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2-7 女傑

「な、成実(なるみ)ですか!?」

 

 (はるか)があまりに驚いているので、蕾生(らいお)は隣の鈴心(すずね)にこっそり聞いた。

 

「なんだ?それ」

 

「かつての(はなぶさ)家の政敵です。治親(はるちか)様が戦で負けた相手です」

 

 鈴心も永に負けないほど驚いていた。そんな三人の反応を気にする風もなく康乃は思い出を語るように言う。

 

「そうね、一度は成実家は政権をとった。その際に滅ぼされた英治親氏は不遇でした。

 けれど、別の英家が盛り返し、今度は成実が倒された。私達は敗戦の際に落ち延びてこの村に辿り着き、名前を変えてここに隠れ住んでいるの」

 

「そう、だったんですか……」

 

雨都(うと)の──当時は雲水(うんすい)一族ね。彼らがここに辿り着いたのはずうっと後の時代になってから。それも偶然よ。

 彼らの境遇に同情した私達がここに匿うことにしたの。それ以来、雨都家にはこの里の神事などを任せています。元々が僧侶の家系でしたからね」

 

 そこまで話したところで、墨砥(ぼくと)が小さな声で釘を刺そうとする。

 

「御前……」

 

「あらいけない、喋りすぎてしまったかしら。次は貴方達のことを聞かせて」

 

 お茶目に笑った顔は、その余裕さを物語っている。

 永は注意深く探りを入れることにした。

 

「ええと、何をお知りになりたいので?」

 

「そうねえ……やっぱり(ぬえ)のことかしら」

 

「鵺、ですか。ですが、そちらでもかなり詳しくご存知なのでは?」

 

 ずばり聞いてくるとは、永は無意識に身構える。大胆なこの女傑はそんな永に向かって柔らかな口調で言った。

 

「そんなことはないのよ。雨都の文献は秘蔵ですから、この私も見たことはないの。雨都はあくまで同盟みたいな関係でね。適度な距離をとっているのよ」

 

「そうですか。でも僕らも鵺の呪いについてはわからないことばっかりで。藤生(ふじき)さんのご満足いく話ができるかどうか……」

 

「お若いのにはぐらかすのがお上手なのね。そちらの(ただ)さん──が鵺に変化(へんげ)できるというのは本当かしら?」

 

 遠慮のないその発言は永と鈴心の体を強張らせた。

 蕾生はドキリと慌てて「違う」と言おうとしても言葉が出なかった。

 

「いや、俺は──」

 

 そんな蕾生を優しく制して、永が代わりに答える。息を吐いて、観念するように努めて冷静に言った。

 

「確かに一度彼は鵺に変化しました。本来はそういう呪いのはずです。今、何か特殊能力のように表現されましたが、それは全くの誤解です」

 

 鈴心もそれに追随する。少し怒った表情で。

 

「私達は彼が鵺に変化しないように、何回も転生を繰り返しているんです」

 

 康乃は少し驚いていた。三人の反応は予想外だったようだ。

 

「そうだったの。気を悪くしたならごめんなさい。では貴方達はその呪いを解く手がかりをこの里に見つけに来たのね?」

 

「おっしゃる通りです。ですから、僕らにこちらで調査する許可を頂きたいのです」

 

 その反応が本心からのもなのかが永には判断がつかなかった。銀騎(しらき)詮充郎(せんじゅうろう)とはまた違った老獪さを感じて、永は急いで本題を提示した。あまり長居はしたくなかった。

 

 すると康乃は即答した。

 

「構いませんよ。必要なことがあれば何でもこの眞瀬木(ませき)墨砥(ぼくと)に言ってください」

 

「ありがとうございます」

 

 その場で永は一礼する。もうこの話は終わりにしてください、と言わんばかりに。

 

梢賢(しょうけん)ちゃん、彼らのお世話は雨都に一任します」

 

「はっ」

 

「では今日はこの辺で。何もない里ですけど、ゆっくりしていらして」

 

 そう言い残して康乃はまた音もなく部屋出て行った。

 

「ふう……」

 

 プレッシャーから解放されて思わず息を吐いた永に、墨砥が急に話しかけた。

 

「私からもひとついいかね」

 

「あ、はい」

 

「御前はああおっしゃっているが、君達部外者が里に入ったことを公にしたくない。君達が調査できるのは雨都家の周辺のみに限定させてもらおう。

 雨都と藤生、眞瀬木以外の住民と触れ合うことは禁止させていただく」

 

 厳しい目でこちらを見る墨砥はまるで番犬の様だった。

 

「──わかりました」

 

「では、私も失礼する。梢賢、くれぐれも頼むぞ」

 

「はあい」

 

 そうして墨砥もまた音もなく部屋を出て行った。残された梢賢が困ったように笑う。

 

「すまんなあ、仰々しいおっちゃんで」

 

「眞瀬木って人は麓紫村(ろくしむら)ではどんな地位なの?」

 

 永が聞けば、梢賢はヘラヘラ笑って答えた。

 

「眞瀬木は藤生の分家や。だから、おっちゃんが自分で行った通り、藤生の側近。ま、門番みたいなもんや」

 

「忠臣って感じですね」

 

 鈴心が感想を言うと、梢賢は頷きながら鈴心と蕾生を交互に指差した。

 

「まあな、君らと似た者同士やないの?」

 

「そうですね……」

 

「そうか?それにしては、なんか違う感じがするな。うまく言えねえけど、ただの手下じゃないって言うか──」

 

 眞瀬木墨砥からは確かに蕾生が永に抱くような絶対的なものを感じていた。

 だが、それだけではなく何か小さな違和感もある。それがわからなくて蕾生はなんだかモヤモヤしていた。

 

「ライオン君、その野生のカンは大事にしいや」

 

「?」

 

 梢賢はそう言って蕾生の胸をつついた。それから明るく言い放つ。

 

「ほなら、いよいよウチに行こか!」

 

 そうして四人は部屋を出てまた人気のない玄関へと向かった。

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