第37話 実力を見せましょう
「なんと、ボワ王国の宮廷魔術師でしたか。なるほど、近隣調査のためですね。どうぞお通り下さい」
ベルオムが見せた身分証のおかげで、あっさりとリヴィエール王国へと入る事ができた。こういう時に、王族から与えられた身分というのは役に立つのだ。
冒険者の場合は証明云々で時間を取られる事が多いので、これだけあっさりと終わるというのは珍しい話なのだ。
「宮廷魔術師の肩書は便利ですね」
「まあな。おかげで物事がスムーズに進んでいい。ステラも何かいい肩書を手に入れたらどうなんだ?」
感心したようにステラが言うと、冗談半分にベルオムはおすすめをしている。しかし、それに対してステラは真剣に考えているようだった。
そんな二人に対して、リューンがおそるおそる手を上げながら口を挟む。
「あのー、金級冒険者も十分な肩書だと思うんですけど……」
そのリューンの指摘に、ステラもベルオムもくるりと振り向いてくる。そして、お互い顔を向き合わせている。
「ははっ、そういえばそうでしたね」
「なんだ、金級冒険者になったのか。それはすごいな」
コリーヌ帝国方面の丘陵地帯を目指しながら、大声で笑い合うステラとベルオムである。
「では、その金級冒険者の実力を、改めて見せてもらおうか」
すました顔のベルオムが、そう言いながら前方へと視線を向けている。そこには、魔物と交戦する旅人の集団が居た。馬車があるので、おそらくは護衛か何かだろう。
「ずいぶんと押されてますね。これは急いだほうがよさそうです」
ステラは軽くその場で一度飛び跳ねると、魔物との交戦現場へと飛び込んでいった。
「は、速い……」
「うむ、私の弟子なんだ。これくらいの速度は出してもらわねばな」
リューンとベルオムは、その姿をただ見守っているだけだった。
―――
「くそっ、なんなんだよ」
「こいつら、この辺りじゃ見る事のない魔物だぞ。一体どういう事なんだよ」
「わけ分かんないけど、とにかく依頼主は守らなきゃ」
馬車を守る冒険者は三人。前衛職2の後衛職1といった感じだった。
(あれは、ロックバードとジャイアントベア。確かに、こんな低地で見るような魔物ではないですね)
さすがに500年は大陸内をさまよい続けたステラである。見ただけで魔物の種類を特定していた。
そのステラですら違和感を覚える魔物の出現位置だ。ブラックウルフ同様に魔物の生息地域に異変が起きているものと思われる。
ひとまず、居る理由は後回しだ。ステラはあっという間に冒険者たちの助太刀に入る。
「助太刀します!」
そういった次の瞬間、ステラの双剣がジャイアントベアの1体を斬り刻んでいた。
悲痛な鳴き声を上げて苦しむジャイアントベア。護衛である冒険者たちは何が起きたのか分からなかった。
ただ目の前に、ついテールとマントを華麗に翻した冒険者が現れたという以外は。
「エアスラッシュ!」
斬り刻んだジャイアントベアから少し距離を取ったステラは、続けてロックバードに魔法を放つ。
「あいつに半端な魔法は……」
冒険者が叫びかけたその瞬間、ロックバードはステラの魔法で真っ二つになってしまっていた。
エアスラッシュは風魔法の中でも比較的初級に入る魔法だ。しかし、ロックバードをあっという間に切り裂いてしまうほどの威力。その思いもしない状況に、冒険者はものすごく驚いていた。
「なんて魔法の速度なの。あの硬い羽をも真っ二つだなんて……」
「驚いている暇はありませんよ。まだ魔物は残っています」
魔法を使う後衛の冒険者に指摘を入れるステラ。その指摘に反応して、冒険者たちはすぐに態勢を整えている。
「まだ2体ずつ残っているのか。くそっ、だいぶ武器が消耗しちまってるだけにもう厳しい。手伝ってもらっていいだろうか」
「当然ですよ。そのために、私はここに来たんですから」
冒険者の頼みに、ステラは双剣を再び構える。
その小さな姿を見たジャイアントベアが、ステラに勢いよく襲い掛かってくる。無事な2体だけかと思ったら、先程斬り刻んだ1体も復活して襲い掛かってきている。
その状況に思わず手助けに入ろうとする冒険者たち。
「大丈夫ですよ。このくらい雑魚です。あなたたちはロックバードの相手を」
その言葉と同時に、ステラはジャイアントベアへと突っ込んでいく。
「旋風刃!」
ジャイアントベアの真ん中に立ったステラが、風をまといながら上昇していく。驚いた事に、その時巻き起こった風はロックバードまで巻き込んでいた。ステラは実質5体すべてを相手にしていたのである。
ステラの攻撃に巻き込まれたロックバードは姿勢を崩し、地面へと落ちてくる。
「なんだか分からんが、倒すチャンスだ」
冒険者たちは落下してくるロックバードへと攻撃を仕掛ける。
一瞬でジャイアントベア3体を片付けたステラに対し、ロックバード2体に三人がかりで必死になって倒す冒険者たちだった。
悲しいかな、これが金級冒険者と一般冒険者の違いというものなのである。
どうにか戦闘が終わったのを確認すると、ベルオムはリューンを連れてステラと合流したのだった。




