第134話 懐かしき姿
すべての話に決着がついて4年の月日が流れた。
「やああっ!」
今日も訓練場で汗を流すリューン。
15歳となった彼はすっかり背が伸びて、体格もよくなった。
昔のおどおどしていた様子はどこへやら。今では帝国騎士団の中でもトップクラスの腕の持ち主となっていた。
「参りました」
リューンの相手をしていた騎士が頭を下げる。
以前は逆にいいところなしに負けていたのだから、本当に成長したものだ。
「はい、お疲れ様。本当に見違えちゃったですよ」
「ありがとうございます、ステラさん」
リューンにタオルを渡すのはステラだった。こっちは相変わらず11歳の姿のままである。ステラの両親に掛けられた秘法はまだ解けていないのだ。そのせいで、リューンと変わらなかった身長は、完全に見上げなければならないほどの差になっていた。
「本当にびっくりするくらい成長しましたね。見上げないと顔が見れないなんて、なんだか悔しいです」
ステラはそう言いながらくすくすと笑っていた。口では悔しいとは言いながら、その実はとても嬉しそうだった。
そこへ、兵士が一人駆け込んできた。
「ステラ様、リューン殿。皇帝陛下がお呼びです」
「皇帝陛下がですか?」
呼び掛けに対して顔を見合わせ、首をちょこんと傾げるステラ。
しかし、兵士のかなり慌てた様子に、ステラとリューンは仕方なく呼びに来た兵士に案内してもらうことにした。
そうしてやって来たのは、アンペラトリスの執務室だった。
部屋に入ると、アンペラトリスが書類と格闘していた。
「ステラリア、並びにリューン、お呼び立てに応じて参りました」
「堅苦しい挨拶はなしだぞ、ステラリア」
書類整理の手を止めて、顔を上げるアンペラトリス。ステラの挨拶につい笑ってしまっていた。
ステラはつられて笑っているが、リューンは表情がとても硬かった。
「それはそれとして、今日呼び立てたのは他でもない。いよいよトレイズ遺跡の……いや、エルミタージュ王城の再建が終わったようなのだ」
「それは本当でございますか!?」
アンペラトリスが真剣な表情で告げると、ステラが仰々しい動きで反応している。かつての自分の居城が再建されたと聞けば、それは驚くのも無理もない話なのだ。
あまりに大げさなステラの反応にアンペラトリスは目を見開いて驚きはしたものの、すぐさま冷静な表情に戻る。
「二人を呼んでおきながら、嘘を言ってどうなるというのだ」
心外だなといった感じの表情のアンペラトリスである。
この後話し合いをした結果、無事にトレイズ遺跡に向かうという話がまとまったのだった。
当日は少数精鋭でトレイズ遺跡へと向かうステラたち。ステラもリューンも、すっかり馬を乗りこなせるようになっていた。
「一人前に馬に乗りこなせるようになったようだな」
「はい、みなさん結構真剣に教えてくれましたから」
「過保護かっていうくらい、それは丁寧でしたよ」
馬に乗る訓練を思い出しながら、二人揃って笑ってしまっていた。よっぽど親切丁寧だったのだろう。アンペラトリスも思わず笑ってしまうくらいだった。
コリーヌ帝国の城から移動すること数日間、いよいよトレイズ遺跡が近付いてきた。
ステラたちの目の前には、なにやら大きな建物が見え始めていた。
「うわぁ……、懐かしい、です……」
ステラの声が感極まっている。
そこに建っていたのは、まるで在りし日のエルミタージュ王城そのものだったのだ。
「ステラリアが解読してくれたおかげで、大体の姿が想像できたのでな。それに沿って復元をしてみたのだ。我が帝国の職人どもは優秀ぞ?」
「はい、ありがとうございます、皇帝陛下……」
涙ぐみながらも、しっかりと礼を言い切るステラである。
馬を降りて、城の中へと踏み入れていくステラ。その後ろをついて行くアンペラトリスとリューン。
まるで昔のように無邪気に城の中を見て回るステラ。その姿を見ながら、アンペラトリスはリューンに話し掛ける。
「これで、エルミタージュ王家の復興の準備は整った。あとはお前だけだな、リューンよ」
「それをここで言って下さいますか……」
困惑した表情でアンペラトリスに視線を送るリューンである。
「ステラリアにかかった魔法を解く最後の鍵だぞ? しっかりしてもらわねば困るというものだ」
「確かに、僕はステラさんのことは好きですけれど、国王なんて務まるのかどうかが心配なんです」
好意は否定しないリューンだが、どうやらそこから先の事が心配のようだった。
これを聞いてアンペラトリスは、大口を開けて笑っている。
「何を気にするというのだ。そういう時には頼れる存在が地下におろうて」
「それって、国王陛下と王妃殿下の事ですか?」
「そうとも。あの二人はステラリアの魔法とは別の魔法であそこに縛り付けられておる。復興したところでそうそう居なくなることはあるまい。ステラリアが生きている限りは、心残りであろうしな」
アンペラトリスに言われて、なんとなく納得のいったリューンである。
そして、懐かしい城の姿にはしゃぐステラを追いかけていったのだった。
 




