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不死の少女は王女様  作者: 未羊


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最終話

 さらに1年後。

 エルミタージュ王城としての姿を取り戻したトレイズ遺跡には、多くの人がやって来ていた。

 なんといってもこの日は、ステラとリューンの結婚式だ。滅亡から500余年、今ここにエルミタージュ王家が甦る時を迎えていたのだ。

 二人の後見人として、コリーヌ帝国の皇帝アンペラトリス・コリーヌと、どういうわけかベルオムの姿もあった。

 ベルオムは、魔道具の研究に専念できるという条件で、アンペラトリスの伴侶となる事を受け入れたのだ。つまり、夫婦としてこの式典に参列するのである。まったく、なんとも予想外な組み合わせである。


「まさか、こんな瞬間に立ち会えるなんて思ってもみませんでしたね。これで私の後悔も少しは晴れるでしょうかね」


 ベルオムは思わず泣きそうになっていた。

 自分が国を優先して起こした大惨事とはいえ、その責任をずっと感じていたのだろう。滅ぼした国が甦るとなると、感慨深いのである。


「ステラ、今日はその晴れ舞台をしっかり目に焼き付けさせてもらいますよ」


「ふっ、感動のあまりに泣きじゃくる姿が目に浮かぶな」


 感傷に浸るベルオムをからかうアンペラトリスである。

 だが、その言葉に怒ることなく、静かにベルオムは頷いていたのだった。


 会場へと向かうと、アンペラトリスが呼び掛けた事もあって、たくさんの来客であふれていた。その中にはコメルスとその娘トレルもいるし、リューンの両親の姿もあった。


「ほう、あの姿はリューンの親御さんかな?」


 ひと目見て分かってっしまうアンペラトリス。

 それというのも、リューンから話を聞いて直々に使いを送ったからだ。特に父親は見た目がリューンとよく似ている。アンペラトリスに分からないわけがないのである。


「よくぞ参られたな。リューンのご両親で、間違いないですな?」


「はい、そうですが……」


「失礼ですが、あなた様はどちらでしょうか」


 反応するリューンの両親だが、プレヌ王国からすればコリーヌ帝国は遠いし、一般人であるなら知らないのも無理はないだろう。


「私はコリーヌ帝国の現皇帝アンペラトリス・コリーヌだ。今回は我が国の招待に応じて下さり、感謝する」


「あ、あなた様が! 失礼致しました……」


 アンペラトリスの名乗りに、会場内で土下座を始めるリューンの両親である。

 その姿に、アンペラトリスはつい笑ってしまう。


「立ってもらって結構だ。いささかショックではあるが、挨拶にも向かわなかったのだ。知らなくても文句を言えぬ」


 アンペラトリスが許してはいるものの、リューンの両親は青ざめたままである。


「この晴れの舞台で、血を流すような真似はせぬよ。なあ、ベルオム」


「……私に対する当てつけですかね」


 笑いながら話を振るアンペラトリスに、露骨に不機嫌な表情を見せるベルオムである。奇しくも、ベルオムが強襲を掛けた時もステラのかかわりのある祝いの席だった。その事で余計に不機嫌になったのだ。


「ふふっ、そういうつもりはない。それよりもそろそろ式が始まる。そんな顔をステラリアに見せるつもりか?」


「まったく……。いまだに師匠として慕ってくれるステラに、不機嫌な顔は見せられませんね」


 ベルオムは表情を柔らかくして、アンペラトリスたちと一緒に最前列へと移動する。

 しばらく待つと、ステラとリューンが会場に姿を見せる。立派な少年となったリューンとは対照的に、まだステラは11歳の姿のままだ。

 新郎新婦の姿に驚く参列者ではあるが、式典が式典ゆえに慌てて口を押さえて黙り込んでいた。さすがはアンペラトリスの選んだ参列者たち、弁えているようである。

 二人が着ている衣装は、エルミタージュ国王と王妃が着ていたとされる衣装。エルミタージュ王家の復活にふさわしいと、アンペラトリスが部下に命じて再現させた衣装である。

 参列者たちはその衣装に思わずため息が出てしまう。それほどまでに美しいものなのだった。


「我らを照らす光の存在の下に、二人を正式な夫婦として認める」


 進行役の男性が告げると、会場には拍手が巻き起こる。

 この宣言によって、ステラとリューンは正式に夫婦となったのである。それと同時に、エルミタージュ王国が蘇った事となる。

 ステラは本名であるステラリア・エルミタージュを名乗り、リューンもリューン・エルミタージュと名を変えることとなった。


「ステラさん……、いや、ステラリア」


「何でしょうか、リューンくん。いえ、リューン」


 声を掛けてくるリューンに反応するステラ。お互いに照れくさそうに名前を言い直しているあたり、みんなの前で恥ずかしいのだろう。

 そして、二人が真っ赤になっていると、進行役から爆弾が投下される。


「では、夫婦の証として熱い口づけを」


 思わず全身を真っ赤にさせてしまうステラとリューンである。この大衆の面前での口づけである。それは恥ずかしいに決まっているのだ。

 おそるおそる会場を見渡す二人。同じように恥ずかしそうにするのはリューンの両親とトレルくらいだ。アンペラトリスにいたっては、じっと二人を見つめていた。その圧に、思わず息を飲む二人である。

 あまりにアンペラトリスが凝視しているものだから、ステラとリューンは覚悟を決める。

 体を寄せ合い、そっと口づけをする。

 するとその時だった。ステラから青白い光が解き放たれる。


「これは……?」


 思わずびっくりして体を離してしまうステラ。


「どうやら、ステラリアに掛かっていた秘法が解けたようだな」


「ええ、そのようですね」


 アンペラトリスとベルオムは動じることなく、淡々と語っていた。

 二人の言葉に、思わずその場で泣き崩れるステラ。体こそそのままではあるものの、長年自分を縛り付けてきたものからようやく解放されたのだ。嬉しくあると同時に、もう不死身ではないのかと思うとさみしくも思えた。


「ステラリア……」


 リューンがしゃがみ込んでステラの体を抱きしめる。この光景に、参列者たちからは温かい拍手が送られたのだった。


 その日、ステラリアの止まった時間が、再び動き出したのだ。



  ―― 終 ――

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