第118話 滅亡の謎を求めて
ステラが何かに気が付いたようで、グランともども黙り込んでしまう。
だが、脇で話を聞いていたアンペラトリスもさすがに察してしまったようだった。
「すると何かな。ベルオムはエルミタージュ王国の滅亡に何かしら一枚かんでいる、そういう話でいいのかな」
確認するようにアンペラトリスがいうと、グランはこくりと頷いていた。
その態度を見て、アンペラトリスはやっぱりかというような感じで、腕を組んで頷いている。
「どこか胡散くさいと思っていたのだ。この私がひと目見てそんな風に感じるなど、そうそうない話なのだからな」
「そうなのですか?」
アンペラトリスの言い分に、つい予想外だという表情を向けるステラ。目を閉じていたアンペラトリスは、ステラに近い方の目を開けて視線を向ける。
「当たり前だ。ひと目で他人の素性をすべて見抜ける人物などまずおらぬ。しばらく付き合った上でその性質を感じ取るものなのだ」
再び両目を閉じて、右手を小さく上げながら説明をするアンペラトリス。
「私は皇帝という立場上、人の心の機微の察知にはちょっと自信があってね。それでもベルオムという男の心の内を見抜くには少々時間がかかったな」
「師匠ってば部屋からあまり出てきませんからね」
「そういうことだ。おかげでリューンとは距離を取らせる事は簡単だったがな」
どうやら、アンペラトリスはベルオムを孤立させる方向でいたようである。魔道具の研究に対して厚い待遇をしていたのも、距離を取らせるための作戦だったのである。
だが、ここでステラたちの中には新たな疑問が浮かんでくるというもの。
それは、ベルオムがどこの国の関係者だったかということである。
エルフが関わっている国ともなれば、そう多くはないはずである。
すると、アンペラトリスがにやりと笑みを浮かべていた。
「こういう時こそ、私の出番というものだ。あのベルオムとかいう男はボワ王国の関係者だったな。まずはそこからあたってみるとしよう。さすがにエルミタージュ大陸の外ともなれば、人を動かすのもひと苦労だ」
アンペラトリスは腕を組んだ状態のままそのように話していた。
『ステラリアの両親、エクラとブリヤーヌの二人にベルオムを直接見てもらうのがいいだろうが、何をやらかすか分からん。最終手段じゃろうのう』
グランの方もお手上げという感じだった。
その困った様子に、ステラが小さく手を挙げる。
「それでしたら、師匠の姿を紙に描いて、それを見せてみてはどうでしょうか。私が居ないと両親は姿を見せられませんから、自然と私の役目とはなりますけれど」
「それはいい案だな。ただ、ベルオムに気付かれてはならぬ。奴もなにかと頭の回る人物だからな」
「確かに、それは思いますね。そもそも接触が少ない今なら、そう悟られる事はないとは思いますが?」
アンペラトリスの懸念にステラは少々楽観的な様子を見せている。
ところが、アンペラトリスの警戒心は最大級に強まっている。
「分からんぞ。本当に秘密裏にしなければ、どこから探りを入れてくるか分からん。接触のある人物には下手に話さぬ事だ」
正直言って、警戒し過ぎだと思うステラである。
だが、グランはアンペラトリスの意見に賛同しているようだった。
『うむ。わしらもそうだが、魔道具を扱うような人物は頭の回転のいいやつばかりだ。ちょっとしたことで多くを悟る可能性がある。警戒しておいて問題はないだろう』
少々自慢が入っているようだが、グランの言い分にはステラは納得がいく。
実際に、ベルオムはいろいろと策略を立てて実行してきているし、ステラ自身も見事にはめられた事があるのだから。
いろいろと話した結果、ベルオムの正体についてステラが自分の両親に確認を取ることとなった。
そのためには、正確なベルオムの容姿を伝える必要がある。現状ではそこが一番のネックのようである。
「こっそり魔法を使っても、魔法の得意なエルフ相手では気付かれる。それこそ一番親しんでいたステラリアの記憶力が一番の頼りというわけだな」
「むぅ、私には絵心がないのですが……」
アンペラトリスがステラの肩を叩きながら言うものの、当のステラはこのざまである。まったく、いざという時に役に立たないものである。
「それだったらメスティを使えばいい。ある程度の事はひと通りこなせるメイドだからな」
「そうですか。それならメスティに頼んでみましょうか」
メスティにまさかそんな特技があるとは知らなかったため、正直驚きは隠せない。
アンペラトリスの提案に全力で乗っかることにしたステラなのである。
こうして、ベルオムの正体を探る動きが水面下で始まった。
ステラたちはベルオムに悟られる事なく、その正体を暴くことができるのだろうか。
意外なところから浮かび上がったベルオムへの疑念。はたしてステラたちはその疑念の答えとたどり着くことはできるのか。
500年も前に突如起きたエルミタージュ王国の滅亡。その謎に迫る時がいよいよ来たようである。




