ギルド
今日もいつものように冒険者ギルドへと足を運ぶ。早速、掲示板へ近づき依頼書を確認する。
(ん? なんだこれ?)
それは、この街の住人なら誰もが知っているであろう有名なクエストの一つ。そう、所謂定番イベントだ。
「迷い子を探してください」
その仕事の依頼書を見て、思わずため息が出そうになった。理由は単純明快。報酬額がショボすぎだからである。
迷子のペット探しに300パラムだと!? ふざけているのか! 1匹探すたびに赤字になるではないか! そもそもこんなもの受ける奴がいるのか? いるとしたら相当な阿呆に違いない。しかし、現実問題としてこの街ではよく見かける光景でもある。それにしても300パラムとは……
他の依頼を探そうとして、背後から声をかけられた。
「ちょっと、いいかしら?」
振り返るとそこには一人の女性がいた。年齢は20代後半といったところだろうか? スラリとした体型に黒いローブ姿。フードを被っていて顔はよくわからないが美人であることだけは分かるる。
「あー、えっとですね。実はこのクエストを受けたくて仕方がないんですけど、報酬が安過ぎでぇ~」
何故か意味不明なことを口走ってしまった。どう考えても馬鹿っぽい態度を取ってしまう自分が嫌になってしまう。そんな私の言葉を聞いた黒衣の女はしばらく考え込む仕草を見せる。だが、次の瞬間には笑顔になってこう言った。
「そうね。じゃあお姉さんといいこと考えちゃおうかな~。お小遣い稼ぎにもなることだし!」
それから数日後のこと。私は公園の噴水前に座っていた。そこに彼女が現れて尋ねた。
「隣に座っていいですか」
「構いません」
しばらく間があった後で彼女が尋ねた。
「今日はどんな夢を見る予定?」
「そうだね……いつも通りの夢だよ」
私は答えた。
私は初心者の格好をしたプレイヤーに騙されなかった。
「……まぁいいわ。私は私の仕事をするだけだもの」
私は気を取り直して仕事に戻ることにする。先ほどと同じように杖で床を叩き、詠唱を行う。今回は火の魔法である。
「ファイアーボール!!」
しかし、何も起きない。
「どうして?何が悪いっていうのよ!」
そう言いながら再度床を叩くが結果は同じだ。
「もうっ!なんなのよ!!」
私はこの世界に来て初めて焦りを覚えた。
「くそっくそくそくそ!!お前らのせいでぇえええ!!」
今までの鬱憤を晴らすかのように叫び始めた。それは魔法使いとは呼べない姿であっただろう。周りではその様子を見ている人々がいたわけであるが、誰も特に何をすることもしなかった。関わりたくなかったということもあるだろう。