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不死の少女は王女様  作者: 未羊


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第98話 湧き上がる謎

 ステラが勲章を魔法鞄にしまうと、ステラの両親はすっと姿を消してしまった。だが、勲章を掲げてくれればまた現れると言っていたので、どうやら今生の別れとはならないらしい。そのことにステラは少し安心をしていた。

 そして、ステラとアンペラトリスは特に言葉を交わす事なく、地下通路から脱出したのだった。


「皇帝陛下、ステラ嬢、戻られたのですか」


「ああ、今戻った。どうだ、外の調査は」


 地下通路から戻ってきたステラたちを、コリーヌ帝国の騎士たちが出迎える。

 アンペラトリスはそれに答えながら、調査の進捗を騎士に問い掛けていた。


「ダメですね。地上部分はほとんどが風化してしまっております。これだけボロボロになっていますと、屋根がないために雨に濡れたりもしますし、保存状態はどれも最悪なようです」


「そうか。それは仕方ないな。どうにか持ち運べそうなものは城へ運べ。それと、これ以上劣化せぬように保存魔法をかけておくのだ」


「はっ、承知致しました」


 アンペラトリスの命令に、騎士たちは忙しく動き始めた。

 そして、アンペラトリスはステラへと視線を落とす。


「我々は天幕に戻ることとしよう。後の事は騎士どもに任せておけば問題はない」


「分かりました」


 まだ気持ちの整理もつかないステラは、アンペラトリスの言葉に従って一緒に天幕へと戻っていった。

 さっきまで泣きじゃくっていたので、目が赤く腫れあがっている。なので、地下通路から出てくる時には素性隠し用の仮面を久しぶりに着けていた。


「久しぶりに見たな、その仮面は」


「こんな顔、他人に見せたくありませんからね」


「無理もないな。死んだはずの両親と500年という時を経て再会したのだからな。今日はゆっくり休んで気持ちを落ち着けるがいい」


「……そうさせて頂きます」


 ステラはアンペラトリスの気遣いに感謝して、そのまま天幕の中でシーツに包まって横になった。

 アンペラトリスはその横になるステラに寄り添いながら、地下通路の隠し部屋での事を振り返ったのだった。


「思えば不思議なものよな。500年以上も前に死んだ人物が、今も生きているかのように振る舞っているのだからな」


 アンペラトリスが思うのは、自分と実になめらかなやり取りをしていたエルミタージュ国王夫妻の姿だった。

 多少ぼやけているものの全身がはっきりと分かる魔法による姿の投影。考え込んだり思い出したり、質問に答えたりと、生身の人間を相手にしているような状況はなんとも異質だった。


「あれがこの大陸を支配していたエルミタージュの魔法技術の粋といったところなのだろうな。まったく、この目で見て戦慄するとは思わなかった」


「ふふん、エルミタージュの事が恐ろしくなりましたか?」


 ステラがちらりと顔を向けて反応する。


「でも、私は殺したって死にませんよ。あの火事の直後は何度死のうとした事か……。なのに、私は今もこうやって生きているんです。祝福というか、呪いですよ……」


「ああ、そうだな。だが、約束した以上は、私もその祝福という名の呪いを解けるように手伝ってやろう。約束は違えぬのが主義なのでな」


「……期待はしていませんけれどね」


 アンペラトリスの言葉を聞いて、ふいっと顔を逸らすように転がるステラ。その姿を、アンペラトリスは優しい微笑みで眺めていた。


「それにしても恐ろしいものよな」


「何がですか?」


「あれだけの魔道具を開発して維持できるだけの技術を持ちながらも、不意打ちによってあっさりと滅亡してしまったことがだ」


「ああ……。確かに、そうですね」


 確かに、アンペラトリスの言う通りだった。

 いくらステラの誕生日パーティーというお祝いの席だったとはいえ、外部からの侵略であっさり大陸を統一していた大国が一夜にして滅んでしまったのだ。


「今さらですけれど、あの事件も謎が多いのですよね。当時の私は11歳になったばかりだったので、何も分かっていませんでしたが」


「確かにそうだな。今とは地理条件が違うとはいえ、大軍を隠しておけるというのはおかしな話だ。それこそ内通者でも居たのではないのかな」


 ステラの呟きに、アンペラトリスはそのように返す。


「嘘だといいたいところですが、それは考えられると思います。ちょうどタイミングよく騎士団が城を離れていましたからね。警備を手薄にするために誘い出されたのでしょうね」


「有り得るな。強敵相手に陽動というのはよくある話だし、実際、我が帝国もここまでなるには何度かとった戦法だ」


 寝っ転がりながらも考えるステラに、アンペラトリスは同意をしながらそんな話をしていた。

 今では高台を占拠するようになったコリーヌ帝国も、弱小国だった頃にはそんな手法をとったらしい。今となっては信じられない話だ。


「だが、魔道具の支配権を先んじてステラリアに移し、死なないように秘術を施したのは正解だったかもな。調べたところによれば、魔道の支配権を握れば、この大陸を支配したも同然というような調査結果が出ているのだからな」


「……それは本当なのですか?!」


 急に体を起こすステラである。

 そして、なにやら魔法鞄から何かを取り出していた。


「皇帝陛下、しばらくここに誰も近付けさせないようにして下さい」


「ああ、分かった。だが、何をするつもりなのだ?」


「こういうことはご先祖様に聞くのです。お父様もお母様も分からないことが多いですけれど、あの人ならきっと……」


 ステラはそう言いながら、取り出した何かをぎゅと強く握りしめたのだった。

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