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異世界劇団 〜魔王討伐後の平和な世界をヒーローショーでドサ回りします~  作者: 高城 剣


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第13話 英雄演技

俺はザムドに今回の台本の流れをざっと説明した。

「なるほど。基本的な流れは一緒でピンチシーンを増やして、アクションも増やすってことか」

理解が早くて助かる。

俺が悪側、ザムドが正義側の流れを把握していれば、殺陣を付けるのが格段に楽になる。

「レイガは前回と同じだ。最後に勇者と戦って敗れ去る。ルリハは勇者に助けられる前の攫われるシーンを追加。そこで少しだけアクションがある」

レイガは黙って頷いた。

ルリハは

「え?出番増えるの?うぅぅ」

一応、役者なんだから出番が増えるのを嫌がらないでほしい。

「前回よりも勇者との共演シーンも増えたんだ。ガタガタ言うな」

「ならいい」

面倒くせぇ。

「それじゃあ、ゆっくり流しながら行くから、覚えてくれよ」

で、始めようとして気づいた。カーラ、アロン、メルが静かすぎる。

カーラとメルは睨み合ってるし、アロンは死んだような顔をして動かない。

面倒くせぇと思うことさえ面倒くせぇ事態だ。

「おい、メル!!」

と、かなり強めに怒鳴りつけた。

「え?な、なに?」

「仕事の時間だ。わかるか?カーラ!!アロン!!お前たちもだ!!」

こういうのって座長の仕事じゃないのか?と心の端のよぎったが、仕方がない。

「罪な男よね」

とかルリハが呟くのを聞き流す。

「アロン、せっかくカーラから仕込んでもらったんだろ。俺に結果を見せろ!」

「お、おぅ」

どうも締まらないな、こいつは。カーラが肉体言語でわからせないとだめなのか。

「カーラ!お前も大概にしとけよ。仕事の邪魔をしたいのか?」

「ち、違うよ。ごめんなさい、ユウ」

小さな耳を伏せて俺にしがみつくカーラ。

あえて、慰めはしない。

「メル。冒頭から流す。まずはお前の呼び込みからだ」

「う、うん」

ようやく気持ちの切り替えが出来たのか、メルはいつもの感じで舞台に見立てた中庭に中央に立った。

「さあさ、ご来場の皆様!これより我らケルシュマン一座がお送りいたしますのは、誰にも知られぬ英雄譚。とある勇者の活躍でございます!」


「次、ザムザが俺に斬り掛かってきて、そう!俺がそれを避ける!そこでカーラの攻撃だ。カーラ、ザムザに飛びかかれ!ザムザは後退して、それを避ける。そうだ。カーラは避けられて体勢を崩せ。そこをザムザの攻撃!それでいい!カーラは退場しろ」

