ドアの鍵
左門は不思議そうにしている。
「でも、佐助さんはどうして僕の部屋に来られたんですか? 確か、この部屋の鍵はかけておいたはずなんですが」
「ああ、そのことなんだがさ」
佐助は頭を掻いている。
「実は、鍵なんてかかっていなかったんだ」
「え?」
左門は目を丸くした。
「どういうことです?」
「つまりさ」
佐助は困り顔になった。
「お前さんの部屋に入った時、ドアにはちゃんとカギがかかっていたんだよ。だけど、すぐに壊れちまったんだ」
「壊れたって……まさか!」
左門の頭の中に一つの可能性が浮かび上がった。
「あなたの仕業なんじゃないですか!?」
「違うってば」
佐助は慌てて否定している。
「俺じゃねえよ。それに、もしそうだとしても、どうして俺に罪を着せようとするんだよ?」
「それは……」
左門は口籠もってしまった。
「すみません。咄嵯に思いついたことなので、理由までは考えていませんでした」
「まったく、お前さんは相変わらずだなぁ」
佐助は呆れた様子を見せている。
「まあ、いいさ。とにかく、お前さんの部屋の中に入ってみたんだけどさ。その時に気がついたんだよ。窓が開いてたから、そこから逃げたんじゃないかってな」
「なるほど」
左門は納得してみせた。
「それで、わざわざここまで追いかけて来てくださったわけですね」
「そういうことだ」
佐助は大きくうなずいた。
「お前さんの身に何かあったらと思うと気が気でなくてさ。居ても立ってもいられなかったんだよ」
「そうですか」
左門は嬉しそうな顔をしていた。
「そこまで思ってもらえるとは光栄です」
「まあな」
佐助は照れくさそうに鼻の下を指先でこすっていた。
「ただ、お前さんの無事な姿を見た途端、安心しちゃったせいか、急に腹が減ってきてさ。お前さんの分と合わせて二人分の弁当を買ってきたから、一緒に食おうぜ」
「はい」
左門は大きくうなずいた。
「ところでさ」
佐助は箸を動かしながら言った。
「お前さん、これからどうするつもりなんだ?」
「そうですね」
左門は考え込んだ表情をしている。
「とりあえず、ここを出ようと思っています」
「出る?どこにだよ?」
佐助は眉間にシワを寄せている。
「もちろん、元の世界にですよ」
左門は平然と答えた。
「元の世界だって?」
佐助の顔色が変わった。
「おい、ちょっと待ってくれよ。お前さんはこの世界の住人だろ。なのに、何でそんなことを言い出すんだ? 意味が分からんぞ」
「いえ、僕はこの世界の人間ではありません」
左門はきっぱりと告げていた。
「だから、ここから出て行かなければならないんです」
「ちょっ、ちょっと待った!」
佐助は慌てふためいていた。
「この世界の住人じゃない? それじゃあ、お前さんは一体何者なんだ?」
「僕の名前は左門召介。魔術師です」
「そいつぁまた……」
佐助は困惑した顔つきになっている。
「随分と変わった経歴の持ち主だな」
「よく言われます」
左門は笑顔で応じている。
「でも、この世界での暮らしも悪くないんですよ。毎日が刺激的で楽しいんです。特に、あなたのような素晴らしい人と巡り会えたことは、僕にとって幸運以外の何ものでもありませんでした」
「お、おお……そうか」
佐助は頬を引きつらせながら笑っている。
「ところで、一つ質問があるのですけど」
左門は真面目な口調になった。
「この部屋のカギを壊したのは、やっぱり佐助さんなんですか?」
「いや……」
佐助は首を振った。
「俺は壊していないってば。そもそも、この部屋の鍵は壊れていなかったんだよ」
「え?」
左門の目が点になる。
「じゃあ、どうして鍵が壊れたって言うんですか?」
「ああ、それはさっきも説明した通り」
佐助は頭を掻きつつ答えた。
「俺が来た時には既に壊れていて、ドアが開いていたんだ。それで、それで、中に入ったら鍵がかかっていたってわけさ」
「なるほど」
左門は納得してみせた。
「そういうことだったんですね」
「そうだ」
佐助はうなずいている。
「俺も驚いたよ。まさかカギがかけられていないなんて思わなかったからさ。でも、おかげでお前さんの部屋に入れたんだから、結果オーライってところかな」
「それは良かったです」
左門は微笑んでいる。
「ところで、佐助さん」
「うん?」
「佐助さんは、どうしてここに来られたんですか?」
左門は再び尋ねた。
「実はさ」
佐助は困り顔をしている。
「俺にも分からないんだよ。気がついたらいつのまにかこんなところにいてさ。正直、途方に暮れてるって感じなんだ」
「なるほど」
左門は大きくうなずいた。
「それは大変ですね」
「そうなんだよね」
佐助は苦笑いを浮かべた。
「ただ、お前さんの部屋に行けたことだけはラッキーだったよ。他の連中のことはまだ全然知らないからさ。もし、お前さんさえ良ければ、いろいろと教えてくれないか?」
「はい、喜んで」
左門は大きくうなずいた。
「といっても、僕もまだこの世界のことについては詳しくないのですが……。とりあえず、僕たちの知っている情報を交換しましょう」




