表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界劇団 〜魔王討伐後の平和な世界をヒーローショーでドサ回りします~  作者: 高城 剣


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/16

第15話 お貴族様にお見せしよう

だだっ広い中庭にショー用ステージがあった。そしてその正面に組まれた、ひな壇式の座席。

どこぞの遊園地が、こんな感じだったな。

あぁ、貴族様が芝生に座ってショーを見るわけないわな。見上げるんじゃなく見下ろしたいよな。子供を攫う時がめんどくさそうと思いつつ、小道具を運び込みセッティング。

貴族様の相手するのと、この肉体労働をアロンと二人でやるの、どっちが楽かと問われれば、肉体労働と答えるだろう。

営業スマイル全開のザムド、表情不明のレイガ、そしてルリハは女性陣には全く人気がなく、スケベ面した若い男たちに囲まれており、それが許されるのか?というくらいそっけなくあしらっている。

まぁ、色々あるよな。

メルは座長に秘書のごとく付き従ってる。一応はシスターみたいな存在だから、失礼は無く振る舞えるんだろう。

デニガンは見た目がアレなせいか、御婦人方に囲まれ酒を飲んでいる。ひたすら飲むだけで一切御婦人の相手はしていないようだが、それでも御婦人方は構わないらしい。ツンデレのツンしかないのに。

ネーベラは相変わらず、忙しく行き交う使用人たちに声をかけられまくっている。思わず話し込んでしまった使用人は、近くの貴族様に怒鳴られ、渋々退散を繰り返している。もしかして一番アイドルっぽいのかもしれない。はがし役をやりたいくらいだ。

