第52話 地下室での衝撃
今は深い青色の髪と瞳になっているステラだが、変装を解き始めると、みるみるうちに髪と瞳の色が変化していく。
その変化は髪の根元から毛先にかけて起こり、ステラの髪色はあっという間にプラチナブロンドへ、瞳は金色へと変化してしまった。
あまりの神々しい姿に、リューンは開いた口が塞がらないくらい驚いていた。そのくらい劇的な変化なのである。
「リューンには初めて見せましたね。これが本来の私の姿なんですよ」
「なんてきれいなんだろう……」
思わず息を飲んでしまうリューンである。今のステラはそのくらい美しく輝いていた。
リューンに構わず、ステラは再び隠し扉があると思われる場所の前に立つ。すると、扉に反応があった。
『ステラリア・エルミタージュを確認。設備のロックを解除します』
淡々とした音声が響き渡る。
次の瞬間、ゴゴゴゴ……という重苦しい音を立てながら、目の前の壁が横に動いて通路が現れたのだった。
「まったく、なんて設備なのかしら。こんな設備を保有していたエルミタージュ王国って、一体どんな国だったのかしら……。生まれて11年じゃよく教えてもらえなかったものだから、詳しく分からないのよね」
思わず腕を組んで唸ってしまうステラである。
しばらく考え込んだ挙句、開き直ったかのように姿勢を戻すステラ。くるりと振り返って、後ろに居るリューンに手を伸ばして声を掛けた。
「さあ、進みましょうか」
「は、はい、ステラさん」
ステラの手を取ったリューンは、どこか緊張した様子で一緒に奥へと進んでいった。
ズガーン!
「えっ?!」
突然の大きな音に、思わず声が出てしまう。
どうやら、二人が部屋の中に入った瞬間、扉が閉まってしまったようだ。つまり、部屋に閉じ込められてしまったのである。
進むしか選択肢のなくなった二人は、明かりを強めて部屋の中をしっかりと照らし、状況を確認することにした。
ところが、壁の奥にあった部屋の中は、そこまでとは明らかに造りが違っている。なんとも言い難い材質だった内装だったのに、今居る部屋の中は一般的なレンガや石を積んだ造りになっているのだ。これには思わずびっくりしてしまう。
「さっきまでとは、完全に雰囲気が違いますね。それでも、ステラさんを認識してるという事は、500年以上前から存在しているという事ですよね?」
なかなか鋭い指摘のリューンである。ただ、それが正しいかどうかを判断できるものがここには存在していなかった。
「おそらくは、でしょうね。エルミタージュの紋章で入れたこと、私の顔で認証をしていたことを考えると、ここもエルミタージュ王国に関連した場所だったのでしょう」
狭い部屋の中を全体的に見回しながら、ステラはそのように分析している。
「そして、この部屋の材質からすると、万一があった時には簡単に崩せるようになっているのでしょう。つまり、この部屋の中にはエルミタージュ王国に関わる重要な情報が眠っているという事でしょうね」
最終的に、そのように結論付けるステラである。
「あれ、まだ奥がありますね」
「……そのようですね」
ふと向けた視線の先には、木でできた扉が1枚見える。
入ってきたばかりの部屋にはこれといったものは何もなかった。となれば、奥の部屋が本命なのだろう。
そう考えたステラたちは、警戒しながら奥へと進んでいく。
しかし、何事もなく、奥の部屋へと入っていけた。
奥の部屋は先程の部屋の半分程度の広さになっているものの、周囲には本棚やら戸棚が置かれており、机と椅子も一揃い置かれていた。まるで、誰かが生活でもしていたかのような場所だった。
部屋の中を探ろうかとしていたその時だった。
「えっ?!」
ステラは思わずびっくりしてしまった。
自分の家の引き出しの中から持ってきていた勲章が、急に光り出したのだ。
「これは一体……」
慌てて魔法鞄から勲章を取り出すステラ。すると、ステラの手から離れて宙に浮いた紋章は、目の前にある机の上へと移動していく。
ステラもリューンも、一体何が起きているのか分からなかった。
すると、先程まで誰もいなかったその空間に、うっすらと人の姿が浮かび上がる。
見た感じは50代はいっていると思われる男性の姿だった。
『よく来たな。エルミタージュの血を引きし者よ』
ぼやけた姿の男性が急に喋り始める。衝撃的過ぎるその状況に、二人は一切喋る事ができなかった。
『ふむ、驚きすぎて反応に困っておるようじゃな。まあ無理もなかろう。見ても分かる通り、わしはもうこの世に存在せぬ人間なのだからな』
再び驚くステラとリューン。
言葉を聞く限り、こちらの状況を理解して話をしているようなのだから。
『まさか、君たちのような子どもがここにたどり着くとは思っていなかったな。でも、安心したよ。エルミタージュの血が途絶えていないという事は、再び蘇る事ができるという事なのだからな』
「えっ?!」
おぼろげな男性の言葉に驚かされっぱなしである。
一体目の前に居るこの男性は何者なのだろうか。そして、一体何を知っているというのだろうか。




