小説家と使い魔
彼女と過ごす日々は楽しかった。今までの人生の中で一番充実しているかもしれない。このまま永遠に続けばいいとさえ思えた。だが、そんな俺にも一つだけ気がかりなことがあった。それは、やはり記憶喪失のことである。いつになったら戻るのか……まったく見当もつかなかったのだ。
「なぁ、メイ……」
「はい?」
「おまえはさ、どうして記憶喪失なんかになっちまったんだ?」
「わかりません……」
「そっか……」
「ごめんなさい……」
「いや、謝るようなことじゃないって」
「ありがとうございます……」
「……」
「……」
……気まずい沈黙が流れる。俺は話題を変えることにした。
「ところでさ……」
「はい?」
「おまえって、どんな仕事に就いてたんだ?」
「あっ、そういえばまだ言ってませんでしたよね?」
「ああ。聞いてなかったよな?」
「実は私、小説家なんです」
「ええっ!?」
「といっても、駆け出しの新人ですけど……」
「マジかよ!?」
「はい。一応、ペンネームは『天野河星乃』といいます」
「アマノガワセイノ?……変わった名前だな」
「はい。自分でも変だとは思うんですけど……」
「いやいや、全然おかしくねぇよ」
「えっ?」
「だって小説書くのに必要だろ? そういう名前はさ」
「あっ……」
「それに、すげぇ良いと思うぜ!」
「ほ、本当に!?」
「ああ!……というより超似合ってるし!!」
「えっ!?……そっ、そうなんですか!?」
「うん!めちゃくちゃカッコイイじゃん!! 俺、マジで感動したよ!!」
「えっ、ええっ!?」
「だから自信持てって!」
「はいっ!」
「よし!じゃあ早速だけど、何か面白い話を聞かせてくれ!」
「えっ?……いきなりですか!?」
「おう!頼むぜ!!」
「う~ん、困ったなぁ……。今、特に思いつかないというか……」
「なんだよ!……せっかく楽しみにしてたのに!」
「ごめんなさい……」
「まぁ、しょうがないけどさ……」
……再び沈黙が訪れる。……すると、メイが突然立ち上がった。
「あの……」
「なんだ?」
「少し散歩に行きましょう」
「おっ、いいね!行こうぜ!!」
「はい♪」
俺はメイと一緒に外へ出た。
「気持ちいいですね」
「そうだな」
心地よい風と暖かい陽射しを感じる。まるで春のような気候だった。
俺たちは無言で歩き続けた。そして、しばらく歩いた頃……。メイが俺の前に立った。
「どうした?」
彼女は無表情のまま両手を広げると、ゆっくりと目を閉じた……。……次の瞬間、彼女の身体が眩しく光る。
「なっ、何だよコレ!?」
あまりのまぶしさに思わず手で目を覆う。やがて光が収まると、そこには一人の少女が立っていた。……いや違う!これは人間じゃない!そこにいたのは、背中から天使のように真っ白で大きな翼を生やした、美しい女性の姿であった。
「あなたが私のマスターですね?」
「えっ?……マスター?……どういう意味だ?」
「私はあなたの使い魔です」
「つかいまっ?……ちょっと待ってくれよ! 話が見えないんだけど!?」
「詳しい説明は後でします。今は時間がありません」
「時間が無いって……一体なんの話をしてんだ!?」
「お願いです。どうか私を信じてください」
「信じるって言われてもな……」
「信じていただけないなら仕方ありません」
「ちょっ、おい!どこ行くつもりだ!?」
女性は振り返ることなく飛び去って行った。