カーラは・・・マクセルと飯食いまくってるな。酒を飲んでいない様子なのは立派だが、満腹で動けなくなられても困るので、ちょっと止めてこよう。


「おいカーラ、あんまり腹を膨らますと、本番でキツイぞ」

「ん?大丈夫、加減してつまんでるだけだから」

と言いつつも、何かオードブルのようなものを口に放り込んでいる。

「なら、いいが」

何やら酒瓶をラッパ飲みしながら、マクセルがぐいと顔を出してきた。

「本番して腹膨らますのはユウの役目だもんな」

「あはは、死にたいのかマクセル?」

「おいおい、下ネタに付き合い悪い男は駄目だぞ」

「うるせえ、酔っぱらい。本番近いんだから、コレ以上飲むなよ」

「酒が音楽の感覚を鋭くするんだよ」

「下手打つと、座長に絞め殺されるぞ、今回は」

「ん?・・・そうか、貴族様の前か」

こいつは今まで、どこの何を飲み食いしていたつもりなんだろう。

「カーラ、メンバー集めてくれ。軽くリハやるから」

「はーい」

駆け出していくカーラ。うん、動きは鈍ってないようだ。

「マクセル。お前も来い。不安だ」

「おいおい、ちゃんと演奏する曲も順番も頭に入ってるぞ」

「酔っぱらいの大丈夫を信用できるか!」

「ハハハ、そりゃあ、真理だな」

どうしよう?殴りたい。


舞台裏に出演者一同がぞろぞろと集まってきた。

「あー、うっとぉしかったから助かったわ」

なんて愚痴るルリハをザムドが苦笑しつつ見てる。

「アロン、体の調子はどうだ?今回も出番減らすか?」

「そういうこと聞くくらいなら、肉体労働させんなよ。ガハッ」

カーラが速攻でアロンを殴った。出番ゼロには、してほしくないんだが。

「生意気言ってんじゃないの!役に立たなきゃお払い箱なんだよ!」

別に役立たずじゃないんだけどな。反抗的な口きくだけで。

「なあ、ユウ。立ち回りは昼間と変わらないんだよな?」

雰囲気おかしくなりそうなところでザムドが割って入ってくれた。色男は違うね。

「あぁ、変更はない。司会とお子様誘拐の流れに注意を払うだけさ」

「え!わたしの仕事なのに聞いてない!」

メルが素っ頓狂な声で叫ぶ。

「うるせえ!貴族様相手だから、町中のガキンチョどもみたいな扱いしなきゃいいだけだ。さっきまで座長にくっついて上手いことやってただろうが」

「そうだけど・・・」

「もう、メルはユウを困らせないで」

カーラが俺の腕にしがみつきながら、メルを挑発する。やめてほしい。

俺はカーラの頭を小突いて

「はーい、リハやるぞ」

とにかく、進めよう、仕事を。


全員でぞろぞろと人気のない裏庭へと移動。客にリハは見せるもんじゃないし。

何か慌てて逃げ去るカップルが2〜3組いたが、気にしないことする。お互いの為にもな。

アロンの出番も元に戻し、リハはつつがなく終了。

「カーラ、会場の客席のひな壇、上までジャンプで行けるか?」

「ん?3段目だよね。余裕」

「ぶっつけ本番で行けるか?」

「もちろん。アロンでも余裕だよ」

「よし・・・おい、メル!座長を呼んできてくれるか?重要な確認事項がある」

「自分で行きなさいよ!」

「これから立ち回りが控えてるんだ。余計な体力使いたくない」

「なにそれ!」

「結局マクセルはワグン弾きながら、どっか行っちまうし、頼むよ。また例のマッサージ、やってやっから」

「メル?ユウのマッサージって何?あんた、何してもらってんの?」

などと、ルリハに絡まれ始めたので

「あー、もう!呼んでくるから待ってて」

と走り去った。

「ユウ、あんた、カーラだけじゃなくメルにも?」

「ルリハ、ザムドが許すなら、お前にもマッサージしてやる」

「なにそれ。あたいまで狙ってんの?」

「狙わねえよ。ザムドに無い事を吹き込まれたくなければ、こっちを弄るな」

「せめて、ある事を吹き込みなさいよ!」

「うるせえなあ」

「・・・ザムドぉ、ユウがあたいをいじめるぅ」

一連の流れを見ていたザムドに泣きついても・・・ほら、溜息ついてやがる。

舞台上で散々カップルっぽい芝居をしてきたおかげか、二人の距離は縮まったように見えるけど。


「ユウ、おれを呼びつけるなんざ、偉くなったもんだな」

「用がなきゃ呼ばねえっての・・・一つ、あのひな壇、飛び乗ったり、走り回っても平気なのか?もう一つ、攫うべきガキはどこに座るのか?だ」

「てめえはまったく・・・貴族様が座るひな壇だ。ひ弱に作って、何かあったら、作ったやつの一族郎党極刑だ。そんで舞台に上げるべきお子様は最前列中央に並んでもらう。わかったか!」

「了解です。ありがとうございました。お戻りいただいて結構です。ついでにマクセルのバカを捕まえて、スタンバイさせてください」

俺はびしっと敬礼した。

「・・・失敗するなよ」

「あはは、バレないように失敗するさ」

「おい、全員で西に行きたくなきゃ、頑張れや」

と、座長は、ものすごく凄んで足早に去っていった。


「西?」

何かあるのか?

