第43話 フイエの街
無事に国境を越えて、いよいよコリーヌ帝国にやって来た。
話によれば小高い丘陵地を支配するコリーヌ帝国には、エルミタージュ王国の遺産がたくさん眠っているらしい。そのために、今となっては伝説的な扱いとなっているエルミタージュ王国は、丘陵地帯にあったのではないかと噂されている。
王女であったステラも、もう昔すぎて正確な場所を覚えていない。500年も経てば、地形が変わってしまうのも当たり前なのでなおさらである。
「ずいぶんと変わった建物が見えますね」
「ああ、あれか」
リューンが思わず口に出した感想に、ベルオムが反応する。
コリーヌ帝国の街へと向かう道中からは、朽ちた建物の壁面があちこちに見えるのだ。石造りというわけでもなさそうな建物に、リューンは興味を示しているというわけだ。
「あれは、エルミタージュの建築ですね。土魔法と水魔法と火魔法を組み合わせて造り上げた、強固な壁ですよ」
答えたのはステラだった。
「なんだ、ステラも知っていたのか」
「お父様と視察に出かけた際に説明を受けましたのですね」
懐かしむような柔らかい口調で、ステラはベルオムに返答している。
「お母様とも話をしましたが、エルミタージュは魔法学と呼ばれる魔法を研究する学問がございました。その関係で、多くの魔道具が生まれたと言われています。リューンも冒険者組合などで見たはずですよ」
ステラの言葉に、唸りながら頭を捻るリューンである。どうやら思い出せないようだ。
「今も引き継がれて生産されているのは、この冒険者タグですね。便利だと判断したのか、その後の支配者たちは利用しているみたいですね」
「ああ、これがそうなんですね」
ステラが説明すると、リューンは思い出したように自分の冒険者タグを取り出して眺めた。
「おいおい、それだけではないだろう。見つけている魔法鞄も、そのエルミタージュの技術のひとつだぞ」
「ええ、これも?!」
先程から驚きまくりのリューンである。
まったく、リューンはどこまでも知らなかったようである。
「……ステラ、最低限の知識はちゃんと与えておきなさい」
「申し訳、ございません」
ベルオムに叱られて凹むステラである。
そんなこんなでコリーヌ帝国の最初の街フイエに到着する。
「ずいぶんと人が多いですね」
ここまでも街を見てきたのだが、ステラがつい言葉を漏らしてしまうくらいに人が多く行き交っている。
「そりゃそうさ。一獲千金を夢見てやって来る冒険者や採掘者が集う街だからね」
ステラの声に、どっかのおっさんが反応している。
せっかく反応してくれたので、おっさんからいろいろと聞き出すステラたちである。
その話によれば、このコリーヌ帝国のあちこちから、滅んだエルミタージュ王国の遺産がいろいろと見つかっているらしい。
それらは歴史的価値が高いし、今でも十分使えるものあったりするために、高額で取引されているのだそうだ。そのため、財宝のひとつでも見つけようとして、こうやって人が集まってきているのだという。
冒険者組合や商業組合に寄って話を聞いても、そのような答えばかりが返ってくる。
こうなってくると、ステラたちの結論はひとつだった。
「この辺りがエルミタージュ王国だった可能性が高いな」
「そうですね。私がはっきり覚えていれば特定は早かったのでしょうけれどね」
「いや、地形が変わっている可能性があるんだ。遺跡が多いなどの情報がなければ、場所の特定は難しいだろう」
悔しがるステラを、ベルオムは特に責めはしなかった。
「出会った頃は無気力だったというのに、ずいぶんと変わりましたね」
「……ようやく目的ができましたからね。もう諦めるのはやめますよ」
ベルオムに対して力強く頷いたステラは、顔をリューンへと向けていた。
「……私を待っていてくれた一族のためにも……ね」
「なるほどね」
ベルオムも納得したようにリューンへと向けていた。
「だが、ここからはこういう会話は控えねばならんな。周りを見てみなさい」
ベルオムの言葉に、周りをきょろきょろと見回すステラとリューン。
すると、自分たちに向けて視線が集中している事に気が付いたのだ。
「別にリューンくんは問題ないだろう。むしろ私とステラだな、視線を集めている原因は」
「まあ、私の仮面は目立ちますからね。……外せませんけれど」
「まぁそうだね」
くすくすと笑うベルオムである。
「それはいいとして、今日のところはもう休もう。宿を取って明日から遺跡巡りをしようではないか」
「魔物の生態調査ではないのですか?」
ステラがツッコミを入れる。
「遺跡に人が集まっていると言っただろう? 人が集まれば邪魔な魔物は狩られる。生息地域に影響を及ぼす可能性は十分に考えられるのだよ」
「……確かにそうですね」
「まったく、長く冒険者をしていたからか、ずいぶんと乱暴な思考をしていますね、ステラ」
「ぐぬぬぬ……」
言い返せないステラである。
そんなこんなでちょっとばかり不協和音が起きそうな感じだったが、そんなものもひと晩眠れば元に戻っていた。
無事によく朝を迎えて支度を済ませたステラたちは、遺跡を調査しに行くために、まずは冒険者組合を訪れたのだった。




