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不死の少女は王女様  作者: 未羊


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第75話 それぞれの待遇

 コリーヌ帝国での待遇は、実に悪いものではなかった。

 事前に早馬を送って連絡がいっていたようで、ベルオムには専用の研究設備を持った部屋が与えられていた。


「おお、さすがは遺跡の調査をしている国だな。設備が格段に違うな」


 部屋の中の設備の充実ぶりに、ベルオムは歓喜していた。


「足りないものがございましたから、いつでもお申し付け下さい。皇帝陛下から、最高の環境を提供するようにとお達しが出ておりますゆえ」


 ベルオムを部屋に案内した使用人は、そのように答えた。


「そうかそうか。今のところはこのくらいで十分だよ。必要なものが出てきたら、お言葉に甘えさせてもらおう」


 いつになく上機嫌なベルオムである。さすがはそもそも魔道具師である。

 だが、部屋の設備に喜んでいたベルオムは、急にスンと落ち着く。


「ステラとリューンくんはどうしているかな?」


「はい、あのお二人もそれぞれ担当の使用人がついて、それぞれ陛下から仰せつかった部屋へと案内しております。ご心配でしたら、ご案内致しますが……」


 ベルオムの案内を担当した使用人が、ベルオムの質問に答えながら提案をする。

 ところが、ベルオムの答えはというと……。


「丁重に扱ってもらえているのならそれでいい。確認は食事の時にでもさせてもらうよ」


「承知致しました。では、これにて失礼させて頂きます。ごゆるりとおくつろぎ下さいませ」


 挨拶を終えて、使用人が部屋から去っていった。

 一人になったベルオムは、改めてその設備をじっくりと見て確認していくのだった。


 ―――


 ベルオムが興奮気味にしている頃、リューンが用意された部屋に到着していた。


「リューン様、こちらの部屋をお使い下さい」


「あ、ありがとうございます」


 今までただのしがない一般人だったリューンは、コリーヌ帝国でのこの扱いにものすごく戸惑っている。こんなに待遇よくされていいのだろうかと。

 リューンを案内している使用人は、そのリューンの気持ちを察したようである。


「あまり気を張らないで下さいませ。陛下からはしっかりとくつろげるように仰せつかっておりますからね。では、ご用がございましたらいつでもお呼び下さいませ」


 扉を開けて中へと案内した使用人は、呆然とするリューンに声を掛けてそのまま去ってしまった。

 リューンはしばらく口をぽっかり開けたまま、部屋の中をぐるりと眺めていた。


「……本当にこの部屋を、僕が使ってもいいわけなのかな」


 あまりの部屋の豪華さに、リューンは完全に圧倒されていたのだった。


 ―――


 そして、残ったステラはというと……。


「なんでしょうか、コリーヌ帝国皇帝陛下」


 なんと、アンペラトリスの部屋に呼ばれていた。

 目の前には足を組んで偉そうに座るアンペラトリスの姿があった。

 その自信たっぷりな姿を、ステラはじっと睨みつけるように見ている。


「そう構えるな、ステラリア・エルミタージュ」


 だが、さすがはでかい目標を掲げている皇帝である。ステラの睨みにもまったく動じていない。


「その名前で呼ばないで頂けますか。今の私はただのステラです」


「名を捨てたというのか?」


「いいえ、名乗る資格がないだけです。今の私には、もったいない名前ですよ」


「ふむ、そういう考え方もあるか」


 強い口調で答えるステラ。だが、アンペラトリスは落ち着いた様子でステラの反応を分析している。


「では、どうなれば元の名を名乗る気になるのかね?」


「あなたになんか教えるものですか」


 改めて問われて、ステラはきっぱりとそう言い切った。


「やれやれ、実に気の強いお姫様だな」


 アンペラトリスは実におかしそうに笑っている。

 それというのも、アンペラトリスにとってこういう反応は新鮮だったからだ。

 元々皇帝の一族の皇女として生まれた彼女は、反発らしい反発をされた事がない。ぶっちゃけて言えばイエスマンばかりだったというわけだ。


「なあ、ステラリア・エルミタージュよ」


「なんですか」


 本名で呼ばれたにもかかわらず反応してしまうステラである。

 だが、アンペラトリスはそれに気が付きながら、気にしないで話を続ける。


「お前は気に入らないかもしれないが、どうだ、私の養女となる気はないかな?」


「……何を企んでいるのですか」


 思いもしない提案に警戒心を強めるステラ。


「なに、言っただろう。この大陸中に入りめぐらされた魔道具のネットワークの支配を手に入れたいと。権限をお前から奪うのもいいが、ひとまずは権限を持つお前を抱え込みたいというわけだ。単純だろう?」


「何を言っているのか分かりませんね。私は別に魔道具の権限持ちになった覚えはありませんからね」


「とはいってもな。調査の結果、魔道具の最終的な支配者はステラリア・エルミタージュになっているのだ。これは揺るぎない真実だ。お前がいくら否定したところで、この事実は変えられぬぞ」


 両者の言い分は平行線だった。


「まあよい。お前がどう言おうとも、この国からはもう逃げられぬ。気が変わるのをゆっくり待つとしよう」


 しばらく考え込んだアンペラトリスは、気長に待つ選択をしたようだ。

 そして、ステラを用意した部屋へと連れていくように兵士に命じる。


「では、ステラリア・エルミタージュ。よい返事を待っておるぞ。逃げようなどと考えるなよ、仲間の事を思うのならな」


「ぐっ……」


 アンペラトリスの言葉に、顔を歪ませるステラである。

 客人という立場ではありながら、実質囚われの身となったステラたち。これから一体どうなってしまうというのだろうか。

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