「ここは東大陸。海を挟んで西大陸があって、そこは流刑地」

「ザムド、わかりやすい解説感謝。・・・って、失敗したら流刑なのかよ!」

メルの説明不足は永遠に解消されそうにないな。

するとルリハが俺に冷たい視線を向けつつ

「ここで失敗したら、悪評が流れて仕事の依頼がなくなって全員食い詰めて犯罪に走って流刑になるぞ!ってことでしょ?」

「中身端折りすぎだし、全員犯罪者になる流れがおかしいだろ!」

「ケルシュマン山賊団でもやりたいんじゃないの?」

「やりたくねぇ」

異世界に転移して結果山賊とか嫌過ぎる。

「でも、ユウ、あんたあれだけ動けるんだから、戦闘向きなんじゃないの、ホントは」

「俺は戦ってるように見せるのが得意なだけだ。芝居なだけだ」

なので、ゴブリン程度でも相手にしたくないし、したら命を落とす自信がある。

「ふぅん、判る気もする」

ルリハ様にわかっていただいて光栄だ。俺は平和が一番好きなスーツアクターだ。


「さて、全員本番準備だ。さっさと着替えろ!」


裏庭からステージ前に戻った。

ひな壇下のステージ、といっても芝生のまま、四隅に杭が打ってあって、その範囲内でやれっていう、田舎のスーパーマーケットの駐車場でやるショーみたいな・・・こっちじゃ誰にも共感得られないから言わないけど。

そのステージの両脇にちょっと大きめテントがある。要は男女更衣室兼控室。

時計がないから、スタートのタイミングは、現場を監督してるっぽいお貴族様の執事っぽい人が決めるっぽい。

「ユウ、背中、頼む」

レイガの衣装の着付けを手伝う。

日を追うごとにデニガンかアロンが悪乗りしてるのか、魔神の衣装が派手になっていってる。

今日の午後には無かった、マントの下の巨大な羽が邪魔くさい。そりゃ、レイガも一人で脱ぎ着できないわな。

ふむ、次は眼帯でも作らせるか。もちろん前が見えるやつ。

魔王に挑んで返り討ちにあって片目を失い、忠誠を誓うことになった!的な厨二設定で。

さて着替えるか・・・ん?

「おい!俺の衣装にヒカリムシの羽を貼り付けたのはカーラで間違いないな!」

「なんで確信してんだよ。確かに姉ちゃんの仕業だけど」

「わかった。あとで仕置く」

「なんだよ、リーダーっぽくていいじゃねえか」

「ザムドより悪目立ちしてんだよ、これだと。光る水玉野郎じゃねえか!」

「あははは、光る水玉野郎」

よし、アロン、ショーが終わったらお前も仕置く。

なぜ、午後のショーではなかったものがいつの間にか追加されるのか?そういうブームか?

「あれ?ぼくの鎧も?」

と、ザムドが鎧を持ち上げると、完全メタリック。

あぁ、バランス取れたわ。俺の衣装のセンスはともかく。

「そっちは、おいらの作品。どう凄い?」

「あ、あぁ。インパクトはある、な」

こういうメタリックなヒーローのスーツも、ショーで着たよなぁ。

「アロン、ルリハの衣装も何かしたか?」

「うん、姉ちゃんが何か縫い付けてたぜ」

まぁいいや、もう。


男全員着替え終わって、一息ついていると、メルがテントに飛び込んできた。

司会だし、特に凝った衣装でもないので、メルだけは開演前にちょろちょろ出来る。あまりしないに越したことはないが。

「ちょ、ちょっと!」

「やだ、メルってば覗き?」

「ユウ、うるさい。ルリハの衣装の装飾が増えて、動きづらいって文句言ってるの!装飾つけたカーラと険悪な状態なの!」

俺に断りもなくやった結果がコレだ。

「俺はもう着替えちまったから、そっちのテントに行けない。ルリハに動きに邪魔になりそうな装飾は取っていいと伝えろ。カーラには俺が怒っていると伝えておけ」

「わ、わかった」

メルが走り去った。

こんな様子、ひな壇から見ている貴族様の心象を悪くしないだろうか?それより座長の心象は確実に悪化しただろう。

「おい、ユウ!」

あ、ほら、座長が来ちゃったよ。

「俺は知らぬ存ぜぬ、やらかしはアロンとカーラ」

アロンが信じられないものを見る目で俺を見たが、事実、やったのはグラスウォーカー姉弟だし。あと確実にデニガンも一枚噛んでるはずだけど、証拠がないから言わない。

「メルがバタバタ走り回ってみっともねえ!それがアロン、おまえの仕業か!」

ここで怒鳴るのもみっともねえが、俺は言わない。大人だからな。めんどくせえし。

座長に反抗的なのは俺だけでいいんだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