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8-9 眞瀬木灰砥

「ほいほい、お待たせ」

 

 八雲(やくも)の作業場に(はるか)達を伴って戻って来た梢賢(しょうけん)の軽快さを見て、皓矢(こうや)は笑いながら聞いた。

 

「スジは通してきたのかい?」

 

「おう、バッチリや」

 

 それから硬鞭(こうべん)を八雲に渡してから梢賢は強い意思をこめて言う。

 

「──生まれ変わらせたってや」

 

「承知した」

 八雲も力強く頷いた。

 

「では八雲さん、どこから手をつけましょう?」

 

「うむ、そうだな……」

 

 積極的な皓矢を見て、永が少し揶揄う。

 

「随分楽しそうじゃん?」

 

「うん、そりゃあね。銀騎(しらき)は自分が使う呪具は基本自分で作るけれど、眞瀬木(ませき)は専門家に一任している。そこが眞瀬木の強みだよ、勉強させてもらいたい」

 

「何を言う。(ぬえ)の専門家に立ち会ってもらえるなら私の方こそ勉強させてもらおう」

 

「さいですか……」

 

 すっかり乗り気の専門家二人を見比べて永は呆れながら溜息をついた。



 

「御免」

 

「おっちゃん!」

 

 梢賢達が戻って間もなく、作業場の戸板を開けて眞瀬木(ませき)墨砥(ぼくと)瑠深(るみ)が入って来た。

 

「みな、ここにいると聞いてな」

 

「どうも……」

 

 遠慮がちに入ってきた瑠深の姿に、鈴心(すずね)が弾んだ声で駆け寄った。

 

「瑠深さん!体調はどうですか?」

 

「うん、そこそこ……?バカに借り作ったままじゃあ落ち込んでもいられないしね」

 

「さよけ」

 

 瑠深が、少し元気はないけれど、梢賢に悪態をついた事で梢賢も少しほっとした。なのでいつも通りに返す。

 

 子ども達の反応を見た後、墨砥は一歩進んで永達に向かって頭を下げた。

 

鵺人(ぬえびと)の皆さんには、(けい)が大変申し訳ないことをした。本当にすまない」

 

「いえ、僕らは別に……」

 

 恐縮して慌てる永に続いて、鈴心と蕾生(らいお)も口々に言う。

 

「そうです。結局私達は珪さんを止められませんでした」

 

「俺があそこまで消耗してなけりゃ……」

 

「いや。あの場で皆殺されずに済んだのは貴方方のおかげだ」

 

 墨砥は首を振りながら、皓矢にも視線を送る。それを受けて皓矢も軽く会釈を返した。

 

「あの、良かったら聞かせてくれませんか?珪さんと、灰砥(かいと)さんのこと……」

 

 永はどうしても気になっていた。眞瀬木(ませき)灰砥(かいと)という人物が眞瀬木(ませき)(けい)に与えた影響について。

 

「……身内の恥を話すことになるが、それでも良ければ聞いていただこう」

 

「大丈夫です。恥ずかしい人達の話なら慣れてますから!」

 

 躊躇いながら言う墨砥に、永は皓矢を見ながら明るく答える。心当たりのある皓矢は何も言わずに苦笑していた。

 

「……兄の灰砥は優秀な呪術師だったのだが、実戦を好まなくてね。術を体現するよりは、術体系を開発する方が好きで得意だった」

 

 話し始めた墨砥に皓矢は頷きながら反応する。

 

「たまにいらっしゃいますね、そういう方」

 

「おめーのジジイだろが」

 

 だが、永にそうつっこまれて、皓矢は苦笑してまた黙った。

 

「兄は毎日文献を読んで暮らしていた。眞瀬木が所有するものはどんなに古くても隅から隅まで読み、把握しておかないと我慢ができない性格で──」

 

「そういう人、よく知ってます」

 

 永がうんうん頷いて言うと、やはり皓矢は後ろで苦笑する。

 

「兄が鵺にのめり込むのは自然なことだったのかもしれない。ただでさえ俗世離れしている兄はますます自分の世界、鵺を中心に置いた独自の世界に没頭した」

 

「ええ?そんな陰気な印象ちゃうかってんけどなあ。よく遊んでもろたし」

 

 梢賢が横入りすると、墨砥はそちらを向いて答える。

 

「お前や珪と遊ぶ時はただの気分転換だったからだろう。子どもの無邪気さに当てられれば、どんなに狂気があろうと一時的には薄れるさ」

 

「狂気ですか、はっきり仰るんですね」

 

 永が真顔でそう言うと、墨砥も真面目に頷いた。

 

「まあ、私は兄とは逆で体術を高める方が好きだったからな。私から見れば鵺を崇める兄の行動は奇異そのものだったよ」

 

「それで、十年前に跡目争いが起こったんですね?」

 

「ある程度の想像はつくだろうが、そもそも鵺肯定派は当主になれないのが慣例だ。次代の当主は満場一致で私に決まった」

 

 そこまで聞いた鈴心が続きを促すように尋ねる。

 

「けれど、それに灰砥さんは納得しなかった……?」

 

「いや、そこには兄も不満はなかったと思う。当主なんかになれば、好きな研究に没頭できないからね。ただ、何を思ったのか、兄はとんでもないことをしようとしていた」

 

「何だよ、それ?」

 

 蕾生が聞くと、墨砥は一瞬躊躇ったものの低い声で答える。

 

「……あろうことか、康乃(やすの)様を呪おうとした」

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