表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

出発

陽光が少年の横顔を優しく照らし出していた。


その光を受け、薄っすらとまぶたを開く。

窓の外のお日様は既に空に昇り、楽しげな鳥のさざめきが聞こえる。

しばし判然としない頭で横になりながらそれを眺めていた少年は、突如として聞こえた声にぎょっとして飛び起きた。


「おはよ!気持ちの良い朝ね!」


掛け声とともにオレンジ色の髪の少女が勢いよく音を立ててドアを開き、こちらに近づいてくる。慌ててベッドから身を乗り出そうとした少年はバランスを崩し、べしゃりと顔から床に突っ伏した。


「ーっ!クソ、最悪な朝だ…って何だこれは!!」


しばしおでこの痛みに悶絶していたが、すぐに自分の身に起きている異常に気づく。

後ろ手と両足がロープで縛られている。それに気づいた少年は怒りも顕わに、少女に対して殺意のこもった視線を向けた。


「悪いけど、縛らせてもらったわ。こうでもしないとあなた暴れるでしょうし。」


しゃがんでその様子を眺めていた少女はあっけらかんと言い、少年目が合うとにっこりと笑った。


「お前……何が目的だ。オレの懸賞金か?」


警戒を強める少年に対し、少女は少し考え込んでから答えた。


「確かにそれも魅力的だけど、そうじゃなくて。あなた、これからカイネの港に行くんでしょ?だったら私も連れてってよ」


「はぁ?!」


突拍子もない提案に少年は驚きの声を上げる。


「私、今まで近くの村にしか行ったことないの。だから大きな港町ってどんなものか見てみたいのよね。でもこの森の外は魔物や野盗が出るし、そこまで行くのにか弱い乙女一人じゃ心細いじゃない?」


「断る。第一なんでオレが。」


にべもない返事。しかし少女は食い下がって続ける。


「…あなた、急いでるんじゃないの?師匠はまだまだ外出なんて許してくれそうにないわよ。そうね、少なくともあと1,2週間はかかるでしょうね……師匠、患者さんに対しては優しいけど、言いつけを守らない人に対しては厳しいからなあ」


あの女性の有無を言わさぬ謎の迫力と余裕。どこからそれが来てるのは謎だが、食事に薬を盛ってでも引き止めてくる奴らだ。手段を選ばないそのやり方は薬師としてどうなのかとは思うが……確かにこのまま簡単に開放してくれそうもない。


「……」


疑いの目を感じ取った少女は、少年の近くに寄り添ってヒソヒソと囁く。


「今日は師匠が近くの街に薬を売りに行っていていないから、チャンスなの。ね?」


つまり、自分も鬼の居ぬ間に物見遊山がしたいというわけか。

煩わしいことは御免だといった少年の表情と、心の内は伝わらなかったようで。


「これ。携帯食料やらあなたの外套やらがはいってるわ。」


少女は少年の前から一旦席を外すと、ずるずると大きなカバンと麻袋と剣を引きずってきて、彼に見せた。


それを前にして少年は思考する。自分が気を失っている最中で衛兵に突き出すタイミングはいくらでもあった。それをしなかったということは、少なくとも今すぐ衛兵に突き出す気はないのであろう。


彼女のお願いに付き合うのは正直すごく面倒だが、3日間看病してもらった恩もある。(何故知っていたかはわからないが)港へ向かうのも本当だ。


ここで時間を浪費するのも、要求をはねのけて騒がれるのも得策じゃない。


「…………はぁ……わかった」


長い溜息の後、少年は諦めて頷いた。


「そうこなくっちゃ」


少女は嬉しそうにはしゃぎながら、ナイフで縄を解く。


自由になった少年は立ち上がり、縛られていた手足を確かめながら少女に釘を刺した。


「だが、オレは急いでる。……くれぐれもオレの足手まといになるなよ」


その言い分にかちんと来たのか、少女はジト目で少年を見上げると、腰に手を当て、挑発的な口調で問いかけた。


「ふーん?命の恩人に対してそういうこと言っちゃうんだ。いいのかな〜。薬代に、宿代、治療代…占めて1万5000ディアってとこかしら?見たとこあなたお金あんまり持ってなさそうだけど。今すぐ請求してもいいのよ。」

「ああもう、わかったよ……何かあったら守ればいいんだろ。守れば。」


少女の圧を察した少年がはぁ、と小さくため息を付いた。対する少女はわかればいいのよというふうにニコニコ笑顔である。


「あたしはリーゼロッテ。長いからリゼでいいわ。よろしくね、剣士さん」


「……エル」


少年はぶっきらぼうにそれだけ伝えると外套を身に着け、目深にフードを被った。

そしてようやく戻ってきた愛剣を腰に携える。


「じゃ、早速出発しましょ!」


リゼがどでかいカバンを肩にかけ、振り向きながら言った。


目指すは港町カイネ。

二人は連れ立って歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