その者の罪は
その者は大罪人として処刑された。
なにせ、数百人もの命を自分のためだけに奪ったから。
その者はとある島に生まれた。
我々の住む世界と違い原始的な世界だった。
即ち、喰うか喰われるか。
これ以上ないほどに単純だった。
故にその者はあらゆるものを喰らって生きていた。
それが、この島にある唯一の法だったから。
ある日。
外の世界の人間が島にやってきた。
彼らはすぐに島を我が物とし自らが造った法を敷いた。
島は生まれ変わったのだ。
いや、強引に変えられたのだ。
その者は捕まった時、大きな抵抗をしなかった。
今まで自分がしてきたことと同じことが起こるだけだと思っていたから。
今まで喰ってきた自分が喰われる側になった。
それだけのことだ。
そう、理解していたから。
「この者は自分と同じ人間を何百人も殺し、それだけでなくその肉を食べたのだ!」
「こんな悪魔のような人間が生きていて良いと思うのか!?」
「相応しい罰を与えろ!」
自分の周りで叫ばれている音の意味をその者は遂に知ることはなかった。
その者は運命を受け入れ、喰われるのを待ち続けた。
縄で縛られたまま火計に処されるその瞬間まで。
罪と罰、両方の概念を知らぬまま。
その者は罪を定められ、罰を受けた。
炭となった骸に人々が安堵の息も漏らす。
恐ろしい罪人はもう居ないのだから。