俺が、立ち回りをつけているのを、マクセルが手にしたワグンを適当に弾いて合わせながら見ている。

マクセルは俺の覚えているいろいろなBGMを鼻歌だけで理解し、覚えて弾ける。

非常に有能な怪人PA 男だ。言わないし、言っても通じないけど。

元の世界ではまずやらない、BGM付きの練習ってやつは、やはりイイ。ノリが違う。


5回ほど最初から最後まで流して、皆の頭に立ち回りが入ったので、一旦休憩。これだけで3時間くらいは動きっぱなしだ。

「ユウ!お昼ご飯!」

呑気なカーラだ。まぁ、確かに昼食時ではあるが。

「俺はお昼ご飯じゃありません」

「うん、ユウはお夜食」

カーラをキッと睨むメル。

どうしていらん反応するかね、カーラは。

さっきの叱りが無駄になってる気がする。


宿の食堂に行ってもいいのだが、気晴らしも兼ねて街なかへ。

この前のカーラへの風当たりに不安はあったが、カーラ自ら行きたがるので、付き合うことに。

メル、アロン、マクセルも着いてきた。

「二人で何処かにシケこまないよう監視だ」

なんてマクセルの言葉に、過剰反応するメルとアロン。

シケ込まねえよ。まったく。

「マクセル、どっかいい店知らないか?」

「ん?知らなくはないが⋯カーラ、お前は行きたい店ないのか?」

「ないよ。知らないもん」

「そ、そうか、うん、ここは俺のお勧めの店に連れて行ってやろう。うん」

困るよな。わかるけど。カーラに振らなきゃいいのに。どうせこんなこったろうと思ったから、敢えてマクセルに振ったのに。


五分ほど大通りを歩くと、マクセルがひょいと路地に入った。その路地はもうもうと美味そうな香りの煙が立ち込めた、人と人がすれ違うのもやっとの狭い路地だ。

だが、

「わかる!美味い店ってこういうところにある!」

と叫ばずにいられない。

「わかってんじゃねえか、ユウ。安くて美味い店、ほら、ここだ」

と、マクセルが指差す先に、もはや煙幕を張っているレベルに煙が立ち込めた掘っ立て小屋があった。

「え?だ、大丈夫なの?」

メルが若干引いてる。若干で済んでいるのは、美味そうな匂いがしまくっているからだ。

カーラとアロンが妙に静かだが、姉弟揃ってよだれを垂らしてこっちを見てるからだ。

「あいつらがみっともないから、早く入ろうぜ」

俺はマクセルを促す。

マクセルは苦笑いをしつつ、先頭きって小屋の中へと入った。

「五人前、大至急な!」

「やかましい!順番に焼いてやるから待ちな!」

雑な注文に粗暴な返答が帰ってきた。

「ねえ、ユウ。大丈夫なの、ここ?」

「安くて美味い店にありがちなことだ。メル、お前って結構上品に育ってきたのか?」

「逆に下品に育って来たように見えるってこと?」

「エルフ様は森で樹の実をお食べになってお育ちになったんでしょ?」

「カーラ、絡むなって」

「道端の何かを拾って食べるグラスランナーより上品なのは確かね」

「メルもだ!」

蚊帳の外であるアロンは、席に座ってもよだれを垂らし続けている。平和だな、こいつ。

マクセルは、もはや見物人というか、芝居の観客だ。

「そのやり取り、舞台でやれよ」

「やんねえよ!」


程なく運ばれてきた山盛りの串焼きは、ものすごく美味かった。

異様に安い値段と、頑なに材料を言わない店主が気にはなったが⋯


昼飯を食ってから30分程経った。

宿の中庭に戻ってきてはいるが、皆三々五々、好きなことをしている。

ザムザとレイガは何かチェスっぽいボードゲームをしている。

ルリハとメルは、その様子を見物。

マクセルはワグンを弾きながら、なんか鼻歌中。

アロンは大の字で爆睡してるし、カーラは俺の肩に頭をあずけてウトウトしてる。

当の俺は自分の書いた脚本を読み直し、何度も頭の中で動きを反芻する。

そんなところに座長がデニガンとネーベラを連れてやってきた。

「ユウ、一旦一通り見せてもらえるか?」

「了解。ほら!お仕事再開の時間だ!」

と皆に活を入れつつ、案の定起きないアロンを蹴飛ばして起こす。

「ふえ?あれ?あ、あと少しだったのに」

なんの夢を見ていたんだか知らないが、さっさと仕事モードに入ってほしい。


で、座長によるチェックの始まりだ。

文句は言わせないが。

中盤で戦闘員に攫われる子供役はデニガンとネーベラで。

デニガンは終始不機嫌でこっちの言うことを聞かないし、ネーベラは

「あらあらあら」

とか言いつつ、こっちの言う事を聞いて動いてくれた。

実際、子供を連れてきても、デニガンみたいな反応することもあるので、いい経験だ。

本人は本気で不機嫌だっただけだと思うが。

そしてラスト、ザムドが魔王であるレイガを倒してお姫様のルリハを抱きしめて、めでたしめでたし。

なわけだ。

「ユウ、今回はルリハは戦わせないのか?」

「英雄であるザムドの強さを際立たせるため。もう一つは、その強さの足かせにさせるため、かな」

「なるほど。女戦士な姫より、守護対象の姫の方が、受けが言いと踏んだか」

「ゆくゆくはルリハの着けてるティアラを子供向けに商品化してみたい。女の子向けってやつだ」

「⋯いいだろう。今回はこの流れで行こう。デニガン、アロン、商品化するティアラに関して、ユウと相談しておけ」

デニガンがあからさまに嫌そうな顔をしているが、いや、仕事だからな?ほんとに、このドワーフは。

アロンは疲れて、隅で息も荒く座り込んでいる。でも、動きは良かったし、流れもきちんと覚えていた。

なんだろう、中身、別人か?

