第1章 第6話
あの後、俺は如月の口撃から逃れるためトイレに向かった。というか如月、「いもらぶ」のことになるといつものお淑やかさはどうしたんだってくらいに人が変わるなぁ。まぁあれが彼女の素の姿なのかもしれない。と、俺は水原からLINEが来ていたことを思い出す。アイツもあの状況でLINEとかぶち込んでくれるもんだな。俺はLINEを開き水原のメッセージを開く。
「っ!」
これで如月さんと友達になれるよ。存分に私に感謝するといい
その文面を見た瞬間、俺は心臓を刺されたような気分になった。正直に言うが、俺は水原葵を舐めていた。アイツも選ばれた人間で、今まで苦労もせず、生まれ持った才能だけで生きてきたのだと思っていた。自分が考え、発言したことは今まで他人から否定されたことがない。だから俺の人生を楽しくする、という目標など自分の人生が楽しいから、自分の価値観が素晴らしいから、それを他人に押し付けようとしているのだと思っていた。極論、人の気持ちなど、どうでもよく自己中に自分の意見を押し付けようとしているのだと思った。人の気持ちが分からないのだろうと思った。他人に興味がないのだろうと思った。だからあまり期待していなかった。しかし彼女は如月を見ていた―
人をよく見ていた。
最初に通知音が鳴った時、俺が水原に睨まれたのは、俺の通知音が鳴ったことでクラスの全員から引かれ、俺の人生を楽しくする難易度が上がったから、ではない。如月の通知音が鳴ったことに俺が気づかなかったからである。そして俺の慌てぶりから俺も同じ通知音だと気づいた。だからわざと俺にLINEを送り如月と俺を近づけようとしたのだろう。そうすることで実行委員での交友の難易度を下げようとしたのだ。
再度言うが、俺は水原を舐めていた。だが今回のことで俺は水原の本気度を確認した。なぜ俺なんかを助けようとするのか、やはり理由は分からない。だが俺は水原なら、彼女なら信じてもいいのではないかと思った。いや信じたいと思った。そして俺は最高の尊敬を込めて水原にLINEを送った。
ありがとう。これからよろしくお願いします
と。そして俺は今まで水原を舐めていたことを本気で反省し、本気で自分の人生を変えることを決意をするのであっt
「LINEだよ!おに〜ちゃん♪」
そんなときまた場違いな通知音が鳴る。お兄ちゃん今めちゃくちゃ反省してたのに、ほんとにお兄ちゃんが好きだねぇ〜。あとで構ってあげるからちょっと待っててね。……俺キモイな。まぁとりあえず、LINEを開く。当然水原からである。俺は水原のメッセージを開く。とそこには―
どうしたの?気持ち悪い。私に依存するのはやめてよ?気持ち悪いから
気持ち悪いって2回も言ったよ!俺が自分で言ったのを入れて3回だよ!
俺が信じようとしている人間はどうやら俺のことが気持ち悪いらしい―
読んでいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!