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不死の少女は王女様  作者: 未羊


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第104話 訓練場に出向いて

 なぜ急にアンペラトリスがそんな提案をしてきたのか理解ができないステラ。

 まだまだ書庫の本の解読は進んでいないのだから余計にといったところである。

 とはいえ、久しぶりに体を思いっきり動かしたいのは確かなので、ステラはアンペラトリスの提案に乗っかることにした。

 翌日は、朝食を終えると着慣れた冒険者用の服に着替えるステラ。ただし、邪魔になるだろうからとマントは部屋に置いてきた。


「このマント、なんだか紋章が入っていますね」


 ついついじっくり見てしまうメスティである。


「そのマントは、私の両親の形見のひとつなんですよ。ただ、理由があって裏返して着けていましたけれど」


「それは……失礼致しました。ですが、理由とは一体?」


 両親の形見という単語を聞いて謝罪するメスティだが、裏返しの理由が気になっているようである。

 すると、ステラは別に隠す事でもないと言いながら、その理由を語り出した。


「単純に、エルミタージュ王家の生き残りだと知られたくなかったからです。あの頃の私はいろいろありましたからね」


 表情を曇らせるステラの姿に、メスティはそれ以上問い掛けるような事はしなかった。とても推し量れない深刻な理由があるのだと察したのだ。

 メスティはアンペラトリスから侍女をするようにと命令された時に、それとなくステラに関して聞かされていた。だからこそ、深く追求することはやめたのである。


「では、私は訓練場に行ってまいりますね」


「はい、お気をつけていってらっしゃいませ」


 気合いを入れ直したステラを、メスティは精一杯明るく送り出したのだった。


 冒険者の姿となったステラは、アンペラトリスとの約束通り訓練場に姿を見せる。

 そこでは相変わらず帝国の騎士や兵士たちが訓練に打ち込みながら汗を流している。

 もちろん、ステラと同行していたリューンもその中に混ざっていた。

 一人だけ年齢が若くて小さいために、背の高い兵士たちの中では埋もれるもののかなり目立っている。


「ようやく来たか、ステラリア」


 騎士たちの訓練を眺めているアンペラトリスが、訓練場に姿を見せたステラに気が付いたようである。


「お待たせ致しました。少々準備に手間取ってしまいまして、申し訳ありません」


 頭を下げて謝罪するステラである。


「いやいや構わぬよ。本来ならこの時間は書庫の解読をしていてもらったのだからな。急に予定を変えさせたのだ、この程度の遅れなど問題ないぞ」


 アンペラトリスは別に気にしていないという感じだった。


「とはいえ、遅れてしまったがゆえに今は訓練には混ざれぬな。しばし眺めているとよいぞ」


「承知致しました」


 騎士たちが一生懸命打ち込んでいるために、ひと区切りつくまでは見学となってしまったようである。こればかりは仕方がないといったところだろう。

 しかし、ステラには気になる事があった。

 どうして突然、アンペラトリスはステラを訓練に専念させようとしたのかということだった。

 エルミタージュ王国の遺産である書物の解読も、正直急いであるはずである。だというのに、それを急にほっぽり出したのだから、ステラは気になってしまうというものである。

 そのために、訓練を眺めていながらも、時折アンペラトリスへと視線を向けてしまっていた。


「ステラリアよ。私を見ている場合ではなかろう?」


 視線に気が付いて、ステラに話し掛けるアンペラトリス。


「ど、どういうことでしょうか」


 明らかな動揺を見せるステラである。


「なに、簡単な事だ」


 それに対して、実に堂々としているアンペラトリス。ステラから視線を外して、訓練場の奥の方を見ている。


「エルミタージュ国王夫妻、それとグラン殿の話を聞く限り、ステラリアに掛けられた秘術を解くカギは、彼にあるのだろう?」


 顎でくいっと指し示す先には、立てられた柱に対して一生懸命斬りかかるリューンの姿があった。

 思わずドキッとしてしまうステラである。


「彼が持つ剣を以前見せてもらったが、ステラリアと同じエルミタージュ王家の紋章が刻まれていたな。となれば、彼もまたエルミタージュの関係者。そうだろう?」


「まったく、どうしてあなたはそう鋭いのでしょうかね。私の正体も確信を持ってましたし」


「ふふふ、そうでもないと人の上に立つ事などできやせぬよ。他人を見抜けぬようであれば、体のいい操り人形にされてしまうからな」


 眉間にしわを寄せて苦い表情で受け答えをするステラに、アンペラトリスははっきりと言い切っている。


「私がこうやって皇帝でいられるのも、人や時勢を見抜く力をしかと持ち合わせているからだ。現に、いくつもの企みを潰してきたしな」


 にやりと笑うアンペラトリス。上に立つ者としてのカリスマ性と恐ろしさを兼ね備えた、実に引き込まれる笑顔である。


「話を戻そうか」


 アンペラトリスは一度呼吸を入れる。


「ステラリアをここに呼んだのは、彼を奮起させるためだな。常に見せることで、更なる奮起を期待しているのだよ」


 つまりは、リューンに対する餌ということなのだろう。その表現にはステラは複雑な表情をするが、彼には強くなってもらいたいという気持ちはあるので黙っている。


「私の事はどう思ってもらっても構わぬ。だが、約束を果たすためならば、いかなる手段を取っても実現させてやりたいのだよ。それが私の矜持というものだ」


 アンペラトリスはそう言って、柔らかな笑顔を浮かべていた。

 ステラはどうにも割り切れない感情を抱いてしまうが、理解できなくはない。

 そのために、しばらくの間、お互いに黙り込んで騎士たちの訓練を眺めているのだった。

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