力が欲しいか?」


「ふぇ?」


 涙と鼻水まみれの顔を上げるミラ。


「お前の仲間は逃げた。人間など自分の身可愛さに、同族を簡単に裏切る愚かな生物だ。だが魔族であれば結束は固い」


「は、はぁ」


「俺はお前を捨てない。俺の配下になれ。最強の魔法少女にしてやる」


「えぇ……」


 魔法少女は強い。理不尽なまでに強い。


 友情パワーだの絆パワーだので奇跡を起こされれば、いつもなぜか必ず負けてしまう。


 だが同じ魔法少女であれば、奴らの不条理に対抗できるはずだ。


「お前はこれから悪の魔法少女として、この俺に仕えるのだ!」


「ふええ、そんなの絶対いやですぅ!」


「断れば殺す」


「理不尽すぎますぅぅ!」


 またべそをかいて泣き始めてしまった。だが見所はある。


 泣き虫は魔法少女として大成する。


 俺の経験上、間違いない。


「まずはこれをくれてやろう」


「……ピンクのフリフリの服?」


「魔法少女服だ」


「ま、まさかこれを着ろって言うんじゃ……」


 何かを察したミラの顔が真っ青に染まる。


 ククク。震えて待っていろ、元の世界の魔法少女たちよ。


 俺は必ず帰還し、悪の魔法少女とともにお前たちを倒す。


「ククク……アーッハッハッハッ!」


「ふええ。この人いきなり笑い始めたよぅ。怖いよぅ。うえぇーん!」


 かくして、俺と魔法少女(仮)の異世界冒険が始まった。


 戦いはまだ始まってすらいない。

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