夏祭りと、めぐる星座と、君の手と
――どん、どどんっ、どぉぉーーーん
フィナーレにむかい勢いを増す花火。夜空が明るく染まる。夏祭りが終わろうとしていた。少年は人波を掻き分け走る。彼の名はナユタ。高校一年だ。……どうしよう。もう待ってないかも……不安な気持ちを抱えたまま、ナユタは走った。
彼女に誘われたのは昨日の部活が終わる頃。天文部の先輩ケイが、帰り支度のナユタへおもむろに声をかけてきたのだ。ケイは二年生。入部したばかりのナユタを何かと気にかけてくれる先輩で、ナユタはつい頼ってしまう。つい彼女を目で追ってしまう。だからだろうか、よく目が合った。そう。ケイは、ナユタの憧れの人だった。
そんな彼女に夏祭りに誘われたのに。
そんな日に限って遅れるなんて。
約束の場所は手水の前。着いた。彼女の姿は……無い。
……あぁ
溜め息。そして後悔。そして首筋がひやり。ん? ひやり?
「遅いよ」の声に振り向くと。
ケイだ。
紺地に鮮やかな朝顔柄の浴衣。朱の帯。いつもと違う編み込まれた黒髪。いつもと違うメイク。その笑顔にナユタはドギマギしてしまう。その手には濡れた手ぬぐいがあった。
……まだかな?
……急に誘って不審がられなかったかな?
……ずいぶん遅いけど事故ってないよね?
ケイがばっちり支度を整え神社に着いたのは約束の二時間も前。巫女さんが何度も声をかける程そわそわと挙動不審だったのはここだけの秘密だ。
彼が入部したその時から、ケイの目は奪われていた。彼と話したい。その一心で世話を焼いた。いつも目で追っていた。だからだろうか、よく目が合った。言うまでもない。ケイは、ナユタに恋していた。
「すみません……」
「や、無事ならいいんだよ」
申し訳なさげなナユタに慌ててフォローをいれる。
「天文部としてはここからが本番だし」
ケイは北の空を見上げる。ナユタも見上げると。そこには青白く輝く一等星。
「今は北の中心にいる織姫を近くで護っている彦星だけどさ、遥か昔は天の川に分かたれて一年に一度しか会えなかったんだって」
「遥か昔ってどのくらいなんですか?」
「一万と二千年くらい前らしいよ」
「へぇ、なんかロマンですね」
二人の距離が縮まる。自然にではなく、お互い様子を見ながら、じりじりとではあるけど。そして触れる小指と小指。一瞬びくっとしたあと、意を決してその手を繋ぎ、指を絡め合う。
月に照らされた二人の影は寄り添い、一つに重なっていった。
いや、超短編は難しい。主人公二人の他にも登場してもらうつもりが、全く収まらなくなったので、大きく方針変更することになりました。ボーイミーツガールなワンシーン、いかがだったでしょうか?