金縛り
暑くて暑くて、それはそれは寝苦しい夜で。
あまりの息苦しさに僕は起き上がろうとしたんですが、体がまったく動きません。
うわぁ、これって金縛りってやつですよね。
んんん?
ふと枕元に何かがいる気配を感じて、僕は怖る怖る薄眼を開けてみたんです。
金縛りの中、渾身の力を込めて瞼をこじ開けてみたんです。
すると。
「!」
すると枕元には知らないお婆さんがいて、僕のことをジッと覗き込んでいるじゃないですか!
しかも僕と目が合うや、その唇がニタアと歪んだんです!
「うわあッ!」
そこで目が覚めました。
「え、ここって何処だよ」
そう。僕がいたのは知らない部屋で。
狭いアパートの一室で、ラックにはたぶん女物の衣服が何着か掛かっています。
僕はエアコンのリモコンを探してみたものの、部屋が暗くてなかなか見つかりません。
そのうちに喉の渇きを思いだしたので、先に水を飲むことにしました。
「えええ、誰だよこれ……」
キッチンにはどす黒いベタベタが、この暗さでもはっきり分かるくらいにあちこち付着していて、そのベタベタだらけの中に若い女の人が倒れていたんです。
もちろん僕の知らない女性です。
僕だって、この人がまったく見ず知らずの他人であることくらいは分かるんです。
「はああぁ……」
さすがの僕も、これでは照明を点ける気になれません。
そしたらだって、このベタベタが本当は黒色ではないことを直視しなきゃなりませんし。
「はああぁ……」
僕はすっかり嫌な気分になってしまい、キッチンで水を飲むこともエアコンのリモコンを探すことも諦めてベッドへと戻りました。
「はああぁ……」
僕は疲れていたんです。
そう。なぜだかとてもとても疲れていたんです。
「いひひひ。みいぃんな忘れて寝ちまいな」
枕元の老婆もそう言うことですし、僕は全てを忘れて寝ることにしたんです。