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不死の少女は王女様  作者: 未羊


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第106話 リューン対アンペラトリス

 目の前でアンペラトリスに再び敗北するステラの姿を見たリューン。

 リューンが足元にも及ばないステラが完敗する姿を見て、帝国の恐ろしさというものを再び実感する。

 アンペラトリスの強さの前に、リューンはつい体が震えてしまう。


(怖い……)


 そう、すっかり恐怖がその心を支配してしまう。

 アンペラトリスの目にそんなリューンの姿が入ってしまう。

 ステラに優しく声を掛けたアンペラトリスは、ゆっくりとリューンへと近付いていく。

 リューンの目の前が突然暗くなる。アンペラトリスが目の前に立ったのだ。


「リューンよ」


 アンペラトリスに声を掛けられて、おそるおそる顔を上げるリューン。

 見上げた先には、思いの外優しい表情をしたアンペラトリスが立っていた。


「ステラリアがあの通りだ。ステラリアの実力は大したものだが、それを上回る存在は必ず出てくる。もしくは捌ききれない状況も出てくるやもしれん」


 突然語り出すアンペラトリス。リューンはそれを黙って聞いている。


「その時、お前はステラリアを守れるだけの剣と盾になれるのか?」


 アンペラトリスに問われたリューンは、思わず体を大きく震わせた。

 ステラを守れるようになる。

 そう誓ったのは紛れもないリューンである。

 しかも、両親とグランという、ともにエルミタージュ王国の関係者の前でである。

 そのために、アンペラトリスの言葉がかなり重く響き渡る。

 先程まで恐怖に押し潰されそうになっていたリューンだが、その体の震えがぴたりと止まっていた。


「……るんだ」


 ぼつりと呟くリューン。だが、その声はよく聞き取れない。


「うん、どうした。もっとはっきり言ったらどうなのだ?」


 アンペラトリスが強い口調で言う。


「なれるなれないじゃない。僕はステラさんを守るんだ!」


「ほう、言えたではないか」


 そういうと、アンペラトリスは部下に合図をして少々ばかりの場所を空けさせる。

 そして、リューンに持っている木剣を突きつけていた。


「その決意、本物かどうか、この私が見極めてやろう」


「……はい、お願いします!」


 アンペラトリスが移動して、木剣でリューンに指示を出す。どうやらそこに立てと言っているようだ。

 リューンは少し戸惑っていたようだが、さっき宣言をしてしまった以上、今さら後には引けなかった。木剣を持ってアンペラトリスと向かい合うように立つ。


「どこからでもかかってくるとよいぞ」


 リューンを挑発するアンペラトリス。

 だが、リューンはまったく動けずにいた。

 それというのも、目の前にいるアンペラトリスにはこれといった隙がないからだ。しかも、そもそも長身の体が、余計の事大きく見える。リューンとの身長差がそもそもあるとはいえ、アンペラトリスの放つオーラが、ますます彼女を大きく見せているのだ。


(本当に怖い……。大きいし、まともに見ていられない)


 リューンは木剣を握りながらも、全身を小刻みに震わせていた。


(だけど、僕は誓ったんだ……)


 リューンの木剣を握る手に力が入る。


「エルミタージュ王国を必ず復活させると!」


 大声を張り上げて、アンペラトリスに攻撃を仕掛けるリューン。

 だが、子どもの大振りの剣など、皇帝を務める大人の女性には通用しなかった。


「意志の強さはよいが……」


 体を横にずらしてリューンの剣を躱すと、木剣の柄でリューンの背中を小突くアンペラトリス。


「勢いが出過ぎていて、剣筋が実に単調だ。これでは、我が軍の下級兵士たちにも当てらぬぞ」


「くっ……、もう一度!」


 どうにか倒れずにすんだリューンは、くるりと振り返って構え直し、再びアンペラトリスへと攻撃を仕掛ける。

 だが、振り下ろしも斜め切りも薙ぎ払いも、そして突きすらもあっさりすべて躱される始末だった。しかも、まったく剣を使っていない。完全に遊ばれている状態だった。


「すげえ、さすが皇帝陛下だ」


「しかし、あの小僧。よく諦めずに続けてられるな。俺たちならもう諦めてるぞ」


 何度も何度も攻撃を仕掛けるリューンの姿に、兵士たちは感心し始めていた。

 しかし、その光景もさすがに長くは続かなかった。


「さて、いささか飽きたな」


 アンペラトリスが首を鳴らしたのである。


「いいか、リューン。剣というのはこのように扱うのだ」


 力を込めたアンペラトリスが、リューンへと剣を振り下ろす。

 次の瞬間、リューンの持っていた木剣が粉々に砕け散っていた。


「ふむ、あの状態から受け止めようとしたか」


 そもそも寸止めをするつもりだったアンペラトリスは、少々驚いていた。木剣を砕く予定などなかったのだ。


「いいか、リューン。そなたに足りぬのは経験だ。訓練で己を磨くといい」


 そういって、アンペラトリスは木剣を兵士に渡している。


「私への挑戦だったらいつでも受けよう。だが、その前にはステラリアの実力は上回ってもらわねばならぬがな」


 リューンの肩に手を置くアンペラトリス。


「そなたはまだ若い。いくらでも伸ばそうと思えば伸ばせるのだ。だが、焦る必要はない。焦りこそが、すべてを鈍らせてしまうのだからな」


 諭すような柔らかな表情を見せるアンペラトリスの言葉に、リューンは無言でこくりと頷いたのだった。

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