とにもかくにも座長のOKもスムーズに出たんだ。ロイナンシュッテでの公演は、この脚本でいかせてもらおう。

さて、明日の本番に向けて、あと3回ほど、軽く流しますか。

と、アップを始める俺を、悲しそうな目で見てくるアロン。

お前は姉の体力を見習え。


一通り練習を終え、俺とカーラは部屋に戻った。

「ユウ、お風呂行こ!」

この宿には宿泊者が使える風呂がある。この世界ではかなりレアで豪華な話らしい。しかも温泉だ。超えてきた山は火山じゃなかったし、この辺、他に山はなさそうだし、どうなってんだ?

その辺の地学的なことなんか考えても仕方がない、しがない劇団員なので、気にしないことにした。あるがままを受け入れる。それが、この世界で生き延びる秘訣の一つだ。

「どしたの?早く行こう?」

「はいはい」

風呂はちゃんと男女別なんで、先に行ってくれても一向に構わないんだが。

「ほら、恋人なんだからエスコートして」

「風呂行くのにエスコートも糞もあるか」

「ムードってやつ?」

「夕飯前で、まだ明るい時間にか?」

「じゃあ、夜にも行こう。ムード出せるんでしょ?」

「夕飯の後は、デニガンとアロンと打ち合わせだ」

「⋯⋯二人を静かにさせればいい?」

「良かねぇよ」

この発情うさぎめ。俺だって、明日が本番じゃなければ、そっちの本番したくはあるが。


風呂は別棟になっており、入口で男女に別れる仕様。その辺は元の世界と同じだ。

で、脱衣所に行くと、ザムドとアロンがいた。

レイガは種族的にあまり風呂には入らないらしい。リザードマンは汗もかかないみたいだし。

「アロン」

と、俺が呼びかけると、なぜかビクつくようになった。基本的にカーラのせいだと思うが。

「そう、ビクつくな。今日の芝居、良かったから褒めてやろうと思っただけだ」

「⋯⋯罠?」

「なんのだよ」

「アロン、ぼくから見ても良かったと思うぞ。ぼくのそこそこ本気の斬り付け、うまく避けたし」

「本気で斬るなよ」

「そこそこだってば」

なんか、ザムドが怖くなってきた。

「ほら、芝居だからこそ、手抜きは出来ないだろ?」

「ごもっとも」

なので、次から、ザムドと俺の立ち回りは減らそう。


それから湯船に浸かり、俺はザムドの昔話を少し聞いた。

魔王討伐には参加していないが、その後の数年に渡る残敵掃討クエストには参加したとのことだ。

その程度で貴族に呼ばれるとは考えづらいので、本当は魔王討伐に参加、というか立役者じゃないかと思う。

本人が言いたくないのであれば、あえて突っ込まない。そんな英雄様が、劇団員やってるって事自体、よほどの事情があるんだろうし。

アロンはザムドの話に興味がないのか、そもそも風呂嫌いなのか、さっさと出ていってしまった。

「急に褒められたんで、照れてるんだよ」

とのザムドの見解だが、果たしてどうなのやら。

ま、どうでもいいか。面倒くせぇし。


風呂から上がり、脱衣場から出ると、カーラが待っていた。

「グラスランナーは風呂が嫌いなのか?」

「え?別に嫌いじゃないよ」

「じゃあ、普通、女の方が長風呂だと思うんだが」

「ん?今日するなら、もっと磨いてくるけど」

どこをだよ!と突っ込みたかったが

「しないしない。ほら、部屋帰るぞ」

「はーい」

そんな様子をザムドに微笑みながら見送られる俺の居心地の悪さよ。

お前は微笑んでないで、ルリハをなんとかしてやれ、と言いたい。

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