第1章 第2話
夏休みが終わり、今日から学校が始まる。ぶっちゃけ行きたくない。休みたい。俺は夏休みが終わってから3日は必ず休むと決めていたが、今日はそうもいかない。昨日あの後、明日は必ず学校へ来るように水原に言われたのだ。だから遅刻してでも行かなければならない。今日は学校初日ということで、11時半には帰れる。だから10時には学校へ行かなくてはならない。今の時刻は7時45分。8時40分までに学校へ行かないと遅刻になってしまう。なので俺は9時半まで寝ることにした―
「お兄ちゃん!朝だよ!起きてー!お兄ちゃん!朝だよ!起きてー!」
妹ボイスに起こされ俺は目を覚ます。今日も俺のスマホの中の妹はかわいい。そんなことはさておき、学校へ行くとしよう。俺はテキトーに歯を磨き、寝癖も直さず外へ出る。
「さて、行くか」
学校では今は始業式の途中らしい。俺は遅刻したのでとりあえず職員室へ行く。すると
「葛島。また遅刻か?」
短めの黒髪に全身ジャージの女性が話かけてきた。
「沢城先生。そうですがなにか?」
沢城 杏奈。うちの高校で保健室の先生をしている。美人で胸がデカい。俺が遅刻する理由の1つはこの先生と話すことだ。まぁこの人、口がものすんごい悪いんだけど。
「お前はそろそろ態度を改めないと、2年生になれねーぞ。成績も悪りぃ、口も悪りぃ、学校には週3で遅刻。ほんとに留年するんじゃねーか?」
この人に口が悪いとは言われたくないが、ごもっともな意見である。
「まぁ、そうっすね。善処します」
俺はテキトーに返事をする。
「それじゃあ今日は始業式に行かないといけないんでこれで」
「おぉ!珍しくまともなことを言ってるじゃないか。私は感動しているぞ…」
そう言って、わざとらしく目頭を抑える沢城先生。この人は俺をなんだと思ってるんだ。今日は急いでいるので一々ツッコんではいられない。俺は小走りで体育館まで行った―
始業式も終わり、教室へ帰り先生の話を聞く。そんなことが終わり下校時刻がきた。水原は今日学校へ必ず来いと言っていたが、未だに話しかけてくる気配はない。そんなことを考えていると後ろからふと声がした。
「龍斗、今日俺部活ないから久々に一緒に帰んね?」
コイツは俺の唯一の友人、月島 悠矢。爽やかなイケメンで女子からはモッテモテ。しかもサッカー部で彼女もいるという。俗に言うリア充というやつだ。なんでこんな俺と真逆なやつが友達かって?小中学校が同じで家が同じマンションだからである。要するに腐れ縁ってやつだ。コイツからの誘いは友達のいない俺にとって嬉しい。だが今日は水原のほうが先約なので断らなければならない。
「今日俺まだ用事あるんだは。悪いな」
俺がそう言うと悠矢は信じられないといった表情をした。
「おい」
「あぁ。いやぁすまん。お前が学校に用事があるなんて聞こえたもんだから、つい驚いてしまって。まぁ俺の聞き間違いだから気にすんな」
「おい」
沢城先生にしろ、悠矢にしろ俺をなんだと思ってるんだ。学校に用事があっちゃ悪いか。
「聞き間違いじゃなかったのか。ならしょうがないな。じゃあまた明日」
そう言って悠矢は教室を出て行った。というか本当に水原が話しかけてくる気配がない。なんだ?昨日のは夢だったのか?未だに水原はクラスの女子達に囲まれている。仕方がないので教室でラノベを読むことにした。やはりラノベは面白い。ヒロインの可愛さが文章だけではなく、イラストでも表されている。本当にニヤニヤが止まらない。と言いたいところだがここは学校だ。ニヤニヤして変な笑い声でも出していたら黒歴史確定だし、女子からは気持ち悪いと言われ、俺はただのぼっちからキモイ奴へとイメージが変わってしまう。なので十分に気をつけなければならない。俺がラノベを読み進めていると、水原を囲んでいた女子達がヒソヒソ何かを話ながら教室を出て行った。すると水原が呆れたような顔をしてこちらへ近づいてきた。
「おっ。やっと話が終わったか」
「終わったんじゃなくて、終わらざるを得なかったんだよ」
と水原がよく分からないことを言った。喧嘩でもしたのだろうか?まぁ女子同士の喧嘩はなかなかめんどうな物だと聞くし水原も意外と大変なのかもしれない。
「喧嘩なんてしてないけど、君はさっき、ただのぼっちからキモイ奴へとイメージが変わったみたいだね」
「!?」
え?まさか漏れてた?笑い声漏れてた?ニヤニヤしてた?え?ニヤニヤしてた!?てかだからなんで俺が考えることが分かるんだよ!
