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第41話 タクティクに着いて

 ようやくステラたち一行は、コメルスの目的地であるタクティクに到着していた。

 さすがに商人であるコメルスが目的地としているだけあって、人の行き来がかなり盛んなようである。


「うわぁ、バナルの街でも見た事のないくらい人がいますね」


「それはそうですよ。ここは交易都市なんですから。ほら、私以外にも商人の馬車があちこちに見えます」


 コメルスが顔を出して指差す先には、確かに荷馬車がいくつも見える。

 その馬車の群れを見ながら、コメルスの馬車がとある建物に到着した。


「さて着きましたよ。ここが私の営む商会の建物です」


 到着した建物は、石造りの立派な建物だった。さすが商人はいい建物を持っているものである。

 庭に馬車を入れると、建物の中から人が出てきた。


「旦那様、お嬢様、長旅お疲れ様でございます」


 30歳くらいだろうか。少し風格のある男性が出迎えている。


「出迎えご苦労ですね、ガザン」


 出迎えた人物に労いの言葉を掛けるコメルスである。


「ガザンさん、お久しぶりです」


 トレルも挨拶をしている。

 挨拶を終えたガザンが、ちらりとステラたちの方へと顔を向ける。そして、どういうわけかため息をついている。


「また、ずいぶんと護衛を雇われたのですね。予算は足りてらっしゃるんですか?」


 商会の関係者以外に六人も同行者が居れば、それはお小言も言いたくなるというのもである。

 そのガザンのお小言に、コメルスはただ笑っていた。


「本来雇ったのは三人だけですよ。こちらの三名は、ただ途中でお会いしただけの旅人です」


「はあ、そうなんですね」


 事情を聞いたガザンは、安心したようだ。


「お初にお目にかかります。私、ボワ王国で宮廷魔術師をしているベルオムと申します。今回コメルス殿にお会いできたのも何かの縁、以後お見知りおきを」


 ベルオムが間髪入れずに挨拶をすると、ガザンは驚いていた。ベルオムは超有名人のようである。

 そして、すぐさまベルオムの手を握って、まるで憧れているかのように瞳を輝かせている。


「おお、あなたが噂に聞くベルオム様ですか。噂はかねがね伺っておりますとも」


 ぶんぶんと手を上下させるガザン。さすがにここまでの反応をされては、ベルオムも戸惑いが隠せないというものだ。


「ささっ、ベルオム様ともあればおもてなしをしないわけには参りませんね。お連れの方々もどうぞお入り下さい」


 ガザンは思いっきり下手に出ながら応対してくる。さすがにアバンたちはこれには乗らなかった。


「俺たちは組合に依頼達成を報告しなきゃいけないので、とりあえず証明だけ頂けますか」


 ちょっと引きながらも頼むと、コメルスがさらさらと一筆認めて渡していた。それを受け取ったアバンたちは、お邪魔虫は去るべきといわんばかりに、足早に商会を後にしていった。

 その様子を見送ったステラたちは、とりあえずお言葉に甘えて商会の中へと入っていく。

 中に入ると、商会らしくいろいろな装飾品が飾られていた。おそらくは骨董品レベルの高価なものばかりだ。なので、珍しそうに眺めるリューンに、ステラは触らないように注意をしておいた。

 応接間に到着したところでそれぞれに席に着く。しばらくすると、商会の職員が紅茶とお菓子を持ってやって来た。


「さて、途中であった魔物の襲撃なんですけれどね」


 コメルスが話題を切り出す。


「ディープグレイウルフは問題ないですが、ジャイアントベアとロックバード、これははっきり言ってこの辺りの冒険者たちでは対応しきれないと思います」


 内容は、このタクティクに到着するまでにあった魔物との戦いの事だった。

 街道沿いなので、定期的に討伐をしている以上魔物が少ないのは当然だ。しかし、リヴィエール王国に入ってすぐにあったあの一戦だけは、はっきり言って予想外のできごとだったのだ。

 このまま安全に移動ができないとなると、商売人にとっては致命的な事となりかねない。そのために、商会に着いたこの時点で、ベルオムは決意を固めていたのだ。


「ベルオム殿、どうか魔物の生息地が狂っている原因を突き止めて下さい。このままでは我々にとっては死活問題です」


 コメルスはこう発言すると、すっと立ち上がる。そして、ベルオムに向かって頭を下げた。


「どうか、よろしくお願いします。……これは私からの指名依頼として冒険者組合に出しておきます」


 指名依頼。つまりは冒険者を指定して出される依頼だ。

 確かにあれだけの強さを見せたベルオムなので、この依頼にとっては適任であろう。ちょうどそういう用事で移動してる最中なのだから。

 ただ、これには問題が一つあった。


「依頼はお受けしてもいいのだけど、残念ながら私は冒険者ではないんだよ」


 そう、ベルオムは冒険者ではなく一般人だ。宮廷魔術師の肩書があるとはいえ一般人だ。

 そんなわけで、ベルオムはちらりとステラへと視線を向けた。


「なので、こちらのステラとリューンの二人への指名依頼にしてもらえないかな。もちろん、私も手伝うけれどね」


「分かりました。そのように手配をしておきます」


 どうやら話がまとまったようである。

 こうして魔物に起きている異変の調査は、個人的な調査からランクアップしたのだった。

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