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不死の少女は王女様  作者: 未羊


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第133話 コメルスの商会

 それから数十日後のこと、コリーヌ帝国の城にとある親子が招かれていた。


「お父様、私たち、無事に帰れるのでしょうかね……」


「分からないですね。いきなり騎士がやってきて招かれましたが、ここまで無事だったのです。最後まで信じましょう」


 コメルスとトレルの親子だった。

 理由は分からないが、いきなり商会に騎士たちがやってきて、半ば拉致の形で連れてこられたのだ。それはもう恐怖で震えるしかないというものだった。

 謁見の間まで案内されたコメルスたちは、体の震えがまったく止まらないままだった。


「ふむ、よく来てくれたな」


 アンペラトリスが姿を見せる。

 頭を下げたままのコメルスとトレルだが、声だけで威圧感というものをひしひしと感じ取っていた。

 だが、その中でも不思議な違和感を覚えるコメルス。声はアンペラトリスのものしか聞こえないが、足音がもう一つあったのだ。


(兵士? いえ、それにしては音が静かすぎますね……)


 許可があるまで頭を上げられないので、音だけで推測するコメルス。その答えは意外とすぐに分かった。


「面を上げよ」


 アンペラトリスから許しが出たので、親子は頭を上げる。すると、そこには玉座に座るアンペラトリスと、隣に立つステラの姿があった。

 そう、もう一つの足音の正体はステラだったのだ。


「ステラさん?!」


 トレルが思わず叫んでしまう。

 仮面を外しているとはいえ、雰囲気ですぐに分かってしまったようだ。さすがは商人の娘、人の区別ははっきりつけられるようである。


「お久しぶりですね、コメルスさん、トレルさん」


 にこりと微笑んで挨拶をするステラである。

 ステラの思いがけない表情に、コメルスは驚きを隠せない。なにせ、帝国に売り飛ばすような真似をしたからだ。

 コメルスの驚愕の表情に気が付いたステラは、くすくすと笑いながら話し掛ける。


「大丈夫ですよ、恨みなんてありません。むしろ、皇帝陛下と出会えたことに感謝していますからね」


 ステラからの言葉に意外だという顔をするコメルス。ずいぶんと後悔をしていたようだった。


「叱って頂いても構いませんのですよ。私はあなたたちを売り飛ばすような真似をしたのですから」


 声を張り上げて言うコメルス。しかし、ステラの表情は穏やかなままで首を横に振っていた。


「いえ、結果的に私にとって良い方向に進みましたから、今はむしろ感謝の気持ちしかございません。ですが、今日はその話をしにお呼びしたわけではございません。ね、皇帝陛下」


 コメルスとの話を打ち切り、アンペラトリスへと話を振るステラ。

 突然ステラに話を振られても、アンペラトリスは慌てることなく笑顔を見せている。やはり一国の皇帝ともなれば余裕なのである。


「うむ。今回そなたを呼んだのは他でもない。我が帝国が作る魔道具の販売許可を与えるためだ」


「帝国の、販売許可……?」


 思わず固まってしまうコメルス。


「うむ、ステラリアをここに連れてくるきっかけを作ってくれた褒美と、なによりステラリアからの要望もあってのことだ。さっき本人も申していた通り、コメルスには感謝しているようだからな」


 あんぐりと大口を開けたまま、コメルスはステラの方へと視線を向けていた。

 その視線に気が付いたステラは、やっぱりにこりと笑顔を返していた。本当だよと言っているようだ。

 何度も同じ表情を見せられた事で、ようやくコメルスも現実を受け入れたようだ。ようやく仕事人らしい表情を見せるようになった。

 しばらく話をしていると、アンペラトリスが突然立ち上がる。


「では、その魔道具の工場に案内しよう。実物をしっかりと見てもらった方が判断はしやすいだろうからな」


「師匠も連れていかれますか?」


「当然だ。あやつが居ないと誰が魔道具の説明をできるという」


 ステラがベルオムの同行を確認すると、アンペラトリスが笑顔で笑っていた。

 その表情に思わず衝撃を受けてしまうコメルスである。なにせ、冷徹な皇帝としてコリーヌ帝国の皇帝は伝えられているからだ。コメルスが実際に遭遇した際も、表情がほとんど変化していなかった。

 そのアンペラトリス・コリーヌが楽しそうに笑っているのだ。これほどまでに衝撃的な光景があるというのだろうか。

 二人に加えてベルオムも同行した工場の見学では、さらなる衝撃を受けるコメルス。今まで希少とも言われた魔道具ですらも、その工場では作られていたからだ。


「ステラリアの解読と、ベルオムの研究結果があってこそなしえたものだ。本当に感謝しているぞ、コメルス」


「あ、ありがとうございます。ですが、これを私のところで取り扱っても、本当によろしいのでしょうか?」


 あまりの魔道具の数に、震え上がってしまうコメルスとトレルである。


「褒美だと告げたであろう? おとなしく受け取っておけ」


 遠慮するコメルスを押し切ってしまうアンペラトリスだった。


 コリーヌ帝国とのコネができたことで、思わぬものを取り扱うことになったコメルス。

 彼が運営する商会は、その後にエルミタージュ大陸を代表する商会となったのだが、それはまた別のお話である。

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