「はぁ。なんで君は自分で人生の難易度をどんどんあげるのかなぁ」
ごもっともです。すいません。
「ごめんなさい」
素直に謝るしかない。
「まぁクラスの一部の女子から嫌われてしまったけどまだ男子もいるし、一部じゃない女子もいるしね。それと学校でラノベ読むの禁止ね」
グハッ。これは痛いが仕方がない。
「昨日私は今が大切と言ったのを覚えてる?」
「あぁ」
確かに昨日、「今が大切だよね!」って言ってたけど具体的にはなにをするのだろうか。まさか遅刻禁止とか!?
「遅刻はもちろん禁止だよ。ずる休みもね。やぶったら君のラノベを燃やす」
「怖すぎだろ!やめろよ!」
人の物を燃やすなんて正気の沙汰じゃない。しかも俺の一番大切な物だし。コイツなかなか性格悪いぞ。
「燃やされたくないなら守るしかない。約束だから…ね♡」
そう言って水原は人差し指を顔の横に立て、ウィンクした。
畜生!悔しいが可愛い。こんなお願いの仕方されたら守る以外の選択肢がない。
「君は扱いやすくていいね」
人を扱いやすいだとかふざけやがって。まぁ今回は心の広い俺に免じて許してやるがな。可愛いから許したとかじゃないからな。
「それで今が大切ってどうすんだ?」
俺がそう質問すると水原は自信満々な顔でこう答えた。
「もうすぐ林間学校があるでしょ?それを全力で楽しむ」
林間学校。それはリア充が彼氏、彼女と共にキャピキャピするだけの行事。俺のような非リアには全く関係のない行事。そんな行事をコイツは全力で楽しむなどと言ったのだ。
「楽しむために君には林間学校の委員になってもらう」
「お前本気で言ってんのか?さっきキモイ奴になった俺が男子の委員になったら女子の委員が決まらねぇじゃねぇか」
自分で言っててとてもとても悲しくなる。
「君、それを自分で言って悲しくないの?」
「悲しいわ!くそ!」
本当に痛い。心が痛い。
「まぁそんなことは置いといて、女子の委員は私がやる。これなら君の悩みである女子の委員も決まる」
「俺の悲しみがそんなこと呼ばわりされてることについては異議があるが、確かにそれなら委員が決まるな」
だが問題はもう一つある。それは―
「班決め…だね」
そう。班決め、である。これは俺のような友達いない勢からしてみると本当にキツいものだ。好きな人と班組んで〜制度を取り入れたやつ。ぶっ殺してやる。
「それに関しては私に任せといてよ」
水原は自信満々に胸を張った。彼女の豊満な胸が揺れる。いいものを見た。ありがとうございます。
「君、やっぱ自殺させとけば良かったね」
水原は自分の胸を両手で隠すようにしながら両手の中指を立ててきた。
「だからなんで俺が考えてることが分かるんだよって!」
「はぁ。君みたいな変態に絶対あげたくないけど。とっても不本意だけど。ものすっごい嫌だけど。LINE交換しよ。これから君に協力していく上で必要だから」
「いいのか!?すっごい嫌われてるみたいだが、嬉しいぜ!」
こうして俺のLINEの友達は4人になった。
読んでいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!