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不死の少女は王女様  作者: 未羊


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第130話 500年越しの和解

「というわけなのですよ」


 ベルオムからの話が終わると、ステラたちはなんともいえない表情と気持ちになる。

 かつてエルミタージュ王国が編み出した魔道具という技術が、遠く離れた国で分裂の危機を引き起こしていたなど、誰が想像したというのだろうか。

 エルミタージュ王国としては、生活を豊かにするために生み出した魔道具だ。そのような意図はまったくなかったのだから、寝耳に水といった話なのである。

 とはいえ、国の分裂危機だからといって、大国をひとつ滅ぼすという行為は到底容認できたものではない。国王や王妃、ステラから相変わらずベルオムに向けて厳しい目が向けられていた。


「そう睨まないでくれ。私も当時は思い悩んだものです。……結局、国の事を優先した決断をしましたが」


 段々と声が小さくなるベルオムである。


「私とて、反省をしていないわけではないですよ。でなければ、どうしてステラを育てたというのですか」


 そして、振り絞るようにステラの面倒を見ていたことを訴えるベルオム。これには、国王たちも唸らざるを得なかった。

 そう、ステラの誕生日パーティーに出ていたベルオムは、ステラの姿をよく知っていたのだ。

 あの大火事の中で生き延びた事を疑問に思ったようだが、当時のステラの様子に同情を禁じえず、手元に置いて生き延びるためのあれこれを教えていったのだという。


「おそらくは、一人にしてしまった王女への同情と罪滅ぼしでしょうね。私としてはエルミタージュ王国の持つ魔道具の技術にとても興味を持っていたので、できればその技術を身に付けたいと思っていましたからね。ですが、結局は同胞の圧力に耐えきれず、最悪の選択肢を選んでしまったと後悔しています」


 ベルオムはそういいながら唇を強く噛みしめている。どうやら、この言葉は本心のようである。

 ただ、「おそらく」と言っているあたり、当時の正確な心境は自分でもよく覚えていないようだ。ただ、当時を振り返るとそういう気持であったのではないかと考えられるようだ。


「ですが、師匠」


「なんですか、ステラ」


「どうして、一度私と別れることになったのですかね」


「ああ、あれですか……」


 ステラがベルオムと過ごしていた時期はそこそこ長かった。だが、その途中で突然ベルオムから独り立ちを通告されたのだ。


「あれはですね、エルフェ国からの使いに見つかってしまったのですよ。死んだことにしてくれと伝えましたのに、私の事を諦めきれないのか、国に戻るようにしつこく迫られましてね」


 どうやら、あまりにしつこくて断り切れなかったようだ。

 国に戻るにあたり、エルミタージュ王家の最後の王女であるステラを連れていくわけにもいかず、やむを得ず別れるという判断をしたということなのだそうだ。

 事情が分かってちょっと納得するステラだった。


「結局、国のことは妹に任せて、私は魔道具を追い求めるためにこちらに戻ってきたのです。ボワ王国は森林地帯ということで、私にとってはとても落ち着く場所でしたから、それで居つくことにしたのですよ」


 ベルオムがボワ王国で定住するようになった理由は、自然が豊かだったことによるものらしい。さすがは自然を愛するエルフといったところだろう。

 そして、魔法に長けている点を売り込んで王宮魔術師となり、好き勝手に過ごしていたのだそうだ。


「はあ、ステラがここに戻ってきた時は、最後は悪役らしく散ろうとしましたが……。いけませんね、情を持ってしまうと冷酷に徹しきれませんでしたね」


 ぶんぶんと首を横に振るベルオムだった。


「ということは、あの決闘の時も?」


「ええ、いかに本気に見せつつ、どう倒されるか考えていました。だってそうでしょう。どういう理由があれ、私はステラにとって両親、そして祖国の敵なんですから。あなたの手で死ねるのなら、それは本望というものですよ」


「師匠……」


 遠い目をするベルオムに、ステラは言葉を続けられなかった。


『だが、私たちを殺したという事実は消えぬぞ。いくら反省してステラリアに恩を売ろうとしてもな』


「ええ、重々承知しています」


 国王に頭を下げるベルオムである。


「私としては、魔道具の研究に打ち込めれば、もうそれで満足なのです。あれから500年も経った今、あの国とはもう縁もないでしょうからね」


 ベルオムは改めて国王に対して跪いている。


「ユジュプ・エルフェの名は完全に捨て、ベルオムとして残りの人生を魔道具の発展に尽力致しましょう。罪滅ぼしとして、エルミタージュ国王並びに王妃の前でしかと誓います」


 力強く宣誓するベルオムの姿に、国王も王妃も困惑するしかなかった。


「長年にわたって蓄積してきた恨みだ。突然こう言われても戸惑うのも仕方あるまい。エルミタージュの国王並びに王妃よ。この者の身柄、このアンペラトリス・コリーヌが責任を持って預かろう。何かしでかせば、遠慮なくたたっ斬る、それでよいか?」


『分かった。その者の身柄、そなたに任せる。どうせ私たちはここを動けぬのだからな』


 やむなく納得する国王たち。

 こうして、エルミタージュ王国とベルオムとの間にあった因縁は、ひとまずの決着を見たのだった。

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